45話:ゆるキャラと子分
アディナが全然起きないので、このまま連れて帰ることにした。
どんだけ強い薬を盛ったんだよと言いたいが、苦痛無く生け贄を全うできるという意味では有情なのだろうか。
まあ生け贄にされている時点で有情もへったくれもないか。
一旦コノギ村でアディナを降ろしたら、グラボを伴いレヴァニア王国の王宮へ向かう。
そして事情説明と情報収集をする予定だ。
「お待ちください、守護竜様」
出発準備を始めるゆるキャラたちの前に、目を覚ましたロンベルが現れた。
体調は万全とは程遠いため青白い顔をしている。
「お前たちには迷惑をかけた。神殿で休息してから王都に戻れ」
「承知しました。守護竜様はどうされるのですか」
「僕はシンク様たちを連れて先に王宮に戻る。国王に説明して、生け贄をとりやめるお触れを出してもらわないと」
「……リージスの樹海の守護竜に従うのですか?」
「強者に従うのが竜族の掟だよ。それに悪いようにはされないと思うよ」
グラボの言葉が信じられないのか、ロンベルは相変わらずこちらを敵意のある目で見つめてくる。
国難?の際に助けが無かったことを相当根に持っているようだ。
樹海の守護竜に人種の国を守る義務は無い。
だから一方的な逆恨みなのだが……。
「ロンベルは十年前の帝国軍第五次侵攻で妻子を失っているんだ。僕の力が及ばなかったせいでね」
「い、いえ決してグラボ様を責めているわけではありません。貴方様がいなければ私の領地ごと奪われていましたから」
第五次侵攻って、どんだけ侵略したいんだ帝国は。
なんだか出会う人物が皆、暗い過去を背負っていて嫌になっちゃうな。
レヴァニア王国はリージスの樹海の支配領域内だから、義務はないがシンクたちが介入することは可能だ。
ゆるキャラがなんとなくシンクに視線を向けると、他の面々も彼女に注目した。
〈コラン君饅頭〉を食べ終わり、祭壇に座ったまま足をぶらぶらさせていたシンクだったが、急に注目されて驚いたようだ。
びくりと肩を震わせると、祭壇から飛び降り開けた場所へ走って行く。
「もし子分がやられてたら、助けてあげないこともない」
果たしてロンベルたちに聞こえただろうか。
こちらに背を向けたままシンクはぼそりと呟くと《人化》を解いた。
発光後に現れた深紅の竜を見て、ロンベルたち黒ローブがどよめく。
そういえば彼らはシンクの竜の姿を見ていなかったか。
これ以上難癖付けられても対応しかねるので、彼らが驚いている間にさっさとコノギ村に戻ろう。
ゆるキャラは祭壇で眠り続けているアディナを抱きかかえると、シンクの背中に飛び乗った。
フィンは横着してアディナの胸元に乗っかって一緒に運ばれている。
「それ、アディナちゃん重くないか?」
「ちょっと浮かせてるから大丈夫。てか重くないし!」
「いてて、わかった。悪かったって」
ぷんすこと憤慨するフィンと、ちょっと苦しそうに寝顔を顰めるアディナと、髭を引っ張られ痛がるゆるキャラを乗せてシンクが大空へと舞い上がる。
グラボも《人化》したまま後ろを付いてくる。
黒ローブをはためかせながら見上げる竜の信奉者たちに見送られて、我々はコノギ村へと出発した。
上空でアディナが目を覚ましてしまい大混乱……などというトラブルもなく、無事に到着する。
竜の襲来も二度目となれば慣れる……はずもなく、農作業していた村人たちは大慌てで屋内に逃げ込んでいった。
いや、何人かは家の窓からこちらの様子を伺っている。
一度目には無かった反応だ。
人間とは慣れる生き物だから、襲来も繰り返すうちに空を見上げて手を振ってくれるようになるかもしれない。
そしてそうやって油断したところを襲いかかるのだ。
いや襲わないけどね。
コノギ村の入口に見覚えのある人影が二つある。
メイとメディルだ。
どうやらゆるキャラたちのことをずっと待っていてくれたようだ。
シンクが着陸すると同時に二人が駆け寄ってくる。
ゆるキャラに抱き抱えられたぐったりしているアディナを見てメディルが慌てる。
「お姉ちゃん!?」
「大丈夫、薬で眠っているだけだ。どこか安静に出来る場所はないか?」
「でしたら私たちの家に……あの、狭くて汚い所ですが」
メディルの案内でぞろぞろとコノギ村内を移動する。
たどり着いたのは村の外れにある、二つ並んだあばら家だ。
手前が姉妹の家で、奥がメイの家だそうだが、他の家々と比較してもなかなかにボロい。
家の立地といい状態といい、彼女たち亜人への差別を否応にも感じ取ってしまう。
姉妹の家は台所兼居間と寝室の二部屋しかなく、元々両親と住んでいたとは思えない狭さだ。
家自体は老朽化しているが、室内は女の子の住まいらしく小奇麗で整然としている。
アディナを寝室に寝かせた後は、姉を見守るというメディルを残して居間で小休止させてもらう。
人数分の椅子が無いので、ゆるキャラが頬袋に入っている財宝から適当に見繕って取り出す。
宝石が埋め込まれた玉座……は大きくて邪魔なので、小振りの宝箱を椅子代わりにすればいいか。
次々と口から吐き出される財宝に戸惑いながらも、メイがお茶をいれてくれたので皆ですする。
「守護竜様、アディナを助けて頂きありがとうございます。ところでこちらの少年は?」
「ん、守護竜」
「……えっ?」
ああそうか、メイたちコノギ村の連中は守護竜が二人いることを知らないんだったな。
まずはそこから説明しようか。
ゆるキャラがメイに事情を説明している間、シンクは開いた扉の向こう側の、眠る姉と見守る妹をじっと見つめていた。




