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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
2章 とびだせリージスの樹海

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38話:ゆるキャラと人種

 樹海内ではおすましさん且つおませさんで通っていたシンクだが、どうやら内弁慶気質だったようだ。

 初対面であるメイの視線から隠れようと、エゾモモンガのもこもこボディの背中にしがみついている。


 ゆるキャラやメディルに対しては、最初からぐいぐい来ていた筈なのにおかしいな。

 樹海内はホームアドバンテージでもあるのだろうか。


「もしかしてそちらの方が守護竜グラボ様なのでしょうか」

「……ちがう……シンク……」


 メイの問いに背中に顔をうずめたまま、密着していても聞き逃しそうなくらいの小声でシンクが呟いた。

 仕方ない、早速フォローするとしますか。


「メイさん、はじめまして。俺は……鼠人族のトウジです。貴女の周りをびゅんびゅん飛び回ってるのが妖精族のフィンで」

「よろしくー。ねえねえ耳さわってもいい?」


 フィンは人見知りとは対極の存在で、好奇心の赴くままメイの周囲を飛んで観察している。

 そして許可を得る前からメイの猫耳を触っている。

 やめなさいってば。


「俺の後ろでもじもじしているのが竜族のシンクです……いたたっ」


 もじもじは余計だったようで、抗議するように額の角で背中をぐりぐりされた。


「シンク、様?ということは守護竜ではないのでしょうか」

「いいえ、代替わりしているので彼女が守護竜ですよ」


 かくかくしかじかと、メディルに出会った経緯と守護竜について説明する。

 状況からなんとなく予感していたようだが、メディルが樹海で腐肉攫いに追われていたと聞いてメイが青ざめている。

 やはり樹海の外の住人にとって樹海は魔境のような場所であった。


「腐肉攫いか。初めて見つかった相手が弱い魔獣だったのは不幸中の幸いか。そして幸運なことに無事守護竜様と会えたということは……」

「こ、これはこれは竜族のお方!ようこそいらっしゃいました」


 メルの声を遮るようにだみ声を響き渡らせつつ、村の方から白髪交じりの男が小走りでやってきた。

 上空から見えた他の村人たちより小奇麗な格好をしていて、笑みを浮かべているが顔色は悪く頬も引き攣っている。


「私はコノギ村村長のアジモフです。ほ、本日は一体どのようなご用件で……」


 竜の姿が消えて、メイが近づいても安全なのを確認してようやくお出ましか。

 そしてゆるキャラが初めて遭遇する人種である。


 背後をちらりと確認するが、依然シンクはエゾモモンガの毛皮に貼り付いて微動だにしない。

 やれやれ……まあメイに心開かないのにこのおじさんがOKだったら、それはそれでちょっと、いやかなり嫌ではあるが。


「彼女は守護竜なんだが……」

「守護竜様!?も、申し訳ありません!」


 突然声を張り上げてアジモフが土下座する。

 さっきから人の言葉を遮ってばかりだな、このおじさんは。


「生け贄の娘が年増なうえに亜人で申し訳ありません!本来はそこの娘の予定でしたので、改めてそいつを差し上げますのでどうかご容赦をっ」


 メディルがその守護竜の庇護のもと同行してきたことに気付いていないようで、アジモフが額を地面に付けたまま懇願してくる。

 生け贄の内容に文句があって来たと勘違いしているようだ。


 亜人への風当たりが強いと事前に聞いて覚悟はしていたが、実際目の当たりにしてしまうと憤りを隠せない。

 守護竜の怒りを抑えて村を守るためと言えば聞こえはいいが、もし生け贄の対象が亜人ではなく人種でも同じ対応をしたのだろうか。

 現状それを確認する術はない。


「あー、それなんだけど守護竜様は生け贄を求めていない。それを言いに来たんです」

「そんな、それではアディナの死は無駄だったというのですか!」

「今から守護竜様で飛んで神殿に向かうので間に合うのでは?」

「生け贄の儀式は今日だ。今頃はもう……」


 おおっと、日程がおかしいぞ。

 メディルもそれを聞いて慌てだした。


「メイさん、私が家を出てから四日目だよね?」

「いいや……五日目だ」

「そんな……」


 どうやらメディルの計算間違いのようだ。

 今思えば樹海で見つけた彼女は、荷物も失い意識も虚ろで今にも倒れそうになっていた。

 メディルは樹海に入って早々に腐肉攫いに見つかり、驚いて逃げる際に食料の入った荷物を落としてしまった。

 飲まず食わず且つ命の危険に怯えながら彷徨ったため、時間の感覚が狂ってしまっていてもおかしくない。


「いますぐ神殿にいく」


 ぼそりとシンクがゆるキャラだけに聞こえる小声で提案する。


「そうだな、今すぐ神殿に行こう。メイさん案内してくれますか?」

「わたしとトウジだけでいく。ほんきで飛ばす。場所だけ教えて」


 言いながらシンクが竜の姿に戻る。

 質量保存を無視して光と共に巨大な紅竜の姿が現れると、土下座したままの姿勢で見上げていたアジモフが悲鳴を上げて逃げ出した。

 あのおじさんは今は放置でいいか。


「神殿はここから真北にある。儀式を行う祭壇は外にあるから、空からでもすぐわかる」

「Gyaoooooooooooooooooon!(わかった)」


 ゆるキャラが飛び乗ったところでシンクが吠えると、羽ばたきひとつで一気に空へ舞い上がる。


「お姉ちゃんをお願いします!」

「まかせろ!」


 羽ばたきによって起きた突風に飛ばされそうになりながらも、メディルが声を張り上げたのでこちらも力強く返事をする。

 シンクがもう一度羽ばたくと後ろに引っ張られるような、強烈な真横への重力が働いた。

 放り出されないように背中の棘にしがみ付いていると、普段の数倍の速度で周囲の風景が流れる。


 こ、これはちょっと怖い。

 イメージとしては市電の屋根にしがみ付いていたくらいの体感速度だったものが、新幹線に変わった感じだ。


「キャーーーーーー!」


 いつの間にかついてきていたフィンが、ゆるキャラのマフラーにつかまりながらはしゃいでいる。

 相変わらず肝が据わっていてブレない妖精さんだこと。

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