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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
8章 ロマン輝くエリステイル

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244話:ゆるキャラと以心伝心

「そうか……もう全て終わったのだな。トウジ並びに皆様方、同胞の仇を取って頂き感謝する」


 そう言ってイルドは馬の四肢を曲げて地面に座り込み、ゆるキャラたちに頭を下げる。

 騎馬族の命とも言える馬の足を畳んで大地に伏すその行為は最敬礼に等しい……かどうかは知らないが、イルドが心から感謝していることは伝わってきた。


「だが元々は同胞の仇であったティアネ殿とリリン殿を村に迎えることはできない。たとえトロールを裏切ってトウジ殿に助成してくれていたのだとしてもだ」


 それはまあ、そうだろう。

 騎馬族はほぼ皆殺しにされてしまったわけだが、生き残った騎馬族の子供たちの中には襲撃したトロールたちを目撃した子もいるはずだ。


 同族であるティアネを見て恐怖を覚えないわけがない。

 こちらもそれが分かっていたので、こうしてイルドを村の外に呼び出して話をしていた。


「見た目的には誤魔化せそうな気もするけど、やっぱり邪人と闇の眷属が纏っている魔力が良くないのか?」


「そうだな。直接的な仇じゃないとしても邪人と闇の眷属は普通は恐怖の対象だ。猛獣と同じ檻に入れられて平静でいられるわけがないのと同じで、子供なら尚更だ。」


 邪人や闇の眷属が内包する異質な魔力を、アトルランの住人たちは敏感に感じ取ることができた。

 それはもはや本能と言っても過言ではなく、創造神に生み出された子らすべてに備わった能力である。


「ちゃんと約束通りトウジにはなんとかしてもらうわよ。こんな雪山で野宿なんて私もティアネも嫌よ」

「ううむ……」


 道中ずっとどうするか考えていたのだが、結局ゆるキャラは妙案を思いつかなかった。


 体に纏っている魔力を偽装することができる魔術具がある。

 前の大陸でゆるキャラが保護していた邪人の闇森人(ダークエルフ)の母子は、その魔術具のおかげで他者からの敵愾心(ヘイト)が減り行動の制限が大幅に解消された。


 同じものが手元にあれば良いのだが、希少なアイテムだから余りなど無い。

 なのでゆるキャラの中では早々にリリンたちの入村は諦め、「ここをキャンプ地とする!」宣言をするつもりであった。


 野宿が嫌と言うのであれば、豪華なキャンプ地にする他あるまい。

 四次元頬袋に眠っている竜族の財宝の調度品を駆使してキャンプ、いやグランピングでもてなす所存だ。


「ねえねえ。ニールお姉さまのテレパシーで私たちに害意が無いことを伝えられないかしら」

「ん?どうした?」


 こちらのやり取りを黙って聞いていたニールへ不意にリリンが話を振る。

 純白のローブの裾をくいくいと引っ張って、上目遣いで問いかけていた。


 雪原で向かい合う美少女と美女のツーショットは中々に映える。

 リリンの闇の眷属の言葉をニールは理解できないので、側でふわふわ浮かんでいたユキヨが通訳した。


(りりんがね てれぱしーで みんなにこわくないよっていってほしいんだって)


