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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
2章 とびだせリージスの樹海

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60話:ゆるキャラと試験結果

 シナンの鉄をも断ち切る鋭い刃が、ゆるキャラの肩口に到達する。

 エゾモモンガの灰褐色の毛並みは、為す術もなく切り裂かれ……。


 ガキン!


 左肩に殴られたような鈍い痛みが走ったが、肉や骨まで達した感覚は無い。


 目の前で剣の刃先が舞っていた。

 ゆるキャラの剣の刃先は、既にシナンに断ち切られて失われている。


 つまりこれはシナンの剣の刃先だ。

 刃先のすぐ向こうで驚愕の表情を浮かべているので、彼にとっても予想外の出来事だったようだ。


 シナンは剣を振り下ろした動作のまま硬直している……理由はよく分からないが今がチャンスか。


「うおおおお!」


 刃先の無い剣を放り投げ、無防備なシナンの横っ面をオジロワシの翼で打つ。


 頬に抉るような一撃を受けてシナンが水平に吹っ飛んでいく。

 受け身も取らずに石畳の上を転がり続けて場外まで飛び出す。


 そして訓練場の隅にある射撃訓練用の、矢の刺さった藁人形に激突してようやく止まった。


「はーいそこまでー。これにて戦闘試験を終了します。ドラミアーデさん、シナン君を回収してください」

「あいさー」


 エドワーズの指示で神官服を着た女性が、藁にまみれて微動だにしないシナンのもとへ向かう。

 確か試験中にシナンへ野次を飛ばしていた一人だ。

 大柄な女性で背が高く、紺色の長い髪を編み込んでいる。


「ふーむ、これは顎にいいのを貰って気絶してるね。《小治癒》でもかけてほっときゃそのうち目覚めるわ」


 彼女はそう診断すると、シナンを軽々と担いで訓練場から退場した。


「あの……肩は大丈夫ですか?神獣様」


 パワフルな姿に見とれていると、不意に声をかけられる。

 目の前にいたのは小柄で、シナンを担いでいた女性と同じ神官服を着た少女だ。

 栗色の髪をショートカットにしていて、焦げ茶の瞳がゆるキャラの肩口をじっと見つめている。


「すこし屈んで頂けますか?肩の傷を確認しますので」

「あ、はい」


 言われるがままに屈むと、少女はゆるキャラのシナンに切られた肩あたりの毛をかき分ける。


「すごいわ……訓練用で刃が潰してあったとはいえ、シナンの一撃を受けて無傷なんて。ああ、それにしてもなんて良い手触りなのかしら。今は埃っぽいけど、綺麗にした後抱きしめたら気持ちよさそう……」


「ええと、あの」


「はいクリスさんも治癒が不要だったら引き上げますよー。職員の皆さんもサボり時間は終了ですよー職務に戻ってくださーい」


 学校の先生のように手を叩いて、エドワーズが野次馬たちを訓練場から追い出す。

 そのおかげで毛皮を撫でながらうっとりしている、クリスと呼ばれた少女からゆるキャラも無事解放された。






「つまり切れ味が増すのは対金属だけなんですか?」

「ああそうだ、そういう加護だ。だから剣を切り落とした後はじっくり、なまくらでお前を痛め付けてやるつもりだったんだよ。まさか折れるとは思わなかったけどな」


 ゆるキャラの問いにシナンが殴られた頬をさすりながら答える。


 戦闘試験を終えて小一時間が経過していた。

 ゆるキャラたちはギルドマスターの執務室に戻ってきている。


 面子は気絶から回復したシナンと、ゆるキャラの毛皮に興味津々なクリス嬢が増えた。

 迂闊な名前の省略の仕方をすると、ちょっと危険なドラミアーデ嬢はいない。


「その毛皮があれば俺の蹴りも効かないだろう。お前それが分かってて避けてただろ?」

「ええまあ、ご指摘の通り俺は未熟なので、折角だからシナンさんの胸をお借りしようかと思いまして」


「戦闘試験は訓練じゃねえんだよ。てかその変な喋り方もやめろよ」

「む、わかった。じゃあ普通に喋るが……」


「私たちに対しても敬語は使わなくていいですよー。神獣様なんですから」

「え、その神獣設定って公式なんですか?」


 リリエルは神獣様だと吹聴していたかもしれないが、ゆるキャラ自身としては鼠人族の一種くらいの認識である。

 そのことをエドワーズに伝えると……。


「リリエルは正式な〈混沌の女神〉の巫女であり、〈混沌教〉の司祭です。素性がどうであれ、彼女が神獣として崇めている以上トウジ様は神獣ですよ。神獣は神の使いですから、人種からすれば竜族の様に雲の上の存在。なので畏まらないで良いのですよー」


 むしろ畏まると、相手が神獣より格上だと誤解するからやめた方がいいそうだ。

 そう言われると納得せざるを得ない。


 〈コラン君〉の中の人は、万年フリーターだったので社会的地位は非常に低かった。

 故にトルギル国王のような、年上且つ偉人オーラを放つような人物を相手にして、急に威張れと言われてもなかなか難しい。


 それに誤解しない相手であれば畏まってもいいのでは?


「非公式な場ではそれでも良いです。でも公式の場では周りへの体面もありますから、ちゃんと威張らないと駄目ですよー」

「ぐぬぬ」


 ならばこの終始タメ口のシナンも、公の場ではゆるキャラに対してへりくだるのだろうか。

 試しに想像してみたが、「チッうっせーな、謙りまーす」というポーズだけの態度が目に浮かんだ。


 別に丁寧語だと必ず謙っているというわけでもないのだが、ゆるキャラの場合は言葉遣いから変えて意識したほうが良いとご指導頂いた。


「さてシナン君、トウジ様の戦闘能力の評価はどうですかー?」

「身体能力は第三位階冒険者の標準と比べて、劣るどころかもっと上だ。一方で技術は未熟だったが試験中に学習しやがった」


「でも〈斬鉄〉には見事に引っ掛かったぞ?」

「……あれは奥の手で使うつもりはなかった。だから評価外だ」


 苦々しい顔でシナンが答える。

 使う予定のない奥の手を出すくらい、シナンは追い詰められていたようだ。


「〈斬鉄〉を使う前に激しく打ち合い過ぎたせいで、剣は折れる寸前だったのだと思われます。しかし折れる寸前とはいえ、神獣様が無傷だったのには驚きました。あれなら真剣で切られても軽傷だったかもしれませんね」


 クリスの話を聞いて、シナンの渋面に拍車がかかる。

 そうだろうか?


 さすがコランだ、なんともないぜ!と言いたいところだが、樹海のヴァー君宅に譲った茨の剣とかで切られたら、普通に死ねそうだが。


「わかりましたー。それではトウジ様を第三位階の〈銀冠〉冒険者として認定します」

*誤字報告ありがとうございます*

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