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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
9章 悠久狂騒曲

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298話:ゆるキャラと依頼達成

「弟切草? 知らないなあ」

「これなんだが」

「くんくん……くっっっっさ。ああ、これね。これなら生えている場所を知ってるよ亜人君」


 翌朝カピバラに弟切草の匂いを嗅がせると、ゆるキャラのように鼻先に皺を寄せて険しい顔になった。


 昨晩は天罰覿面(悪事の結果がたちどころに現れ、その報いとして天が罰を下すという意味)の筈だったのに意外とけろりとしている。

 何故ならばお仕置き(物理)も後半になると、痛みが快楽に変わってきたのかカピバラが「ありがとうございます!」とかお礼を言い始めたので、エリスとブロンディアがドン引きしてしまったのだ。


「この汚らわしい獣を早く外に出してくれ」

「すみません……ちょっとこれは無理です」


 などと外様の神様ズから泣きが入りカピバラは四次頬袋から釈放された。

 どうしようもないなこの淫獣は……。


 カピバラの案内で三十分ほど獣道を歩くと黄色い花が群生する場所に出た。


「「「ふわあああああ」」」


 竜姉妹と妖精さんは綺麗に咲き乱れるお花畑を見て大喜びだ。

 ニールは相変わらず反応が薄い。


「あまり臭わないな」


 確かに見た目は弟切草なのだが、持参した花弁とは違って生えているものからはあの異様な匂いは僅かにしか嗅ぎ取れなかった。

 これだといくら鼻が利くゆるキャラでも匂いを辿って探すのは無理だ。


 実際近場にあったが全く察知できなかったわけで。

 〈神の箱庭〉の主であるいんじゅ……カピバラと会えたのはある意味幸運だったか。


「乾燥すると臭いが増すとか? ギルマスはそのあたり何も言ってなかったけどな。十数年で細かい情報が抜けたのかもしれないが」

「ああ、その可能性はあるか。というわけで少し貰ってもいいか?」

「構わないよ。どうせすぐ生えてくるから。がっぽり持っていっちゃってよ」


 イスロトの街、というか人種の生存圏では希少な花でも、生育地ではそこまでの価値はないようだ。

 北海道の海の幸も、東京と現地ならば前者が割高になるのと同じか。


 余談だが現地の北海道でも観光名所だと観光客価格になっていて、実はそんなに安くない。

 美味しいものを安価で食べたければ、有名地を外してちょっと寂れた町のお店がお勧めだったりする。


「ちなみに他所で植え直しても育たないよ。僕の地熱の加護で保護しないと駄目なんだ。逆に言うとここならいくらでも生えてくるんだけどね」

「それじゃあお言葉に甘えて」


 別に採取したすべてを冒険者ギルドに納品する必要もないので、十メートル四方程度を豪快に四次元頬袋へ仕舞った。

 暗黒空間に突如現れたお花畑に、外様の神様ズからも感嘆の声があがる。

 外に出られない彼女らの居住空間にはもっと気を使う必要があるな。


「絶滅も自然淘汰なんだから、わざわざ保護しなくてもいいのに」

「絶滅の内容にもよるんじゃないか?」

「この花は確か〈断罪〉の裁きで消し飛んだ島に唯一咲いていたんだっけかな。……あれ、他の植物や生物も似たような経緯で保護してるけど、もしかして僕って〈断罪〉の後始末のフォローをやらされてる?」


 自らのぼやきを切っ掛けに、何かに気が付いて愕然とするカピバラ。

 島ごと消すとか人類の環境破壊より規模が大きいな。

 流石は神だ。


「それは自然淘汰じゃないかな。神様の行ないを自然現象として扱うか否かにもよるけど」


 人類の環境破壊による絶滅は一般的には自然淘汰に含まれない。

 でもゆるキャラ的には人類も自然から生まれたものだから、広い意味では自然淘汰だと思っている。


 どこかのコロニー格闘技の覇者も「人類もまた天然自然の中から生まれたもの! 人類を抹殺しての理想郷など、愚の骨頂!!」的なことを言っていたし。


「さて目的は達成したし帰りますか」

「えっ、もっとゆっくりしていきなよ。具体的には僕の刑期が終わる五十年くらい」


「いやいやそんなに居たら俺の人生が終わっちゃうから」

「なら僕も連れていってくれ! 」

「今刑期が五十年あるって言ったばかりじゃん」


 話し相手が居なくて寂しいのか、激しく食い下がるカピバラ。


「いや連れ出したら俺たちまで〈断罪〉されるし」

「ぐうう、君は〈混沌〉の従者なんだろう? いいなあ。銀髪ボインな彼女の姿を拝みたかったよ」

「ボインって今日日(きょうび)聞かないな……てか猫の姿しか見たことないけど」


 ああ、そういえば〈混沌の女神〉長い銀髪に紫紺の瞳を持つ女神で、千の異なる姿で世界に顕現し混沌をもたらすと、この世界に転生した直後に聞いたことがあるな。

 なんだか宇宙的恐怖でこちらの正気を削ってきそうだなと思ったのを覚えている。

 あちらさんも〈混沌〉の名を冠しているがもしかして……。


「分かった。〈断罪〉に連絡して刑期をまけてもらうようお願いしてみる。これでも模範囚なんだ。OKだったら〈神託〉で連絡するから迎えに来てくれよな!」


「嫌だ」

「嫌です」

「嫌よ」

「嫌かなあ」


 四次元頬袋の中からは明確な拒否の言葉が四つ聞こえてきた。

 そうだよね……。

 〈大地熱の神〉であるカピバラを連れて行くということは、四次元頬袋に入れるってことだもんね。

 女神たちの敵が受け入れられるわけがなく。


「あーうん、じゃあ〈神託〉が来た時に考えるよ。ほら、すぐ迎えに来れる状況か分からないし」

「その時は頼む、頼むよ!」 


 ゆるキャラが奥義〈問題の先送り〉を繰り出したことも知らずに、カピバラがコミカルな動きで拝み倒してくる。

 済まぬ……仮に刑期が短縮されたとしても迎えに来る確率は限りなく低い。


「あれ、刑期が終わったら〈神の箱庭〉はどうなるんだ?」

「もちろん分体を残して管理は継続するよ。体を分けても意識は共有。常に同期状態だから別の分体が見た〈混沌〉のナイスバディをここの分体とも共有できるのだよ」

「そういえば他の神もみんな基本的には分体だったか」


 きっと本体は遠い宇宙にある星に偽装している心臓に違いない。

 巨大な銀のダーツで貫かないと滅ぼせないやつだ。


 それにしてもナイスバディも今日日聞かないな。

 このカピバラ、ゆるキャラ以上に中身がおっさんじゃないか?

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