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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
7章 E.L.E

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235/400

235話:ゆるキャラと劣勢

本日2話投稿となります。

こちら1話目です。

 極彩色の怪鳥は断末魔の叫びを上げることもなく、静かに森へ堕ちていった。

 本当は叫んでいたのかもしれないが、ゆるキャラは突風が起こした轟音に晒されていたので、いずれにせよ聞こえなかっただろう。


 そんなことよりヘックの姿がどこにもない。

 ガルーダがこちらに接近してきた時までは背中に乗っていたはずだ。


 見た目が幼く直接手を下すことに抵抗があるので、出来れば今の一撃でガルーダと一緒に終わっていて欲しかったが……。


 相手はノータイムで魔術を使ってこちらを干乾びさせようとする輩だし、ゆるキャラの意識は無かったが〈コラン君〉は思いっきり血だまりに沈ませていたので、色々と今更といえば今更か。

 奇襲が怖いのでヘックを先に探したいところだが、ティアネがいつまでクローグ相手に耐えられるかわからない。


 ゆるキャラは全速力で森を駆ける。

 伝家の宝刀である月明剣への魔力補給も怠らない。


 青白く輝く大剣を肩に担いだまま森を飛び出すと、今まさにティアネが止めを刺されようとするところだった。

 全身に切り傷を作り血を流しながらうずくまるティアネに向かって、クローグが両手の曲刀を振り上げている。


 止めがマルズ同様に振り下ろし攻撃なのはトロール一族の様式美なのか。

 まあそのおかげでこの距離からでもティアネを助けることが出来るのだが。


 充填率三割の大剣を水平に振るい、ガルーダをも切り裂いた光波を飛ばす。

 モーションこそ同じだったがマルズと違ってクローグに隙は無く、無音で飛来した三日月型の光波を飛びのいて躱した。

 これが背後からだったなら決まっていたかもしれないが、とりあえずティアネを助けられたので良しとしよう。


「これを食え!」


 クローグがティアネから離れているうちに近寄り、四次元頬袋から取り出した〈コラン君饅頭〉を手渡す。

 ゆるキャラが口から何かを取り出すのを見て、クローグが警戒の色を強める。


 そして言葉が通じないのに躊躇なくティアネがそれを食べ始めたため、顔を顰めて引いていた。

 ……いやまあ、確かに得体の知れない亜人が口から出したものを、娘がおもむろに食べ出したらそりゃあ驚くだろうけどさ。

 しかし引いていたのも束の間のことで、饅頭を食べたティアネがみるみる元気になると再び目つきが険しくなる。


 ティアネと連携して左右から挟むようにしてクローグへ攻撃を仕掛ける。

 トロール一家の家長はゆるキャラの振るった大剣を左の曲刀で撫でるようにして受け流し、ティアネの突き出した短刀は思い切り打ち返した。


 たまらず仰け反るティアネを追撃しようとしていたので、鳥足の爪で蹴りつけて妨害する。

 ヤクザキックよろしく繰り出した前蹴りをクローグは下がって避けると、ティアネの側面に回り込みながら肩口からぶつかっていった。

 ティアネはそれをもろに食らってしまい吹っ飛ぶ。


「へぶっ」


 丁度その背後にいたゆるキャラは、ティアネの巨体に押し潰されながら一緒に地面を転がる。

 視界がぐるぐると回りようやく止まったと思ったら、追いかけてきていたクローグがティアネのすぐ傍にいた。


 ティアネはクローグのタックルが鳩尾に刺さったのか、地面に這いつくばってえずいている。

 ゆるキャラは彼女を庇うように身を乗り出し、右の曲刀を大剣で受け止めたが左の曲刀で丸い腹を切り裂かれた。


 灰褐色の毛皮がまたもや血に染まるが、痛みを我慢して大剣を振り回しクローグを追い払う。

 即死しなければ頬袋に仕込んだ羊羹でなんとかなるが、劣勢続きなのはクローグの立ち回りが完璧だからだ。


 はっきり言ってしまうとティアネが足を引っ張っていた。

 苦しそうに口元の涎を拭って戦闘に再参加した彼女だったが、クローグを相手にするには一段、いや二段ほど劣る。


 執拗に狙われるティアネをゆるキャラが庇い続ける状況で、これはゆるキャラがマルズを壁にしてクローグを押さえていた状況に似ていた。

 自分もしておいて何だが、相手にやられると厄介この上ないな。


 しかもマルズと組んでいた時のクローグは全力じゃなかったようだ。

 ティアネを戦線から離脱させてタイマンに持ち込みたいのだが、先程より激しい攻撃でそれもままならないし、大剣に魔力を込める余裕もない。


 膠着状態に陥ると余計にティアネの力不足が露見し、彼女自身に負担となって襲い掛かる。

 ヴェールの下から覗いている口元は激しい戦闘についていけず、酸欠で喘いでいた。


 このままジリ貧が続いて、やがてティアネが倒されてしまうかと思ったが……新たな闖入者により状況はより最悪になる。


『――――――――――― ――――――― ―――――』


 言葉は理解できなくなっていたが、その声音は誰のものか判別できる。

 ヘックだ。


 やはり生きていたか。

 ガルーダから墜落したためか全身に擦り傷を負い、片足が折れているのか体が傾いている。

 子供らしからぬ狂気の形相で魔術を詠唱し、発動した。

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