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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
8章 ロマン輝くエリステイル

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254話:ゆるキャラと変態

 ゆるキャラたちを出迎えたのは闇の眷属(ミディアン)のリリンだ。

 いつもの赤と黒を基調にしたゴスロリドレスを身に纏った可憐な少女は、今日もコラン村の外壁の施工に従事している。


 従事と言っても本人が自主的に行なっている暇つぶしなのだが。


「おかえりなさい。今日は早かったのね。あら、お客さんやらペットやらで賑やかだこと」


 リリンは支えもなく宙に浮いた黒いゴンドラで外壁に乗り付けて作業しており、高い位置からこちらを見下ろしてくる。

 ゴンドラ内部には椅子とテーブルがあり、そこに座って雑誌を広げて優雅に紅茶を飲んでいた。


 一見するとただのティータイムだが、背中から生えている蝙蝠の羽は無数の鋭い(きり)のように変形していて、せわしなく外壁を突っついている。

 ちなみにゴンドラも椅子もテーブルも蝙蝠の羽を変形させたものだ。


 雑誌というのはゆるキャラが提供した北海道の観光ガイドブックである。

 ガイドブックはコランくんグッズとして扱うようなものではないのだが、今号は胡蘭市が特集されていたからか〈商品〉の新着として追加されていた。


 最初は久しぶりに写真で見た故郷の風景に望郷の念を抱いたりもした。

 しかしその風景をリリンが外壁に手あたり次第に刻み込むものだから、早々に見飽きてしまったというのが正直な感想だ。


 胡蘭市のシンボル的な鉄橋や森林公園といった風景の他に、名物ラーメンや北海道に生息する動物、しまいには市章まで彫刻しだしたので、それはもうカオスな外壁と化している。

 まあでもラーメンや市章の正体を知らないこの世界の人が見れば、神秘的な壁画に見えるかも……いやさすがに無理か。


 入口の左右の壁には〈コラン君〉とその妹キャラでキタキツネベースの〈ホロカちゃん〉、旧大翼町のマスコットでシマフクロウベースの〈島袋さん〉が彫りこまれそこだけメルヘンな感じだ。


「ええと、ここは〈神獣〉殿の国なのか?こんな巨大で立派な外壁もこの間まで無かったはずだけど」


 唖然としながら大きく〈コラン君〉が刻まれた外壁を見上げる冒険者たち。

 一同の顔色は悪く、驚き以上に忽然と現れた異様な巨大人工物への恐怖が勝っている様子。

 彼らの正気度がゼロになる前にゆるキャラがフォローする。


「外壁の岩は全部ニールが、〈神の手〉が積み上げたんだ。トロールが亜人の村々を襲っていたのは聞いているだろ?また似たようなことがあっても守れるようにしたんだよ。いやーさすが第一位階冒険者だよねー。彫刻は誰かさんが勝手に掘ってるだけだから知らん」


