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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
2章 とびだせリージスの樹海

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35話:ゆるキャラとグラボ

「よし、まずは情報を整理しようか。竜巫女って先輩異邦人やたちと樹海を出て行ったと聞いた気がするが」

「うん。竜巫女はずっとひとりだけで、ハクア姉さんたちと出て行ってからは不在」


「血を捧げるってのは?」

「合ってる。竜巫女の血は竜の体を癒す力がある。でもその力があるのは出て行った竜巫女だけ。誰でもいいわけじゃない」

「つまり竜族、いや樹海と外では竜巫女の意味が違うみたいだな」


 ゆるキャラの言葉にシンクが首を縦に振る。


「献上品の金銀財宝はメディルの言ってた樹海入り口の神殿で受け取るのか?」

「ううん。樹海の浅層にある祭壇に貯まったのを一年に一度回収してる。そこには樹海の外だけじゃなく樹海の住人の捧げ物も含まれてる」

「誰からどれだけ貰ったとか記録してるのか?」


 この問いに深紅の髪の幼女は首を横に振った。

 竜サイドが捧げ物の内容を把握しておらず、執着もしていないということは、捧げ物の内容は捧げる側の都合でどうとでもなるということだ。

 おそらく樹海の外の国々はしっかり目録をつけて公表し、権力闘争に利用したりしているのかもしれない。


「次に竜の信奉者ってどういう組織なんだ?」

「竜の信奉者は竜を信仰し、身の回りを世話する存在なのだが、竜族は自立してるので世話らしい世話は滅多にしないな。浅層に降りられたときにもてなすくらいだ」


 イレーヌの返事でシンク宅の様子を思い出す。

 確かに同じ竜族のクレアがメイドとして働いていたので、日常生活での助けは不要なのだろう。

 

「どうやら樹海の中と外で、竜の信奉者も竜巫女も意味も存在も違うみたいだな」

「それに私の名前はシンク。グラボじゃない」

「えっ?シン……ク様?」

「そう、ちゃんと覚えて」

「ご、ごめんなさい」

「わ、尻尾が消えた!?」


 竜の幼女に抗議されて、椅子に座っている狐耳の女の子が縮こまる。

 怯えで尻尾が体に巻き付くように高速で動いたため、ずっと尻尾を撫でていたフィンからは消えたように見えたようだ。


 てかまだ触ってたのか。


「なあシンク、守護竜の代替わりって周知するのか?」

「もちろんする」

「でもそれって樹海内の話じゃないのか?」

「……あ」


 ゆるキャラの言わんとすることにシンクは気が付いたようだ。


「樹海の内と外はあまり交流が無いんだっけか」

「そうだな。我々樹海の住人が外に出ることはそれなりにあるが、逆は滅多に無い。年に一度の捧げ物の時と、たまに優秀な冒険者が樹海にしかない貴重な薬草や魔獣を狩りに来るくらいだ」


 イレーヌ曰く、捧げ物の時は人種が大部隊を率いて浅層の祭壇まで進行する。

 何故大部隊かといえば、少数だと樹海の魔獣に勝てないからだそうだ。

 よって少数で樹海に立ち入る冒険者というのは、人種の国々基準だと優秀な部類になる。


「薄々感じてはいたけど、樹海って物騒な所だったんだな……」

「樹海は危険な所だから、絶対に近づくなと村の子どもたちはいつも言われていました」


 そんな樹海に単身乗り込んだメディルだ。

 度胸があるというよりは無謀で自暴自棄に近い。


 人種の大部隊や優秀な冒険者が必要な環境な樹海に、なんの戦闘力もない女の子が入れば魔獣に見つかった時点で終了である。

 というか樹海に入ったところで深層に住む竜族の元に辿り着く可能性は限りなくゼロだ。


 確率だけで言えば姉を再説得するか、神殿に乗り込んだほうが遥かに高い。

 見つかった魔獣が直接襲ってこない腐肉攫いだったことと、偶然ゆるキャラたちが浅層で氷熊を追いかけていたこと。

 更にそれらが守護竜の知り合いだったことと、どれだけの奇跡を起こしたのだろう、この女の子は。


 くじ運が無いゆるキャラとしてはあやかりたいところだ。


「グラボって名前の竜はいないんだろ?なら先々代の守護竜の名前に似てるから、市井には聞き間違いのまま広まったんじゃないだろうか。そしてそのくらいの情報精度なら、ここ数年で立て続けに代替わりした事実を樹海の外の連中が知らないのも当然だな」


「さっきは理不尽なこと言ってごめん。あらためてよろしく」

「は、はい。宜しくお願いしますシンク様。それでお姉ちゃんのことですが……」

「生け贄の話は人種が勝手にやってることで、竜族のあずかり知らないこと」

「そんな……」


 シンクのつれない返事にメディルの表情が絶望に染まる。

 そんな彼女にまあ慌てなさんなと手を上げて、シンクが言葉を続ける。


「でももし竜族の名を使って悪いことをしているなら、それは竜族の名誉を傷つけていることになる。だから確認する」

「シンク様……!」


「というわけでトウジ、手伝って」

「いいけどマリアさんか誰かに一応確認しなくていいのか?実は他の竜が偽名で生け贄を要求してました、とかだと面倒だし」

「むう、わかった。ちょっぱやで確認してくるから、トウジたちは待ってて」


 そう言うなりシンクは足が地面に届いていなかった椅子からぴょんと飛び降りる。

 そして外に出るとあっという間に竜の姿に戻り、すごい速度で飛んで行った。


 こういう時通信手段が無いというのは不便なものである。

 《念話》とか便利な魔術はないのだろうか、今度フレイヤ先生に聞いてみよう。

 ゆるキャラはまず魔術を使えるようにならないといけないのだが。


 シンクを待っている間に、メディルからより詳しい情報を聞き出しておく。


「生け贄の儀式はいつ行なわれるんだ?」

「私はお姉ちゃんが神殿へ向かう三日前に家を出ました。コノギ村から神殿へは馬車で二日かかります。今朝で私が家を出て四日目のはずなので……今頃お姉ちゃんは移動中だと思います」

「ふむ、なら一度コノギ村に寄ってからお姉さんを追いかけようか。少しでも早くメイさんに無事を知らせたほうがいい。それに勝手に家出したことを謝らないとな」


 メイとはメディル姉妹の後見人として引き取った、隣人の猫人族の女性の名前だ。

 姉が生け贄になろうとしている時に妹が失踪とか、メイの心中がお察し過ぎる。

 ゆるキャラが諭すとメディルは神妙な顔で頷いた。


 シンクは往復三百キロの道のりを小一時間で戻ってきた。

 その速度はジャンボジェット並みであり、サラマンダーよりずっと速いのだ。


「やっぱり生け贄の話も、グラボって竜のことも誰も知らなかった」

「そうか、それじゃあ後はコノギ村と神殿に乗り込むだけだな」

「なまいきな人種がいたら、とっちめてこいってマリアが言ってた」


 とっちめるとか、久しぶりに聞いたな。

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