245話:ゆるキャラと……おや!?ユキヨのようすが……!
「うーん、雪女?」
「雪女……だな」
「雪女かしらねえ」
何はともあれ、ゆるキャラたちは騎馬族の村に受け入れられた。
そして間借りした平屋で一泊した翌朝、目の前には雪女がいた。
顔つきは端正で大人びているが僅かに幼さが残っていて、外見年齢としては二十前くらいといったところか。
ゆるキャラだけでなくニールとリリンも雪女と評したように、白い着物のようなものを羽織っている。
ただし裾はミニスカートのように短くなっていて真っ白な素足が剥き出しだし、袖はいわゆる姫袖で大きく誇張されていた。
胸元も布面積が少なく豊満な胸が零れ出そうになっているので、それはもうアレなコスプレのようである。
空中をふわふわ漂っていて、ニールよりも長い髪の先端は自身の爪先よりも下にある。
その色は透き通るような青だ。
氷山の青い部分と言えばイメージが湧くだろうか?
「そんな進化をするならユキメって名付けたのに」
(え~嫌よ ユキヨの方がいい)
そう、彼女はユキヨである。
これまでは白い綿毛のケサランパサラン、もしくは白いウニといった様相だったというのに、朝起きたら雪女になっていた。
「もしかして存在進化ってやつか?」
(ん~多分そう? トウジのくれるごはんが美味しかったから)
ユキヨは椅子に足を組んで座っているかのような体勢で空中に浮かびつつ、腕を組みながらコケティッシュに首を傾げている。
腕を組んだことにより大きい胸がより強調されている……のだが、大きいというのはあくまで体の比率に対しての話だ。
ユキヨの全長は四十センチ程度で、どこかの妖精の里に住む妖精さんたちとほぼ同じ大きさだった。
あちらさんと同様に大きいお友達用のフィギュア感が溢れる良いスタイルをしているが、気持ちユキヨのほうが大きいだろうか。
妖精と精霊の差なのか、細部の作りや頭身も微妙に違う気がする。
○B戦士と○祖SDみたいな……ってあれは結構差がはっきりしているか。
「存在進化?」
「ユキヨみたいな精霊や妖精は蓄えた魔力を使って進化するんだ。俺が提供している饅頭や羊羹は上質な魔力が含まれているから、それが進化を促したんだろう。知り合いの妖精も進化前はユキヨみたいに小さいんだが、進化するとニールと同じ人間サイズになってたな。さすがに毛玉から雪女になるとは思わなかったけどな」
進化するなら白いバックベアード様みたいになるかと思ったのに。
ニールがユキヨと同じ角度で首を傾げていたので軽く説明する。
先輩の方が異邦人歴は長いが、アトルランの知識量で必ずしも上回っているわけでもなさそうだ。
まあ妖精や精霊に縁が無ければ知る由もない情報か。
「進化のおかげで言葉はだいぶ流暢になったな」
(でしょ~ 褒めて褒めて)
「これでリリンの話し相手ができたな」
「だからって貴方との約束が無くなるわけじゃないわよ」
リリンが釘を刺してきたが、もちろん分かっている。
というか今約束を反故にして《意思伝達》のペンダントを返却してしまうと、ゆるキャラのほうが困ってしまうからな。
「それにしても随分早い進化だったな。フィン……知り合いの妖精はしこたま食っても進化しなかったのに」
もしかしてこっそりBボタンを押して進化キャンセルでもしていたのかね。
確か急激に進化しても体の成長に心が追い付かないと、妖精女王フレイヤは言っていたがユキヨは大丈夫だろうか。
暫くは突然変化した体に戸惑っていないか注視しておこう。
ゆるキャラも突然〈コラン君〉の体になった時は大変だったからな……。
さて、今日は兎形族の村へ向かう予定だ。
助けた子供二人を送り届けるためだがイルドも同行することになった。
トロールの脅威が去った今、それぞれの村の今後を決める相談を向こうでするそうだ。
「他の亜人の村に移り住むとか?」
周辺の雪山地帯には様々な亜人の少数部族の村が点在していた。
差別意識の強い人族からの迫害から逃れて僻地で暮らしている人々だ。
「それも一つの案だが、できればしたくないところだな。同じ亜人とはいえ余所者には違いない。決して良い扱いはしてもらえないだろう」
どこの村も僻地にあり寒村と言っても差し支えない状況で、日々を慎ましく暮らしているそうだ。
だから急に食い扶持が増えても迷惑でしかなかった。
最悪複数の村に数人ずつ厄介になれば、負担は減り受け入れやすくなるかもしれないが、離れ離れになる騎馬族の子供たちが可哀そうだ。
ただでさえ同胞や家族を殺され心に大きな傷を負っているというのに。
「それじゃあどうするんだ?」
「騎馬族と兎形族の被害を受けた村同士で合併するのが無難だろうな。それを提案するために私が同行するんだ」
「なるほどね。生き残った者たち同士で補い合い助け合うというわけか。でもそれだけで村として成立するのか?」
生き残ったのは大人に逃がされた子供が多く、狩りはもちろん労働力としても心許ない。
ゆるキャラの指摘は的を射ていたようで、イルドの凛々しい柳眉に皺が寄る。
「ああ……狩りに出られるのが私と弟だけでは足りないし、出ずっぱりで狩ったとしても村の守りが疎かになってしまう。兎形族に戦える大人が残っていれば良いのだが」
「村の守りなら多少手助けできるんじゃないか?」
黙って話を聞いていたニールが突然発言する。
両肩には相変わらず兎形族の子供を乗せていて、器用に両方の背中を撫でていた。
「リリンが切って、トウジが運んで、私が積み上げればいいんだよ」
「え、何?今お姉さまに呼ばれた?」
自分の翼を変形させて作った即席の椅子に座って、ぼーっと(吸血鬼なのに)日向ぼっこしていたリリンがこちらへ振り向く。
言葉が分からないので早々に話し合いからは離脱していたのだが、自分の名前だけは聞き取れたようだ。




