表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
8章 ロマン輝くエリステイル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/400

251話:ゆるキャラとアイスメテオ

 みんな大好き水蒸気爆発(次点:粉塵爆破)がゆるキャラと氷熊に襲い掛かった。

 閉所ではないので、膨張するがままの水蒸気に押し飛ばされそうになる。


 ゆるキャラは地に伏せるように屈み、首に巻いている赤いマフラーを素早く被って爆発をやり過ごす。

 一方で氷熊は顔面からもろに食らっていた。


 新米熱波師ゆるキャラの起こした蒸気(ロウリュ)に鼻を焼かれ、唸りながら巨体を仰け反らせ背中から地面に倒れる。


 それにしても巨体のわりによく転ぶ熊さんだ。

 いやまあ全部ゆるキャラのせいなのだが。


 そういえば背中に刺した幅広の剣が見当たらないが、刺さったままなのだろうか。

 今の転倒で背中と地面が激突しているので、より深く食い込んでしまったのかもしれない。


 この好機を逃すまいと、ゆるキャラは戦槌を腰だめに構えながら氷熊に駆け寄る。

 起き上がる前に腹へ飛び乗り、なんとも親近感の湧く白い毛並みに魔力を籠めた戦槌を再び振り下ろした。

 鳩尾付近に灼熱の戦槌が食い込み、息を詰まらせた氷熊の大きな口の端から咆哮と涎が零れる。


 もう一発打ち込もうとしたところで左右から猛烈に迫る物体を察知。

 前方に飛んでゆるキャラを捕まえようとした両腕から紙一重で逃れた。

 左右から破城槌のように撃ち出された太い腕に掴まってしまえば、熊式鯖折り(ベアハッグ)どころかすり身にされていたに違いない。


 氷熊の頭上を通過する際に視線が合う。

 相変わらず目だけはつぶらで可愛らしいが、内心はゆるキャラへの憎悪で燃えているのだろう、多分。


 着地と同時に振り向いて追撃を放つ。

 イメージするのは某狩猟ゲームの武器であるハンマーのように、スタンプ二回の後にかち上げを繰り出すあの動きだ。


 見様見真似ではあるが加護のおかげで、そこそこ様になった槌さばきを見せているゆるキャラである。

 【混沌の女神の加護】は万能型なのか様々な武器を扱う事ができたが、一般的な加護は一部の武器に特化することが多いらしい。


 剣にまつわる強力な加護を授かれば、剣聖と呼ばれたりすることもあるとかないとか。

 きっとキラキラ光りながら五連撃を繰り出したりするのだろう。


 より強大な力を求めるゆるキャラとしては特化型のほうが良かったのだが。

 いや、考え方にもよるだろうか?


 戦う相手に合わせて有効な武器を選択できるのも強みの一つだ。

 よく某狩猟ゲーム内でも○○使いなんて自称する輩がいるが、真のハンターは全ての武器を使いこなしてこそだ、というのがゆるキャラの中の人の持論で……。


 なんて雑念全開なのが宜しくなかったのだろう。

 振り下ろした槌が氷熊の頭部に当たりはしたが、頑丈な頭蓋骨に阻まれ表面を滑ってしまい有効打にはならなかった。


 そういえば(ヒグマ)の頭蓋骨も頑丈で、角度によっては猟銃の弾丸さえも弾くと聞いたことがある。

 これだけ大きければ頭蓋骨の厚みも羆の比じゃない。

 いくら加護の補正があったとしても、雑念まみれのおざなりな攻撃では通用しないのも当たり前か。


 二撃目のスタンプを食らわせようと槌を振り上げたところで、仰向けに寝転んだまま氷熊が口を開けた。

 口腔内が青白く光っている。

 やばい、れいとうビームだ。


 槌を手放し仰け反って躱すと、冷気の奔流はエゾモモンガの鼻先を掠めて空へと放たれた。

 そのままゴロゴロと何度か後転して距離を取って起き上がる。


 追撃の奔流を警戒してマフラーを掴んだが、ゆるキャラの視界に入ってきたのは遠ざかる氷熊の尻だった。


「って、逃げるのかよ」


 予想外の動きにツッコミを入れつつも慌てて槌を拾い追いかける。

 何故なら氷熊の向かう先にはこちらの様子を見ていた冒険者たちがいたからだ。

 もしかして逃走ではなく彼らを人質に取るつもりか。


「おい!さっさと逃げろ!」


 ゆるキャラが声を張り上げても、冒険者たちは驚愕の表情を浮かべながら口を開けて見上げるばかりであった。

 彼らの視線は氷熊の巨体よりも更に上で固定されていて……更に上?

 釣られてゆるキャラも氷熊の上空を見上げた瞬間、何かが降ってきたのを目撃する。


 それは巨大な氷塊だった。


 どのくらい巨大かといえば、体長が十メートル弱ある氷熊がすっぽり隠れるくらいだ。

 そんな氷塊が振ってきて走る氷熊に直撃。


 巨大質量が地面に着弾し、先程の水蒸気爆発以上の衝撃波となってゆるキャラと冒険者たちを襲った。

 大地が抉られ地表を覆っていた雪だけでなく、その下の土も掘り起こし巻き上げ、一緒くたにして吹き飛ばす。


 逃げ場などもちろん無いので、ゆるキャラも一緒くたの仲間入りを果たした。

 雪と土にまみれもみくちゃにされ、上か下かも分からない状態で吹き飛ばされる。


 ……どのくらい経っただろうか。

 ようやく収まったので体を起こすと周囲は大惨事になっていた。


 直径百メートルくらいの巨大クレーターが出来ていて、中心部には半分ほど埋まった氷塊が鎮座している。

 不思議なことに砕けたり溶けたりはしておらず、落下前の状態を保っていた。

 氷塊の下には氷熊がいるはずだが、さすがに原型は留めていまい。


 派手に吹き飛ばされたが、障害物の無い平原で雪と土がクッションになりほぼ無傷だった。

 冒険者たちも無事だと良いのだが。


 中心部に近づくと、氷塊の天辺付近でふわふわ浮かぶ何かを発見した。

 向こうもこちらに気が付いたようで真っすぐ飛んでくる。


 妖艶な顔立ちに無垢な笑顔を咲かせた彼女は、溶けた雪と土が混じり泥だらけになっているゆるキャラに躊躇無く抱き付いてきた。


(大丈夫~?助けにきたよ)


「……ユキヨ。やりすぎだ」


 冒険者たち、殺しちゃってないよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