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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
12章 ご当地ゆるキャラ、ご当地に還る

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391話:ゆるキャラと表会議

「最前線まで来る羽目になるとはなぁ」


 補給部隊として行動を共にしてきた犬人族の男がため息交じりに呟く。

 〈絶望半島〉の入口にある街ステラを出発した時、大量の物資を積んだ荷車は六台あった。

 その後各防衛拠点を通過する度に物資と人員を残していったので、最前線の砦に到着する頃には最後の一台になっていた。


 前線に近づけば近づくほど危険になる。

 さっさと道中の拠点に残りたかった犬人族の男だったが、結局最後まで居残り組に選ばれることはなかった。


「数日働いたら物資を運ぶためにステラに帰るんだろう? それまでの辛抱さ」


「そういうあんたはまさか勇者パーティーに入るとはな。やっぱり強かったんだな。あんたがいないってことは帰り道は危険が増すじゃねぇか」


 鼻頭に皺を寄せて嫌がる犬人族の男に、俺は選別代わりに〈ジンギスカン煎餅〉を砕いたクルトンもどきを進呈した。


「これをやるから頑張れよ」


「おっ、ありがたいねぇ。これのおかげで最前線行きも我慢できたってもんだ」


「現金なやつだ」


 その後も暫く犬人族の男、コーディ―と雑談を続け、魔王の件が片付いたら再会しようと約束して別れた。

 言動は完全におっさんなのだが、見た目が二足歩行の犬なので内心ほっこりしていたのは内緒だ。


 俺が補給部隊から離脱することに、隊長のジグマールは難色を示した。

 しかし勇者軍の最大戦力で要である勇者、悠里の意向であること。

 更にイングリットとクラリスの王女姉妹の後押しもあり、渋々諦めたのであった。


「それで勇者パーティーは悠里と俺、イングリット様とクラリス様でいいのか?」


「うん。おじ……藤治は私と同じくらい強いし、これ以上他に犠牲者は出したくないから」


 〈コラン君〉の外見をしている相手を叔父さんと呼ぶのは、傍から見て違和感があるだろう。

 というわけで悠里には名前で呼んでもらうことにした。


「トウジ様はユーリの親族なんですから、私たちに様付けは不要ですよ」


「なら俺のことも様はつけないでくれ」


「わかったわトウジ」


「クラリスは最初から様付けじゃなかっただろ」


「そうだった?」


「おっほん、そろそろよいかね」


 俺に抱き着いたまま喋るクラリスと問答していると、禿頭の老人がわざとらしく咳払いをする。

 この老人は勇者軍の最前線を指揮するジェラルド・ホーキンス。


 イングリットたちの出身であるイルグリッサ王国の、東隣の国の元帥を務めていた人物だそうだ。

 現在俺たちは砦の会議室にいて、他にも各国の指揮官が集合していた。

 森人族のラナクも末席だが参加している。


 どの指揮官も屈強な男たちで、悠里たちのような少女と亜人の俺は浮いていた。

 かといって俺たちがいて場違いな雰囲気になっている、というわけでもない。

 屈強な男たちが悠里を優しい目で見ているのに気付いて、なんとなく理由がわかった気がした。


 悠里が勇者として活躍しているのは今に始まったことではない。

 俺が輸送部隊と共に通過してきた〈絶望半島〉の各拠点を制圧し、仲間を失いながらも悠里は最大戦力である勇者として魔王軍と戦ってきた。


 いくら勇者の加護があるとはいえ、屈強なおっさんたちが中学生の女の子の力を頼らなければならないという状況には、忸怩たる思いもあったのではないだろうか。


 仲間たちの死により最近の悠里は塞ぎ込んでいたらしいが、今日は王女姉妹と明るく会話している。

 完全に立ち直ったわけではないが元気な姿を見せている悠里に、おっさんたちは暖かい視線を送っていた。


 もはや親目線と言ってもいいだろう。

 それかアイドルを応援している感じだろうか。


 まぁ推すまでは許そう。

 だが息子や部下を宛がうのは許さんぞ。


 俺とクラリスが勇者パーティーに加入したことで、停滞していた〈絶望半島〉攻略を再開するとジェラルドが宣言し作戦を説明する。


 手順はこれまでと同じで、ジェラルドたち義勇兵の集まりである勇者軍が魔王軍の雑兵を一手に引き受け、勇者パーティーが敵の最大戦力を叩くという流れだそうだ。

 先の戦いで例えるなら黒虎と流星雄牛は勇者パーティー、それ以外を勇者軍が対応する形となる。


 蒼炎大隊からクラリスは抜けることになるので、副官のセイヴァスが隊長に繰り上がった。

 セイヴァスとしても主と離れ離れになることに思うところはあるようだが、軍人として従わざるを得ないようだ。

 会議前に俺に対して念入りに「王女姉妹を守ってくれ」と頼み込みに来ていた。


 イルグリッサ王家には男女二名ずつの子供がいるらしいのだが、〈絶望半島〉に義勇兵として派遣されたのは女二人……つまりイングリットとクラリスだけだ。

 その理由は、男二人には戦闘向きの加護が発現しなかったから。


 加護の強さが戦力に直結する世界なので、それも仕方のないことなのだろう。

 とはいえ悠里を含めた年端もいかない女の子たちを最前線に立たせる、というのは俺的には不服である。


 少女に世界の運命を託すのは、物語やゲームの中だけで十分だ。

 ただ本人たちはそう思っていなかった。


「勇者様と共に、世界の敵である外様の神の先兵と戦えることは誉れ高いことです。たとえ途中で力尽きることになっても構いません」


 イングリットよ、そんな誉れは浜に捨ててしまえ。

 君が死んだら悠里が悲しむ。


「国にいてもおっさんと政略結婚させられるだけだし、この戦争で名を上げて私が相手を選ぶ立場になる」


 クラリスよ、誉れよりはましな理由だが俺をその対象にしないでくれよ?

 俺もおっさんなんだから。

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