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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
2章 とびだせリージスの樹海

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55話:ゆるキャラとこっくりさん

 ゆるキャラがそっ閉じしたよげんしょ……絵本を、リリエルが食い入るように見つめている。


「ええと、見ますか?というか欲しかったらあげるけど」

「是非頂きます」


 言い終わるよりも早く、ゆるキャラの前にやってきて跪くリリエル。

 両手を差し出して恭しく絵本を受け取った。


「ふおおおおおお、これは正しく私の頭の中に浮かんでいた光景そのもの。ああ、聖典……」


 異様に興奮したリリエルはとりあえず置いといて、状況を整理する。

 まずリリエルはグラボ少年と同じで、死にかけたところを〈混沌の女神〉に助けられて、何かしらの使命を課せられているようだ。


 リリエルの〈混沌の巫女〉としての活動内容は、この分神殿を維持しつつ脳裏に浮かぶ〈コランクン〉の姿を描き続ける事。

 いや、前者はともかく後者はリリエルが勝手にやっているだけか。


「リリエルさんは〈混沌の巫女〉というか司祭?としてどんな活動をしているんですか?」


「さん付けと敬語なんてやめてください!〈コランクン〉様。私は貴方様の僕。もっとぞんざいに扱って頂いて構いません。貴方様になら例え罵られても、喜んでご奉仕させて頂く所存です。むしろ罵倒してくれても……」


「わかった、わかった。さん付けも敬語もやめるけど、罵倒はしないから。あと俺のことはトウジと呼んでくれ。というかごめん、自己紹介してなかったな」


 というわけで益子藤治という人間が、このアトルランという世界に転生した経緯を説明した。

 正直〈コランクン〉を崇拝しているリリエルに、中身は違うという真実を話すのは一抹の不安はあったが、意外とすんなり納得してくれた。


「なるほど、〈コランクン〉はいわゆる種族名のようなものなのですね。それでは今後はトウジ様と呼ばせて頂きます」

「本当は様も敬語もいらないんだけどね。あと〈クン〉は敬称だから。それで司祭の仕事だけど……」


 リリエルの巫女件司祭の仕事は分神殿の運営だったが、あってないようなものだった。

 何故ならこの第四大陸〈リガムルバス〉では、〈混沌の女神〉を信仰する〈混沌教〉はマイナー宗教だからだ。


 年に一、二度、巡礼者が訪れるかどうかのレベルだとか。

 一応出会い頭の時のように勧誘もしているそうだが、リリエルが司祭になってからは一度も成功していない。


 営業実績ゼロだ。


 信者が居なければ支援も無い。

 そういう実態もあって、現在のような赤貧生活になっていたようだ。


 お互いの状況を確認し合って、ようやく本題に入れる。


「〈混沌の女神〉に会って話をしたいんだが、どうしたらいいんだ?」

「ええとですね、まずここでは会えません」


 いきなり出鼻をくじかれる返事だったが、リリエルの話には続きがあった。


「名前の通りここは〈混沌の女神〉の分神殿でして、宗教施設としては最低限の設備しかないんです。直接対話するには本神殿を訪れて、ちゃんとした祭壇で《神降ろし》をするしかありません。本神殿の場所は……ちょっと待っていてください」


 そういってリリエルがアトリエを出ていく。

 そして何故か連れてきたのが隣の住人のゲドン老人だ。


「分神殿長、本神殿ってどこにあるんでしたっけ」

「え、このご老人が分神殿長なの?」

「はい、私が五年前にここに訪れるよりも以前から、おそらく大昔からこの分神殿を管理していた方です。まあここ最近はすっかりボケちゃいまして。私が色々引き継いだんです」


 明け透けな物言いに怒るでもなく、ゲドン分神殿長は顎に手を当て、首をかしげてうんうんと唸る。

 一分近く唸ったところでポンと手を叩く。


「ああ思い出した。ラディソーマじゃ。ラディソーマに本神殿があるのう」

「ってどこだ?」

「さぁ?」

「しらない」

「どこですかね」


 少女と幼女、美女が次々と首を横に振る。

 沈黙が訪れたところでもう一人の美女、クラリーナがゲドン分神殿長のように手を叩いた。


「思い出しました。数十年前に帝国に最初に滅ぼされた小国の名です」

「ん?それってもしかして守護竜グラボ様の言っていた第二の故郷かな」

「ラディソーマはグラボ様のゆかりの地なのですか?」


 あれ、その辺りの情報は公にされていないのだろうか。

 余計なことを言ったかもしれないので、話題を逸らしてごまかそう。


「いえ、勘違いだったかも。ところでリリエル、〈混沌の女神〉に会えなくてもいいから、連絡する手段はないのか?」

「ありますよ。《交信》という魔術を使って簡単な言葉のやり取りなら出来ます。ただ、私はどうにもこの魔術が不得意みたいで、しょっちゅう失敗するんですよね」


「それでもいいから試してもらえるか?」

「畏まりました。あの……失敗したら罵ってくださいね?」

「いやしないから」


 リリエルの妄言はさらっと流して、《交信》の準備をしてもらう。

 画材で散らかっているテーブルの上を皆で協力して片づけると、リリエルは大きな紙を持ってきて広げた。


 その紙にはこの世界の文字と、いくつかの単語が羅列してあった。

 もちろんゆるキャラには読めない。


「ねーねーなんて書いてあるの?」

「古代神語の五十音と『はい・いいえ』って書いてあります」


 フィンの質問に答えながらリリエルが、〈混沌教〉のシンボルが刻印されたコインをその紙の中心に置いた。


 まさかのこっくりさん方式である。

 リリエルは一つ咳払いをすると、コインに指先で触れながら滔々と呪文を唱えた。


『外淵を揺蕩う混沌の女神よ 解軌道を彷徨うしもべに 導きをお与えください』


 詠唱が終わると紙の上のコインが淡く発光する。

 そしてひとりでに、するすると紙の上を移動し始めた。

 コインはいくつかの文字の上で順番に止まると、元の位置に戻って動かなくなった。


「あー、やっぱり失敗です。すみません。というわけで罵って……」

「ちなみになんていう文字の上に止まったんだ?」

「単語の意味は分からないんですが、順番に読み上げると『えいえふけい』ですね。失敗すると毎回同じ動きをするんですよ」


 ふーん、えいえふけいね……。


「多分それ、失敗じゃなくて神は不在って意味の言葉だぞ」

「ええっ、そうなんですか。さすがトウジ様!神の御言葉を理解できるのですね」


 神の言葉というか、ネットスラングだけどね。

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