「〈神の手〉殿ならこのくらいできる、のか?」

「ふむふむ素晴らしい彫刻だね。そこのお嬢さん、僕の美しい鎧も彫ってくれないか」


「ちょっとあんたやめなさいよ。あれは闇の……」

「あら、美味しそうな子がいるじゃない」


 ルーファスを止めようとするナスターシャの前に、リリンが彫刻をやめてふわりと舞い降りた。

 急接近してきた闇の眷属に思わずナスターシャは息を呑んで後ずさる。


 頭の左右で揺れるツインテールから足の先までを嘗め回すように見てから、リリンが妖しく碧眼を輝かせて(うそぶ)く。


「ふむふむ、年は成人したての十五、六歳くらい。病気や怪我もなく健康体。冒険者は体が資本だものねえ。すんすん、それにこの匂いからして間違いなく処……」


 え、小振りな鼻をひくつかせて急に何を言い出すんだこの変態吸血鬼は。

 視線も微妙に下向きだし。


「こら、セクハラ変態行為及び個人情報を流出させない」

「いたっ。ちょっとした冗談で和ませようとしただけじゃないの、もう」


 ゆるキャラがオジロワシの手羽先でリリンの頭をはたくと、変態吸血鬼が頬を膨らませながら振り向いた。

 普段は上品な雰囲気を出してるくせに、突然ド下ネタを放り込んでくるとは。


 ああでも初めて出会った時も変なお嬢様口調だったし、根は結構ひょうきんな性格なのだろうか。

 でもその辺を追及するとはぐらかすんだよなあ。


「おかげで恐怖心は無くなったでしょ?」

「代わりに羞恥心で場が気まずくなってるぞ」


「なによ、貴方だって差は分からなくても匂い自体は嗅ぎ取れてるんでしょう?今度同じ人族で嗅ぎ比べてみるといいわ。ほら、あの街娘のミル……」


 おいやめろ。

 確かにエゾモモンガの鋭い嗅覚は()()()血の匂いを拾っていたが、ゆるキャラを変態仲間に入れようとするんじゃあない。

 あとこの場にいない人物への唐突な流れ弾もやめろ。


(ねえトウジ。匂いってなんの匂い?)

「ハイ!!やめやめ。この話はおしまい。というわけでこいつが吸血鬼のリリンだ。少なくとも物理的に危害は加えないから安心してくれ」


「トウジさん。この話ってなんのことだ?」

「……あ、そうか。リリンの言葉は通じてないのか」


 ここでようやく周囲の反応が気まずいのではなく、理解できず戸惑っていただけだと気が付いた。

 ユキヨが同時翻訳してなくて助かった。

 ゆるキャラとミルラの名誉は守られたのだ。


「おっほん。では改めて紹介しよう。彼女が闇の眷属で吸血鬼のリリンだ」


「なんとこんな美しいお嬢さんが闇の眷属だったなんて。人族であれば求婚していたところだよ。いや、闇の眷属でも友好的なら僕の伴侶たりえるかな?」

「なっ!」


 ルーファスが突拍子もない発言をすると、それを聞いたナスターシャが何故か慌てだした。

 おや、もしかしてもしかするのかな。


「何を言ってるか知らないけれど、青二才なお坊ちゃんはお呼びじゃないわ。でもうら若い乙女は歓迎よ。最近御無沙汰だから献血にご協力願えないかしら」


「だからやめろっての」

「ぎゃんっ」


 ナスターシャの両手を掴み顔を近づけるリリンの頭に再度手羽先の鉄槌を落として、強引に話を進める。


「ここはコラ、元騎馬族の村なんだが騎馬族以外に兎形族、最近はその他の亜人の村からも移住者が来るようになったんだ。とにかく中に入ろう」


 どう足掻いても複数の意味で入れない氷熊はユキヨの説得(脅し)でその場に待機。


「Vhuuuuuuuuum……」


 あまりに悲しそうに鳴くものだから、冒険者たちまで気の毒そうな顔をしている。

 最初こそ氷熊を警戒していた彼らだが、村への移動の間にすっかり大人しくなった魔獣に慣れていた。

 さすがは冒険者で順応するのが早いな。


「白熊ちゃんは私と一緒にお留守番してましょうね」


 リリンが飼い犬でも撫でるかのような気軽な仕草で、頭垂れていた氷熊の喉元へ手を伸ばす。

 氷熊は相手が魔獣にとっても外敵である闇の眷属だと察知したのか、その動きに過剰に反応した。


 唸り声を上げながら牙を剥き、小柄なリリンを丸呑みにしようとするがそれは悪手だ。


「はい伏せ。おいたは駄目よ」


 リリンの言葉に呼応して背中の蝙蝠の羽が無数の糸に分裂して一気に広がると、氷熊の頭上から襲い掛かった。

 黒く強靭な糸が瞬く間に氷熊の体全体に覆い被さると、そのまま地面へ押し潰すように縫い付けてしまう。


 氷熊はしばらく藻掻いていたが、自らの怪力を持ってしても振り解くどころか身動き一つ取れないことを悟ると、先程よりも輪をかけて情けない声で鳴きだした。

 冒険者を追い回していた時の雄々しさはどこへやらだ。


「ペットはちゃんと躾けないと駄目じゃないの」

「別にペットじゃないんだけどな」


 リリンがあっさり氷熊を無力化させたのを見て、冒険者たちの表情が再び強張る。

 物理的には何もしないから。

 精神的な被害は保証しかねるが……。

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