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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
9章 悠久狂騒曲

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296話:ゆるキャラと卓上遊戯と覗き魔

「あら、温泉じゃない」


 不意にゆるキャラの脳内へ語りかける声が聞こえた。

 それは幻聴ではなく、四次元頬袋内にいたシマフクロウの〈島袋さん〉……に憑依している〈寛容と曖昧の女神〉ことサシャの声だ。


 ゆるキャラ探検隊には現在入浴中のメンバー以外に、四人の神(神だし数える単位は柱?)が参加している。

 外様の神で外に出られないエリスとブロンディアは強制参加だったが、そこにサシャと〈時と扉の神〉のレジータも加わっていた。


 アトルランの神々と外様の神々は侵略される側とする側で敵対関係にある。

 しかしエリスは元々アトルランの神だったりと複雑な事情もあってか、この四人に限っては仲良くしていた。

 どのくらい仲が良いかというと、今までずっと四次元頬袋内で死蔵していた、竜族の財宝の中にあったボードゲームに興じていたくらいだ。


 そのボードゲームは冒険者になって迷宮に潜り、最奥で待ち構える竜を倒すという定番の内容のもの。

 ゆるキャラも前に少し遊ばせてもらったがこのゲーム、中ボスやラスボスの竜が異様に強い設定になっている。


 範囲攻撃で回避不可の吐息(ブレス)一発で自キャラが黒焦げになった時は、何度も竜の設定を確認してしまった。

 3D6(6面ダイスを3つ振る)の期待値でも即死するレベルなのに、10D6はあかんて……。


 誰もが生きることに必死で、娯楽という概念が無いに等しいアトルランにボードゲームが存在していることには驚いた。

 貴族なら娯楽も嗜むだろうが、それは芸術方面で冒険者が主役のボードゲームは対象外だと思うんだよな。


 これはゆるキャラの予想だが、このボードゲームは竜族への接待ゲーム用の品なのではないだろうか。

 冒険者が主役ではなく、竜が主役なのだ。

 竜族への貢ぎ物のボードゲームなので、その可能性は十分あり得る。


「竜には勝てたかのか?」

「ふっふっふ、通算二十四回目のダンジョンアタックで遂に倒したわよ」


「まじか。竜の設定を変えずに?」

「もちろんじゃない。反則するなんて現実世界で飽き飽きしてるのよ」


 普通は逆だと思うがさすがは神。

 自分たちの行ないが下々にとっては反則行為であると自覚していらっしゃる。


「やはり空腹度の限界、餓死ギリギリまでレベル上げするのが正解でしたね」

「回復アイテムより食料が重要だとは思いませんでした。エリス様の慧眼には感服致します」

「あと少しのところでファンブルした時は焦った~」


 四次元頬袋内部の様子を見てみると、暗黒空間で宅を囲んでぐったりしている神々の姿があった。

 サシャ曰く、最初はダンジョン内で質の良い装備や回復アイテムを充実させる作戦だったそうだ。


 しかしいくら装備を整えても要となる吐息を防ぐ指輪の効果が一度きりで、二度目の吐息までに倒しきれず全滅。

 ならば武器も更に良い物をとトレハンを繰り返したが、どうしても二発目の吐息までに倒せない。


 そこで装備は最低限にしてひたすら食料を調達に専念し、ダンジョンに長く籠りレベル上げに徹してみたところ、装備を充実させるよりも強くなることにエリスが気が付いた。

 こうしてレベルを上(ラスト)げて物理で殴る(○ベリオン)、という真理に辿り着いたのだ。


 通常プレイでラスボスの竜に辿り着くまで二時間はかかるし、トレハンや育成に拘れば倍以上の五時間はかかるだろう。

 そんなゲームをこの神々は寝食を忘れて(神だから不要だが)ぶっ通しで二十四周プレイしていたのであった。


 これが暇を持て余した神々の遊びか。

 ゆるキャラの中の人なら三周もしたら「二度とやらんわこんなクソゲー」となっていたところである。


「さーて気分よく一風呂入ろうかしら。エリスたちには悪いけど」

「私たちのことはお気になさらず」

「あっ私も~」


 ゆるキャラの口からサシャとレジータが飛び出し、そのまま温泉へとダイブした。

 サシャはシマフクロウの外見なのに、水鳥のように湯船の上をすいすいと泳いでいる。

 違和感が凄い。


 レジータは纏っていた黒いドレスを脱ぎ捨て、ニールのような肉体美を晒している。

 やはり恥じらいという概念は無い模様。


 伊達に神をやっておらず、艶やかな褐色の肌に金色の翅が映えて神々しい。

 ただし大きさがフィンと同様に三十センチ程度なので、大きいお友達のフィギュア感からは逃れられないのだが。


 外様の神ゆえに外に出られないエリスたちのために、ゆるキャラは温泉を四次元頬袋内に引き込むことにした。

 温泉をごくごくと飲んで、直径十メートルほどの水球を作る。

 四次元頬袋の特性上、熱といったエネルギーを持つ物体を入れると魔力の消費が増えるのだが、お湯くらいの熱量なら羊羹で回復しなくてもなんとかなった。


「湯加減はどうです?」

「わざわざありがとうございます」

「恩に着る。トウジ殿」


 人外の姿を持つエリスとブロンディアだが、二人とも球体に体を入れるとそれぞれ四脚と逆関節の足をピンと伸ばしてリラックスしていた。

 ちょっと面白い光景だ。


 好評だし四次元頬袋内部は暗黒空間で殺風景だから、富士山の絵を描いた壁でも用意しようかね?

 なんて考えていると、いつの間にかカピバラがまたいた。


 皆が入っている温泉の二つ隣で、岩のようにじっとしてこちらの様子を伺っている。

 ニールとレジータの居るあたりを見つめているので、そこがカピバラの普段の定位置なのだろうか。


 今晩だけだから許してくれ。

 お詫びに食えるか分からないけど羊羹でも進呈しようかなと思っていたら、レジータがカピバラの視線に気が付いた。


「!? きゃああああああ覗きよおおおお」

「やべ、バレた!」


 レジータが自らの豊かな胸を腕で隠して湯船に隠れる。

 一方のカピバラは焦りの表情を浮かべ、イメージに似合わない俊敏な動きで温泉から飛び出すと脱兎の如くこの場から逃走した。

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