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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
8章 ロマン輝くエリステイル

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239話:ゆるキャラとアナザー、あるいはパラレル

 突然ゆるキャラが叫んだので、周りの皆がびっくりしていた。


「いきなりどうしたのよ」

「あーごめん、ちょっと、いやかなり俺も驚いただけ。もう少し待っててくれ」


 訝し気に聞いてくるリリンに一旦《意思伝達》のペンダントを握りしめて返事をした後、すぐに手放してニールと日本語で情報交換を続ける。

 ユキヨにだけは日本語も筒抜けになるが、ペンダント回収のお礼に饅頭や羊羹、プリンにハスカップジュースとフルコースを与えたので、今は食べることに夢中になっていた。


 それにしても連邦国だとか師団だとか超能力だとか人造人間だとか、ツッコミどころが多すぎる。


『俺が住んでいた日本とニールの日本は完全に別物だな。こっちの日本は連邦国じゃないし、超能力も人造人間も存在しない。俺が一般人だから知らないだけで、本当は実在している可能性もなくはないが』


 実際問題として非現実的な〈混沌の女神〉とかいう猫が地球にいて、ゆるキャラは異世界のアトルランへ連れてこられたしな。


『そうか違う日本なのか……。こちらの日本でも超能力や人造人間といったものは公にはなっているが、一般人にまで浸透しているわけじゃなく軍事利用に留まっている』


『他国と戦争でもしてるのか?』

『ああ、その通りだ』


 詳しく聞いていくと、こちらとは違ってかなり物騒な世界情勢だった。

 何が始まるんです?なんて茶化すことが出来ないくらいに世界規模で戦争が起こっていて、ニールも超能力を使う兵士として戦場を駆けまわっていた。

 地球誕生や人類誕生、西暦のスタートから近代まではほぼ一緒だったが、現代に近付くにつれてゆるキャラの知っている歴史からは逸脱していく。


『いわゆる平行世界(パラレルワールド)というやつか。そんなSFじゃあるまいし』

『俺から言わせれば超能力も人造人間も十分SFだけどなあ』


 異世界と平行世界の違いはなんだろう?

 ゆるキャラの勝手な想像では、異世界は遠い宇宙にある地球に似た惑星といったイメージで、平行世界は地球とほぼ同じだけど別の宇宙、別の次元にある世界といった感じだ。


 異世界は地球とは全く違った環境、生態系、概念で成り立つ世界だが、平行世界は地球とそっくり。

 つまりゆるキャラの同姓同名の人物が、同じ学校や会社に通い、同じ時間に似たような会話をして生活しているのだ。


 もし現代日本で皆が超能力に目覚めたなら、もし科学が発達していて人造人間が作成可能だったなら。

 ベースとなる世界は同じなのでニールのいた日本にも、益子藤治という人物が住んでいるのだろう。


 こう考えると異世界と平行世界は別物に感じるが、本当にそうだろうか?

 ただ単に似ている度合いが違うだけじゃないか?


 極端な例をあげると、惑星の誕生から歴史が分岐していると考えるならアトルランと地球も平行世界と言えなくもない。

 アトルランのどこかにも益子藤治のそっくりさんがいるかもしれないのだ。

 それにニールの故郷である日本連邦国は、限りなく日本国に似た異世界と言い換えることもできる。


 宇宙は無限に広がり続けており、人類の力では到底観測し尽すことはできない。

 アトルランや日本連邦国が地球と同一次元なのか、それとも別次元なのかなんて知る由もない。


 まさに神のみぞ知るというやつだ。

 次に猫に会った時に聞いてみようかね。


 平行世界という単語を聞いて、ふと《人化》する竜族のことを思い出す。

 何故か《人化》できる姿は一人一つと決まっていて、同時に生み出される衣装も固定されている。


 ゆるキャラの旅の同行者だった竜族の幼女、シンクの衣装は赤いワンピースだ。

 それはアトルランには妙に似つかわしくない現代的なデザインで、縫製もしっかりしているものだった。


 旅の中の戦闘で何度かそのワンピースが破ける場面があったのだが、その際に襟の内側に四角いタグのようなものが見えたことがある。

 衣装は魔素で作られたものなので、破れたりすると魔素に戻り空気中へ消えてしまう。

 タグに気付いた時は後で確認しようと思ったのだが、直後にドタバタがあってすっかり忘れていた。


 もしあれが商品タグならば、《人化》した姿や衣装が固定なのは平行世界に居るであろうもう一人の……。


『黙り込んじゃったけど大丈夫か?』

『おわっ』


 目の前にニールの端正な顔があって驚く。

 どことなく日本人に似た黒い瞳にゆるキャラの丸い体が映り込んでいた。


『んあーごめん。気になることがあると考え込む悪い癖が出ただけだ』


 リリンが着ているゴスロリドレスも非常に洗練されていて現代的だ。

 そもそも彼女は外様の神が送り込んだ先兵、闇の眷属であり、このアトルランの住人ではないから服飾レベルが違っても問題はない。


 ただ、あのドレスって地球産っぽいんだよなあ……。

 闇の眷属についてリリンに聞いてもはぐらかされるだけなので、確かめようがないのだが。


『言ってる側から悪い癖が出てるぞー。お、いい手触り』


 エゾモモンガのつぶらな瞳でリリンをじっと見つめていたら、ニールに頬袋のあたりをわしゃわしゃと揉まれた。


『すまんすまん。それでニールはどうやってアトルランに来たんだ?』

『敵との戦闘中に相手の【転移(テレポーテーション)】を食らって海底や地中に飛ばされそうになったんだが』


 おおっと、そちらの世界でもいしのなかにいるは健在ですか。


『必死に抵抗した結果、よく分からないがリージスの樹海に飛ばされたのさ。相手も俺も激戦を重ねて超能力増幅剤(ブレインストーム)も過剰摂取していたから、過剰に干渉し合い【転移】が暴走して座標が大きくずれてしまったのだろう』


 ここで一呼吸置くと、ニールは黒い瞳に決意の色を滲ませて宣言した。


『俺は戦うために造られた人造人間で軍人だ。早く戦場に戻らなければならない。もう三年以上経ってしまったし、元の体は寿命を迎えたのでこの体に乗り換えたりもしたが、今も元の世界に帰る方法を探しているんだ』

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