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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
2章 とびだせリージスの樹海

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61話:ゆるキャラと銀冠

銀冠ぎんかん?」

「銀冠というのはですね、戦闘能力に限定して証明された冒険者証のことなんですよー」


 冒険者の仕事は多岐にわたる。


 メジャーな依頼だと討伐や護衛、狩猟や採取などだ。

 しかしマイナーになると商品の買い付け、街の下水道のドブさらい、孤児院の子どもたちの子守り、引っ越しの手伝いといった何でも屋じみた内容になる。


 エドワーズの説明によると銀冠とは戦闘に特化した依頼、すなわち討伐と護衛と狩猟に限定して受注できる資格のことを差すそうだ。


 運転免許証のオートマ限定みたいなものか。

 まあ現時点で戦闘能力しか披露していないのだから、そういう評価になるのは当たり前かもしれない。


「ちなみに本当の初心者が冒険者になった場合は、採取のみ許された銅冠から始まるんですよー。そして実績を積んで戦闘もそれ以外もこなせるようになったら、金冠冒険者と呼ばれるようになります」


「なるほど、金銀銅で依頼の受けられる種類が定められているのか。なら第三位階というのはなんです……だ?」


「位階は冒険者の階級です。第五位階から始まり頂点が第一位階となります。階級が高いほど高難易度で高報酬の依頼が受けられますよー」


 言葉遣いでもたつきながらのゆるキャラの質問に、エドワーズがニコニコしながら答える。


「第五位階は新米、第四位階で独り立ち。第三位階からそろそろ中堅で、第二位階になると一流冒険者ですねー」


「あれ、第一位階は?」


「超一流ですよー。第一位階になるには国家か宗教組織の推薦が必要です。そして推薦されたその組織の〈お抱え冒険者〉となります。なので在野では第二位階が頂点なんですね」


 冒険者ギルドは国家の垣根を越えた大陸規模の組織なんだそうだ。

 なのに冒険者の上層は国家などに占有されているあたりに、しがらみを感じる。

 結局より沢山の金を出すのが国家や宗教組織だからだろう。


「それじゃあ冒険者証を発行しますので、あとは下の受付でお願いしますー」


 シンクの姉たちについては、レヴァニア王国内で冒険者として活動した履歴がないか調べてくれることになった。

 一週間後に再び訪れる約束をして、ギルドマスターの執務室から退室する。


「あのう、トウジ様ご迷惑をおかけしてすみません」


 神獣騒ぎの事を気にしてか、終始恐縮していたリリエルから謝罪を受ける。


「別に実害があったわけでもないし気にしなくていいよ」

「いいえ、そうはいきません。戒めとしてわたくしめを罵っていただければ……」

「いや、そういうのはいいから」


 事あるごとに何故か罵られたがる羊人族の美女の要求は断る。


 物心ついた時から奴隷だったリリエルは、感情の起伏が乏しい幼年期を送った。

 冒険者になってからは感情を発露できるようになっていたが、どうにも歪んだ性癖が隠せていないので、手放しで喜べるかと言われれば正直困ってしまう。


「もしかして冒険者仲間、というかご主人様からは罵られてたのか?」

「いいえまさか!ご主人様は紳士でした。本当に優しくしてもらいましたし、私から要求したこともありません」


 じゃあゆるキャラも紳士でいさせてくれよ……。


 一階に降りると、改めて冒険者たちの注目を浴びる。

 ただし訓練場で実力を見せたからか、当初のような驚きや困惑した雰囲気は少ない。


「あれがリリエルの神獣様……」

「戦闘試験でシナンに勝ったらしいぞ」

「まじかよ。あんな見た目で俺より強いのか」

「可愛いくて強いなんて最強じゃない……!」

「ん、可愛いは正義」


 最後のはゆるキャラの首元に抱き付いている竜族の幼女、シンクから発せられた言葉だ。

 鼠人族もどきの高い評価にご満悦の様子。


 時刻も夕方に近づき冒険者ギルド内も混み合ってきた。

 受付カウンターも空きが無かったので適当な列の最後尾に並んだのだが、受付嬢に呼ばれて別室に案内される。

 なんだか割り込んだみたいで、小市民のゆるキャラの中の人的にはちょっと気まずい。


「それではこの冒険者証に登録致します。こちらの針で指を刺して、血を冒険者証に押し付けてください」


 出てきたのは軍隊の認識票ドッグタグのような銀色の金属の板と、朱肉が入ってそうな丸い入れ物だ。


 入れ物は蓋を取ると、中には長めの針が上向きに取り付けられていた。

 剣山の一輪挿しだ。


 針は使いまわしなのだろうか?そうなら使い終わる度にちゃんと消毒しているのだろうか?

 現代人的には衛生面が非常に気になる。


 仮に最強の侵略なエイリアンがいたとしよう。

 彼がもし異世界の一般的なバクテリアに感染したとして、それに対する免疫がなければ、いかに最強でも下手をすれば死んでしまうのだ……というのを昔映画で見た。


「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない」


 意を決して親指の腹で針を押し、ぷくりと出てきた血を金属の板に押し当てる。

 すると不思議なことに、板に付着した血は溶けるように消えて無くなった。


「はい、ご協力ありがとうございました。トウジ様を第三位階の銀冠冒険者として登録しました」


 この冒険者証には名前と階級が刻印されている(ゆるキャラは読めないが)。

 色は金銀銅と三種類あり、各冠に対応していた。


 また本人の血を染み込ませたことにより、もし他人の冒険者証を奪ってなりすましたとしても、登録された血で照合できるそうだ。

 もちろん血の登録は一つの冒険者証につき一回のみで、上書きは不可である。


 更には特殊な金属で作られているため、階級が変われば刻印は打ち直せるだけでなく、なんと色の変更までできた。


 何だか色々とオーバーテクノロジーのような気がしなくもないが、冒険者ギルド最先端の魔術具技術により実現しているのだとか。


 出来上がった冒険者証には鎖が通してあるため、そのまま首にかけ……首が太くて長さが足りないので、首に巻いているマフラーに括り付ける。

 そんなゆるキャラの様子をじっと見つめる紅い瞳があった。


「ん?シンクどうした?」

「わたしもそれ欲しい」

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