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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
12章 ご当地ゆるキャラ、ご当地に還る

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377話:ゆるキャラとしなやす

「ああああぁぁぁぁああああ!」


 魔術 《土変化》で生み出した柱によって天高く打ち上げられたトロールが、雄たけびを上げながら落ちてくる。

 ほぼ垂直に飛んだため柱の傍を落下していた。


 そのまま地面と熱い抱擁をするかと思われたが、柱に剣を突き立てて落下スピードを減速させている。

 しまった、さっさと柱を消すか角度をつけて打ち出してやればよかった。


『魔術の出力を落とせない? ちょっと目立ち過ぎかなぁ』


 いつの間にか四次元頬袋の暗黒空間に入っている猫が、そこから俺に話しかけてくる。


「そうか? あの子の《火球》より全然地味だけど」


『消費魔力という点では君の《土変化》のほうが桁違いだよ。同じ魔力を消費して《火球》を撃ったら五倍は酷いよ。ちなみにあの子のは《火球》ではなくて上位魔術の《爆裂火球》だから』


「へぇ、そうなんだ」


 ふむ。

 …今のは《爆裂火球》では無い…《火球》だ…ごっこができるのか。


 剣を使い無事に着地したトロールであったが、紐なし逆バンジーは相当に堪えたようだ。

 執拗に狙っていた少女に背を向けて剣の切っ先を俺に向ける。


「けったいな魔術を使いおって」


「まだまだ使えるぞ」


「ほざけ。あんなものを連発できるわけがない」


 できるかできないかで言えばできる。

 猫は抑えろと言うが、精霊さんが勝手に張り切ってしまうんだ。


 しかも先日の山羊魔族と擬態狼に使った時よりも威力が上がっている。

 トロールの魔術を無効化する鎧に対抗するために、余計に魔力を使う必要があったのかもしれない。


 俺とトロールは再び斬り結ぶ。

 これまでは妙に足癖の悪い奴だったが、本気になると剣技一辺倒になった。


 先程よりも一撃が重いし速い。

 感覚的には以前の俺であれば苦戦したかもしれないが、Mk-Ⅱとなった今ならセーフモードでなくても対等にやりあえる。


 セーフモードとはピンチになった時、すなわち死にかけた時に〈コラン君〉の人格に強制的に入れ替わるとにより、戦闘能力が上がるというシステムだ。

 しかしセーフモードになると〈コラン君〉に人格は奪われたままになるし、うまく制御できず強引にセーフモードを切るために、暫く子どもの体で過ごすはめにもなった。


 現在は猫の改修により俺こと益子藤治の人格を保ったまま、戦闘能力が上がっている。

 振り返ると結構序盤から……具体的に言うと〈森崩し〉という大型魔獣と戦い、死にかけた頃から益子藤治としての人格は揺らいでいた気がした。


 本当に猫には感謝しかない(皮肉&怒)。


「余所見とは余裕だな」


「まだ準備運動中なんだよ」


 得物である〈月明剣〉の刀身が、籠める魔力に反応してじわじわと輝きを増していく。

 充填率六割といったところか。


 〈月明剣〉は籠められた魔力に応じて切れ味を増す。

 そろそろ並みの剣なら受け止めようとした刃ごと斬り裂くが、トロールの漆黒の剣がそうなる様子はない。


 鎧と同様に魔術を無効化する性能を持っているのだろう。

 充填完了した〈月明剣〉でも通用するかどうか。


「どっかの神も斬れる威力なんだけどな」


『うっさいわね。あれは迷宮に来る冒険者に合わせた強さであって、私の本気なんかじゃないわよ』


 俺のつぶやきに四次元頬袋内のサシャが反論する。

 確かに〈残響する凱歌の迷宮〉で階層守護者の白霧夜叉役を演じていたサシャこと〈寛容と曖昧の女神〉は、神本体ではなく分体だから力も万分の一だと言っていた。

 とはいえ迷宮の守護者より堅いのは十分脅威だ。


 だから狙うなら無防備な首から上しかない、という俺の魂胆をトロールは見透かしていた。

 喉首狙いの突きは、トロールの正眼に構えていた剣により受け流される。


 手首のスナップだけで撫でるように弾くと、最小限の動きでカウンター突きが放たれた。

 俺は体を捻って突きを躱しながら側面へ回り込む。


 トロールの剣が丸いエゾモモンガの腹を掠めて灰褐色の毛が宙に舞った。

 回り込みながらの、遠心力を生かした一撃は仰け反られたため首筋まで届かない。


「ぬぅぅぅん」


 大剣を引き戻す時間もないので、地面を転がってトロールの前から離脱する。

 気合の入った上段振り下ろしが地面に突き刺さるが、トロールはそのまま俺を追撃した。


 地面に刺さった刃を一度引き抜くのではなく、驚異的な膂力で切っ先を地面に潜らせたまま俺を斬り上げる。

 受けるにしても躱すにしても体勢が悪く、万全な対応ができない。


 なんとか大剣を体の前に差し出したが、防ぎきれず大剣は弾かれ腹を斬られた。


「手応え有り!」


 愉悦交じりのトロールの声を聞きながら、俺は斬られた衝撃で吹き飛ばされ再び地面を転がる。

 分厚い毛皮と脂肪に覆われているおかげで内臓にはギリギリ届かなかった、と思いたいがこれはどうなんだろう。


 めちゃくちゃ痛い。

 ざっくりと斬られて地面に赤い擦り跡が伸びた。


 俺へと続く血痕を踏み荒らしながらトロールが迫る。

 激しい痛みで仰向けになったまま俺は起き上がれない……ふりをしておく。


 痛みに我慢できず四次元頬袋内にスタンバイしていた〈ハスカップ羊羹〉を、直ちに実際の口腔内へ移動、咀嚼した。

 〈ハスカップ羊羹〉は回復アイテムとしても優秀なため、一瞬で傷は塞がり痛みもなくなった。


 即死しない限り俺は死なないと言わせてもらおう。

 死ななきゃ安いのである。


 そうとは知らずにのこのこと止めを刺しに近寄ってきたトロールを、薄目で観察して反撃の隙を伺う。

 トロールは俺が動かないのを確認すると、剣を逆手に持ち替えて突き下ろしてきた。


「おおおおおっ!」


 今度はこっちが気合を入れる番だ。

 黄色い鳥足で地面を蹴り、バク宙の要領で後方へ飛び起きる。

 トロールの一撃はまたもや地面を抉るに留まった。


「馬鹿な!」


 逆手に持ち替えてしまったのが仇となり、トロールは先程のような地面に切っ先を潜らせたまま剣を振るうことが出来ないでいた。

 すぐに持ち替えるがその隙が命取りだ。


 俺は充填率が八割を超えた〈月明剣〉で渾身の突きを放つ。

 間に合わないと悟ったトロールは、左腕を自身の顔の前に翳して防御した。

 当然ながら腕も魔術を弾く鎧で覆われているので、腕は負傷するかもしれないが防ぎきれると踏んでいるのだろう。


 だが甘いぞトロール。

 俺が狙うのはその無防備な顔面じゃなくて、黄色い鳥足で傷つけた漆黒の鎧の胸元だ。


 青白い魔力を纏った大剣の切っ先は、見事にトロールの鎧にある傷口へと吸い込まれた。

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