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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
9章 悠久狂騒曲

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278話:ゆるキャラと嫌われ者

 ゆるキャラたちが飛び退くと、飛来した茨の槍は石造りの足場に深々と突き刺さる。

 そして槍に付いた無数の棘が足場の内部から亀裂が走らせ、砂上の楼閣のようにぼろぼろと崩れ落ちた。

 落下した破片が湖面を叩き、いくつもの水しぶきを作る。


「ユキヨ!頼む」

(わかったよ~)


 ゆるキャラのマフラーに潜り込んで一緒に退避したユキヨに声をかけると、足元の湖面が一気に凍り付く。

 唯一まともに空を飛べないゆるキャラのために、足場を作ってもらったのだ。


 氷上へ着地して四次元頬袋から大剣を引き抜く。

 〈月明剣(げつめいけん)〉と銘打たれているそれに少しずつ魔力を込めると、呼応するかのように刀身が青白く輝きだした。


 足場を砕いた茨の槍は、瞬く間に縮んでラウグストの元へ戻っていく。

 ラウグストは左右に両手を広げると、自身を抱きしめるように腕を動かす。

 するとその動きに合わせて再び伸びた指が茨の鞭となって、左右から挟み込むようにゆるキャラたちへと襲い掛かった。


 湖面上のゆるキャラより先に、上空へ逃げたリリンへと茨の鞭が到達する。

 自由自在に動くラウグストの指に負けじと、リリンは背中から生えている黒い翼を変形させた。

 漆黒の翼を体の前方へ引き伸ばし、ゴスロリドレスを纏った小柄な体を庇うように展開する。


 茨の鞭の一本が正面から翼を打ち据えた。

 次の瞬間、リリンの姿がその場から掻き消える。


 直後にドーム状の壁にクレーターができて、僅かに遅れて大きな衝撃音がゆるキャラの耳朶を打つ。

 クレーターの中心部から、壁を構成する黒水晶の破片と共に落下するリリンが見えた。


「リリン!」


 叫びながら凍った湖面を蹴って、ゆるキャラに左上から迫る茨の鞭を躱す。

 振るわれた五指の鞭の間隔は広いため、一本を避ければ事足りた。


 エゾモモンガの鼻先を掠めた茨の鞭が湖面の氷を砕き、大きな水柱を生み出す。

 その視界一杯に広がる水柱を突き破って何かが飛び出してきた。


 ラウグストだ。


 収縮を始めた十指をたなびかせながら、飛び蹴りの姿勢でゆるキャラに突っ込んでくる。

 足先では茨が絶えず回転していてまるでドリルのようだ。


 湖面を蹴った直後だから駄目だ、避けられない。

 ラウグストの飛び蹴りがゆるキャラの灰褐色の丸い腹を穿った。


 ……かと思われたが雨傘が水滴を弾くが如く、ラウグストはゆるキャラの表面で滑ってあらぬ方向に飛んで行く。

 勢いの衰えぬままドーム状の壁に激突し、リリンの時以上に巨大なクレーターが出来上がる。


 危なかった。

 あらゆる攻撃を弾くチートなマフラーでの防御が間に合わなければ、ゆるキャラの腹に大穴が開くところであった。


「リリン、大丈夫か?」

「いったーい。受け止めずに流せばよかったわ」


 ユキヨに移動に合わせて湖面を凍らせてもらいながら、ぐったりした様子で浮いているリリンへと駆け寄る。

 壁に激突して全体的に薄汚れてはいるが軽傷のようだ。

 無事なようで良かった。


「大敵を前に気分が高揚して確認する前に攻撃してしまいましたが、そちらのどなたかの眷属は裏切り者ということで宜しいようですね」


「貴方、黒茨卿と既に敵対していたのね。昔からあそこの連中は自己中心的で周りから嫌われていたけど相変わらずだわ」


 壁の大穴からこちらを見下ろすラウグストに対して、リリンが辛辣な言葉を投げかける。

 確かリリンは目覚めてから日が浅く、アトルランでの外様の神の活動情勢には疎いと聞いたことがある。

 ゆるキャラは黒茨卿とやらに詳しくなかったが、どうやらリリンとしても何か思う所はあるようだ。


『まさか彼のような上位眷属がここに現れるとは。幸いにも私たちの存在は気取られていないようですが、トウジさんたちだけで退けるのは難しいかもしれません……退ける事自体は問題ありませんが』


『黒茨卿の眷属が相手なら我らでも気兼ねなく屠れる相手だ』


 四次元頬袋の内部の暗黒空間からエリスとブロンディアが話しかけてくる。

 ゆるキャラの視界を共有できるようで、二人は外の様子をしっかりと把握していた。


 便利だけど謎機能だ。

 ゆるキャラの拡張視覚であるアイテムウィンドウに顔のアップが映っている状態なので、なんだかテレビのワイプみたいになっている。


 というか黒茨卿(ブラックソーン)、皆から嫌われ過ぎでは?

 一応アトルランへの侵略組という括りで言えば、リリンもエリスたちも仲間だと思うのだが。


『我らが葬った場合、間違いなく我々の離反が黒茨卿当人に伝わるだろう。そうなればただちに地球とやらに出発しなければ妨害されるのは間違いない』


 それは困る。

 まだシンクとハクアを再会させていないのだから。

 つまりラウグストはゆるキャラたちだけの力で倒さなければならない。


「開拓卿も探訪卿もどういうわけか不在のようですが、邪魔が入らず好都合ですね。必ずや大敵をこの手で打倒し、魂を御身への供物として捧げましょう―――」


 一方的な宣言はラウグストが壁を蹴ったことにより尻切れトンボになる。

 迎撃しようとゆるキャラは大剣を構えたが、先に茨人間であるラウグストの接近を阻むように白い靄が発生した。


 それは空間そのものを凍て付かせ、あらゆる運動エネルギーを強制的に止める絶対零度の領域、と言っても過言ではないのかもしれない。


 実際に靄に突っ込んだラウグストの全身が一瞬で凍り付き、空中で縫い付けられたかのように停止したからだ。

 全身に絡みつき絶えず蠢いていた茨も動きを止めている。


「そのまま凍らせておいて。粉々にしてやるわ」

(ん~)


 ユキヨにそう指示したリリンの碧眼が爛と輝く。

 端正な顔に獰猛な笑みを浮かべると、背中の黒い翼を変形させた。


 小柄な体躯に見合った大きさだった翼が、縦にも横にも膨らんでいく。

 片翼一メートルに満たない大きさだったものが五メートル程まで巨大化した所で、リリンは凍り付いたラウグスト正面まで飛び上がった。


 そしてその場で舞うように一回転。


 ゴスロリドレスのスカートがふわりと持ち上がると、その外側で回転していた巨大な翼がラウグストを強かに打ち据える。


 体積だけでなく質量も増加していそうな重たい一撃は、芯まで凍り付いていたラウグストを粉々に打ち砕いた。

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