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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
1章 ご当地ゆるキャラ、異世界に立つ

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28話:ゆるキャラと魔術

 人間の心を失いたくなければ、人間の姿を手に入れればいいじゃない。

 というわけで早く人間になりたいゆるキャラは、《人化》の魔術についてマリアに尋ねてみる。


「マリアさん、先程話した通り俺は元の世界では人間、じゃなくて人種でしたので、人の姿に戻りたいです。俺も《人化》の魔術を習得することは可能でしょうか?」

「うーん、そうねえ。トウジ君が魔術を扱えるなら《人化》の魔術を唱えることは可能ね」

「なんだか含みのある言い方ですね」

「《人化》って別に好きな姿形になれるわけじゃないのよ」


 竜族が《人化》で人の姿に変わる場合、姿形は決められた一種類だけだった。

 また外見年齢も人種に換算した状態へ変化する。

 つまり幼女姿のシンクは幼竜であり、マリアは……(自主規制)なのである。


「今失礼なこと考えてなかった?」

「いえ滅相もございませんマリアお姉さま」


 一瞬だけ立ち込めた殺気にゆるキャラの毛皮が総毛立つ。

 古今東西、いや異世界でも女性の年齢の扱いはデリケートなのである。


「私たち竜族やそれに並ぶ上位種族は《人化》の姿を持っているの。けれど普通の亜人が《人化》で純粋な人種の姿になった例は聞いたことがないわね。詳しいことはフレイヤに聞いてみるといいわ」


 つまり〈コラン君〉が只の亜人という扱いであれば、《人化》を唱えても人種の姿にはならない可能性があるということか。

 そこは〈混沌の女神〉こと猫謹製のゆるキャラなので、上位種族寄りだと助かるのだが。

 いざ《人化》しても全く別の姿になったりして……。


 また《人化》で変化した姿は、ちゃんと血肉の宿った人種のものである。

 ただし竜族としての力は問題無く振るえるので、見かけに騙されると酷い目にあう。


 角も隠そうと思えば出来るが、竜族の誇りであり象徴であるため、わざと残しているそうだ。

 シンクは《人化》に慣れていないため、隠しきれず尻尾も生えている。

 感情に応じて揺れる様がラブリーなので、もう暫くは慣れなくてもいいかな。


 何はともあれ、ゆるキャラが魔術を扱えるようにならなければ話は進まないので、フレイヤ先生に指導を仰ごう。







「はい、それでは魔術についておさらいしましょう。魔術の五大要素を順に言ってください。フィンさん」

「えっとね、魔素マナと構成、詠唱に魔力と……なんだっけ」

「発生源です」

「はいトウジさん、正解です」

「ちょっとー!今わたしが答えようとしたのに」


 樹海深層にあるシンク宅をお暇した翌日。

 これまで通りの生活に戻り午前中はフレイヤ先生の授業を受け、午後はイレーヌと戦闘訓練をしている。

 魔術の講義に関しては、ゆるキャラと同じで魔術初心者のフィンも参加していた。


「では次に、各要素の意味を述べてください。フィンさん」

「ええとね、魔素はその辺にある魔術のもとで、構成はこうやってねっていうやり方で、詠唱で呼んできて、魔力はお礼。発生源はその辺の子?」

「間違ってはいませんが、偏った説明ですね。トウジさんならどう答えますか?」


「魔素は魔術を発現させるのに必要な媒介で、構成は魔術の発現内容を決める設計図。詠唱は発現させるための呼び水で、魔力は発現に必要な対価。発生源は発現を促す存在、ですかね」

「完璧ですね!トウジさんは飲み込みが早いので教え甲斐があります」

「ぐぬぬぅ……」


 ゆるキャラだけが褒められるのが気に入らないようで、緑髪の小柄な妖精の少女が鬼の形相をしている。

 折角可愛い顔をしているのだからやめたまえ……。


 御覧の通り座学ではフィンよりも優勢であるが、実技に関しては立場が逆転する。

 今のゆるキャラは、野球で監督の采配やバッテリーの球種やコース選択に口出しする癖に、本人はちっとも野球ができないおっさんみたいなものだ。


 まあ実際中身もおっさんだが……。


 かたやフィンは座学はからっきしだめだが、実技は先の〈森崩し〉戦で披露した通り、見様見真似で魔術を発現させた才能の塊だ。

 しかしフレイヤ先生の言う通りフィンの答えは間違いではない。

 言葉のチョイスが彼女の主観に偏っているだけだ。


 各要素をもう少し詳しく説明しよう。

 魔素はこれまでにも出てきた言葉で、このアトルランという世界にいるすべての生命の源であり、世界中の至る所に存在する。

 そして魔術を発現させるための材料としても必要不可欠だ。

 もしこの世界に魔素が無ければ魔術は発現しない。


 構成は魔術を発現させるための設計及び手順で、ここが適当だと魔術が発現しなかったり、違う効果を及ぼしたり、しまいには逆流したりするので重要な要素だ。

 詠唱は先に述べた構成を言霊に変換して、発現の切っ掛けとなる。


 魔力は実際に魔術を発現させるのに必要なエネルギーだ。

 ゲームっぽく言い換えればMPマジックポイントのことで、魔素と言葉が似ているが似て非なるものだ。


 風を起こす魔術を扇風機に見立てるならば、魔素とは扇風機の材料や部品のことで、構成は設計図にあたる。

 詠唱は設計図の手順を読み上げて実際に組み立てる行為で、魔力は扇風機を動かす電力だ。

 詠唱の最後にスイッチオンの指示を出せば、風が巻き起こるというわけだ。


 では最後の発生源とは何か。

 魔術の発現を促す存在、すなわち魔術を詠唱する本人のことでもあるがもう一つ意味がある。


 それはずばり扇風機のメーカーだ。


 フレイヤやフィンの扱う魔術は精霊魔術であり、発生源は様々な精霊になる。

 フィンの各要素の説明に従えば、構成は妖精に対する作業指示内容、詠唱は作業点呼と実際の指示、魔力は作業報酬と考えることが可能だ。

 発生源はそこら辺にいる精霊の子というわけだ。


 他にも神の力を借りる神聖魔術、物質の力を借りる錬金魔術、呪いの力を借りる呪術などがある。


 〈森崩し〉戦でエルフと妖精の治癒魔術の詠唱内容が違ったのは、発生源の違いによるものだ。

 メーカーが違えば同じ扇風機でも材料も説明書の組立手順も違うし、出来上がったデザインや能力も変わる。


 それぞれの発生源に個性があるのでなかなか奥が深い。

 神聖魔術は信仰心が高く、詠唱も神を讃える祝詞が美しい程に威力が増したり、精霊魔術は水場が近ければ水精霊を発生源とした水属性の魔術の威力が増して、火属性は逆に下がる。

 錬金術は触媒とする物質の品質が威力に依存したりする。


 またどの発生源にも頼らない魔術もある。

 真言魔術と呼ばれていて、魔素を除く要素を自身の力で扱うため、細かい所に手が届くが大掛かりな魔術には不向きであった。


 言うならばDIY魔術で、他は外注魔術だ。

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