「ふうむ、【感情転送】を使えば、一応できるかな」


「えっ?できるのか?」


 まじかよニール先輩は万能だな。

 リリンもよくニールの【精神感応(テレパシー)】を使おうなんて思いついたな。

 というかいつのまにお姉さま呼びになったんだ。


 アトルランに超能力は存在しない。

 加護の力に依らない超常的な能力と聞いて、〈冬東協会〉の連中だけでなくティアネも最初は戸惑っていた。

 ゆるキャラの故郷である地球にも存在しないが(益子藤治が知らなかっただけかもしれないが)、フィクションとしては知っていたので割とすんなり受け入れることができた。


 リリンも超能力という言葉自体を知っているどころか、ゆるキャラより詳しそうだ。

 まるで超能力そのものを見知っているかのように。


「リリンって日本連邦国出身だったりするのか?」


「ニホン連邦国?なにそれ」


 とにかく【感情転送】なるものを試してみることになった。

 そして結論を先に述べると、リリンとティアネは騎馬族の村に無事迎え入れられたのだが……。





「ティアネのねーちゃんって二本足なのにイルド姉みたいにでっかいね!ということは走ってもイルド姉みたいに速いの?」


「おねーちゃんあっちで雪輪花をつもうー?お花の冠作って!」


「え、あ、あのう、ちょっと」


 ティアネが騎馬族の子供たちに群がられている。

 下半身が馬である騎馬族は子供でも体が大きめだが、トロールであるティアネも高身長のため背丈は騎馬族の大人と変わらない。


 左右の手を引っ張られている光景は種族差はあるものの、姉に構って惜しい弟妹たちのようだ。

 まあ群がられている当人は困惑する一方だったが。

 【感情転送】によりティアネの人柄が正しく伝わった結果、ニールと兎形族の子供の時のように思いっきり懐かれたのだ。


 イルドの承諾を得て皆で村に入ると、事前通達はしていたがリリンとティアネの異質な魔力を感知した騎馬族の子供たちは恐慌状態に陥りかけた。

 そこですかさず二人の背後で待機していたニールがすかさず【感情転送】を発動。


 リリンの肩、ティアネの背中に触れているニールを出力元にして、指向性を与えられた感情がゆるキャラを含めた皆に流れ込んでくる。


 まず先にティアネの感情が周囲の皆に伝播したわけだが、その感覚はなんとも言葉では言い表せない独特なものであった。

 無理やり説明するなら、「強引な感情移入」だろうか。


 感情と言っても喜怒哀楽といった単調なものではなく、ティアネからは同族の犯した罪への謝罪と贖罪の気持ちが流れ込んできた。

 まるで自分がティアネになったかのような錯覚すら覚える。


 騎馬族と兎形族にとっては仇の身内であり、その正体を明かすのは逆効果に思われたが、受け手の大半が純粋な子供だったからかそうはならなかった。

 ティアネが心から家族の所業を憎み、止められなかったこと悔やんでいる心の葛藤を素直に信じたようだ。

 ティアネもまた被害者なのだと同情して泣き出す子までいて、その結果があの懐かれようである。


 ゆるキャラも改めてティアネの性根を知ったわけだが、さすがに子供たちほど鵜呑みにはしない。

 能力の名前の通り転送されるのは多少複雑であっても結局はその時の感情だけであり、次の瞬間には違う感情が芽生えていてもおかしくないだろう。


 また【精神感応】に慣れると感情すらコントロールして偽装できるようになると、ニールからは事前に説明も受けていた。

 いやまあティアネはそんな子ではないのだが。


 なんだかんだでティアネは受け入れられたが問題はリリンの方である。


「ちょっと、なんで私には誰も近寄ってこないのよ!」


「それは自分自身が一番分かってるんじゃないか?」


「ぐぬぬ…」


 ゆるキャラの隣りではリリンが拗ねて頬を膨らませている。

 リリンから流れてきた感情は妙に不自然で緊張感が漂うものであった。

 害意自体は無いのだが、必死に友好的な態度を示そうというぎこちない気持ちが感じ取れた。


 例えるなら羊の群れに紛れようとする狼だろうか。

 自分が羊たちにとって脅威であると自覚していて、うっかり爪で触れたら引き裂いてしまいそう、というおっかなびっくりな雰囲気を醸し出しているのだ。


 ニールの【感情転送】は優秀で、そういった感情の機微までしっかりと転送されていた。

 害意は無くてもうっかり近寄っただけで傷付けられたらたまったものではない。

 そりゃあ子供たちも近付かないだろうさ。


「もう少し取り繕えないものかね。意外と不器用なんだな。蝙蝠の羽の操作は繊細で完璧なのに」


「う、うっさいわね。多少欠点のある女子のほうが可愛いじゃないの。こうなったらみんな〈魅了〉して強引に仲良くなってやろうかしら」


 冗談だとしてもそういう乱暴な考え方は余計に嫌われると思うけどなあ。

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