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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
2章 とびだせリージスの樹海

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49話:ゆるキャラと情報交換

 跪いているというのに威風堂々なオーラを発するトルギル国王。

 その整った外見も相まって、まるで叙勲式の一幕のようだ。


 対面では妖精が焼菓子を食い散らかしていたり、竜族の幼女が鼠人族もどきに抱き付いたりしているので、なかなか混沌とした状況だ。


 知らない人族の接近により、ゆるキャラの膝の上も安全地帯ではなくなったのか。

 人見知りを再発動させたシンクはだんまりを決め込んでいる。


 仕方ないのでゆるキャラが代弁しようと思うが、今更ながらに緊張してきた。

 相手は一国の主であり、現代日本に置き換えるなら大企業の社長どころか、総理大臣のような相手だ。


 竜族のような絶対強者とは違う、権力者オーラが万年フリーターだったゆるキャラの中の人にプレッシャーを与える。


「お、お掛けください陛下。急な訪問にも関わらずこのような歓待をして頂き、ありがとうございます」

「公式の場でもないから、そんなに畏まらなくてもいいぞ従者殿。ご覧の通り俺も堅苦しいのは苦手でな。王城では側近を経由しないと外部の者とは会話もできん。まったく面倒なことよ」


 そう言って椅子に座りながらガハハと笑うトルギル国王。

 側に控える護衛騎士がそれを聞いて渋い顔をしているが、それでいいのか国王さん。

 あと目上の人が言う無礼講は、実際に無礼講すると怒るってことを知っているぞ。


「トウジは従者じゃない……ともだち」

「おっとこれは失礼した守護竜様。守護竜様のご友人であれば敬わなければなりませんな」

「ははは、ご冗談を」


 ゆるキャラの毛皮で顔を隠しながら呟いたシンクの小さな声を、意外にもトルギル国王は聞き逃さなかった。

 テーブルを挟んでいるので聞こえないと思ったのだが。


「ちょっと!私は?私はあんたのなんなのよ」


 無礼講の塊であるフィンが、ワンピースからはみ出た竜の尻尾をぐいぐいと引っ張りながら問い詰める。


「むう、ともだち……でいいから離して」

「そう!そうよね。私たちは友達よね」


 シンクの含みのある返事にも我関せずで、上機嫌にフィンが飛び回る。

 喜びの感情を表すかのように、テーブルの上に妖精の羽から生まれる鱗粉のような光が降り注いだ。


「ところでグラボ殿、貴公だけならよいが客人を連れての直接入城は金輪際にしてくれ。国防軍が大騒ぎになっていたぞ」

「ごめんごめん。だって城門から入ったら相当待たされるだろう?」


「無論です守護竜様。空から容易に王宮まで侵入できる存在を見過ごすわけにはいきません。本来ならしっかりとその安全性を確認してから謁見して頂きたいですな。陛下も護衛をもっと増やしてから移動をですね……」

「こらこら、本人の前でそれを言ったら駄目だよ。言っておくけどシンク様は僕が手も足も出なかった相手だからね。機嫌を損ねられて敵対でもされたら国が亡んじゃうよ」


 護衛騎士の言葉をグラボが諌めた。

 金属鎧で身を固めた禿頭の護衛騎士が訝しげにシンクを見つめる。

 まあ外見からはこの幼女がそんな最強生物には見えないことは確かだ。


「それで本題だけどね、僕は守護竜の名を騙っていた偽物になるわけだけど、樹海の守護竜様は僕の存在を許してくれるそうだよ。それどころか場合によっては王国の守護の力添えもしてくれるらしい」

「ん、気がむいたら」

「そうか!それは朗報だ」


 嬉しそうなトルギル国王を見て疑問を覚える。

 竜の信奉者の神殿で遭遇したロンベルは、散々捧げものをしているというのに、国難に現れない樹海の守護竜を恨んでいた。


 国王からも不満の一つくらい出るかと思っていたので肩すかしだ。

 素直に疑問をぶつけてみると、トルギル国王は少し申し訳なさそうな顔をした。


「そもそも我々人種の国々というのは、竜族の支配域の端を間借りしているだけに過ぎぬ。常々捧げている財宝は言わば場所代のようなものだ。ただ一部の貴族や市井の民は勘違いしていてな。人種同士の争いに竜族が加担する筈が無いというのに。我が国はグラボ殿がいるだけでも僥倖だというのが分かっておらんのだ」


 なるほど、国のトップである国王は樹海の守護竜に対して悪感情は持っていないようだ。

 出来れば市井にまでその真実を広めて頂きたいところだが。


「人は弱い生き物だからな。何か辛い事に出くわした時は、恨みつらみをぶつける捌け口が必要になるのだ。姿をお見せにならぬからといって、守護竜様を対象にするという不敬を許して頂けないだろうか」

「別にいい。気にしないから」

「寛大な沙汰に感謝します」


「あとね、年に一度の竜巫女の生贄はするなと言われたから、お触れを出して欲しいんだ」

「いいのか?神託だと聞いていたが」

「ん、かわいそうだからだめ」


 依然として人見知りモード全開だが、小声ながらもちゃんと発言するシンクえらい。


「戦って負けたからね。竜族は強者の命令に絶対なのさ」

「そのことで聞きたいことがあるのですが」


 ゆるキャラが聞きたいことは二つある。

 一つは〈混沌の女神〉に会う方法である。


「ふむ、〈混沌の女神様〉か。我が国に分神殿はあったか?」

「はい陛下。南地区にございます」


 トルギル国王の問いにもう一人の守護騎士、凛とした佇まいの女性騎士が答える。

 もし眼鏡とスーツ姿だったなら、社長秘書に見えたかもしれないクールビューティーだ。


「申し訳ないが我が国では〈混沌の女神様〉はあまり有名どころではなくてな。詳しくは神殿に赴いて直接聞いたほうがよかろう」

「情報ありがとうございます。すみません、もう一つ聞きたいことがありまして……」


 二つ目はシンクの姉、ハクアの行方である。

 三年前に樹海を出た時点では、見目麗しい異邦人の少年と竜族の少女と竜巫女の三人組で行動しているはずだ。


「シンク、お姉さんと竜巫女の人相はどんな感じだ?」

「ん、姉さんは白い。巫女は青い」


 端的な情報しか寄越さないシンクから詳しく聞いたところ、ハクアの容姿はシンクの顔の造形をベースに髪を純白、瞳を灰色にして年の頃を十五歳くらいにした感じらしい。

 竜巫女は空色の癖のない長い髪が特徴で、見た目の年齢は十七、八歳くらいだそうだ。


「見た目はって、実年齢は違うのか?」

「うん、長生き」

「そ、そうか……あと重要なことを聞き忘れてた。異邦人の先輩と竜巫女の名前は―――」


「父上!碌に護衛も付けずに何をしておられるのですか!」


 ゆるキャラの言葉を若い青年の声が遮った。

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