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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
1章 ご当地ゆるキャラ、異世界に立つ

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23話:ゆるキャラと空の旅

「Gyaooooooooooo!(トウジがピンチだったなら〈森崩し〉くらい私が始末したのに)」

「〈守護竜〉は樹海内の生存競争に関与しないんじゃなかったか?」

「Gugyuuuuuuuuuuuuuuuu!(別にそんなことない。樹海での内輪もめを諌める義務が無いだけで、私の気分で関与するかしないかは自由。あ、でも外敵からはちゃんと守る)」


 ……我々の死闘はなんだったのだろうか。


 ゆるキャラは今、竜に戻ったシンクの背に乗って空を飛んでいる。

 鞍など無いため背中に生えている棘と棘の間に丸いボディを挟んで固定して、棘を操縦桿のように握っている。


 これだけだと羽ばたきや風圧で吹っ飛ばされそうなものだが、どちらの影響も魔術的な力により緩和されていて意外と乗り心地は快適である。

 竜の飛行能力自体に物理法則以外の力が加わっているようだ。

 羽ばたく回数とか絶対少なすぎるし……。


 そのことをシンクに尋ねてみたが、要領を得ない答えが返ってきた。

 手足を動かすのと同じくらい当たり前過ぎて逆に説明できないそうだ。

 そう言われると確かに、俺も手足が動く仕組みを知らない相手に分かるように説明しろと言われても出来ない気がする。


 ちなみにシンクは竜形態なので、会話は《意思伝達》の魔術により竜の咆哮と、翻訳された幼女の声が同時に聞こえてくる二重音声仕様である。


「おっ、あの辺は昨日の戦場だな」


 見下ろせば樹海の中に野球場くらいの広場がある。

 〈森崩し〉が暴れまわったことによって出来たものだ。


「改めて俯瞰して見るとやっぱり規模がでかいな……ってあれ、〈森崩し〉の死体が無いな」

「Gawooooooooooooow!(あいつの体は七割が魔素でできてるから、死んだらすぐ魔素に分解されるの)」


 よく見れば倒木に混じって蛇の脱皮した皮のようなものが散乱していた。

 あの大質量のほとんどが一晩でほぼ消えて無くなるとか、質量保存もへったくれもないな。


 戦場跡地をぐるっと一周した後は、ぐんぐんと速度を上げてリージスの樹海の深層へと向かっていく。

 空から四方を見渡してもどこまでも樹海が続いている。

 シンク曰く、樹海の端から端までは竜の翼で小一時間だそうだ。


 体感なのであまり当てにならないが、竜の速度はジャンボジェットの半分くらいだろうか。

 それでも時速数百キロはあるので、樹海の広さは北海道くらいはありそうだ。

 しかも樹海の形は菱形に近いのだとか。


 ……ここ、遠い未来の北海道とかじゃないよな?

 朽ち果てた時計台の前でうなだれるゆるキャラの、ネタバレDVDパッケージを連想する。

 あの時計台だと朽ちるどころか跡形も無くなるか。


 雲ひとつない青空の下、くだらない事を考えながら遊覧飛行を楽しんでいると、前方に山脈が見えてきた。

 樹海なのに山脈とはこれいかにだが、戸惑う俺を尻目にシンクは真っ直ぐ台形に広がる山々へ向かう。


 遠目には巨大な台形状の一つの山に見えたが、近づいてみると複数の山が重なってそう見えただけだと分かった。

 山頂付近が白付いているがあれは雪だろうか。

 フレイヤ先生は樹海に四季は殆どないと言っていたから、山頂付近だけファンタジーな理由で寒いのかもしれない。


 シンクは中央付近の山の中腹に降り立つと幼女形態になる。

 竜の背中から放り出されたゆるキャラは、同じく空中でポンッと人型になったシンクを抱きかかえて着地する。


「あっち」


 お姫様抱っこしたシンクの白くて小さい指が指し示す方向に歩いてくと、崖下に人工物が見えてきた。

 切り立った崖の壁を掘るように、美しい造形の柱や屋根の形に彫刻されていて、まるで神殿の入り口のようになっている。

 鞭の得意な考古学者が聖杯を求めて訪れそうな外観である。


「ここは?」

「私の家」


 おっと、初回デートで彼女宅ですか。

 いやまあ彼氏面というかそもそも彼氏でもないのだが。


 シンクに促されて神殿造りの入り口をくぐると、内部も似たような造形が続いていた。

 窓は一つも無いが全体がほんのりと明るく、空気はひんやりとしている。

 シンクの家という割には家具や私物の類いが一つも見当たらず生活感が無い。

 造形の通りの厳かな雰囲気が漂っていた。


「入り口が結構狭かったけど、人の姿用の家ってこと?」

「ううん、奥は広くなってる。そして天井が無いから普段はそっちから出入りしてる」

「なるほど。この彫刻は誰が作ったんだ?」

「大昔の竜の信奉者が彫ったんだって。曾祖父ちゃんが言ってた」


 竜の寿命は千年近いそうなので、三世代前となると地球上で例えるなら、紀元前頃の作品ということになる。

 二千年の時を経ても尚ひび割れたり欠けたりしていない彫刻は、周囲を照らす明かりといいやはりファンタジーな要素で保護されているようだ。


 歴史的建造物を鑑賞しつつ暫く歩くと開けた場所に出た。

 そこは火山の噴火口の内側のようで、直径数百メートルはありそうな巨大な筒状の吹き抜けになっている。


 現在は死火山なのか、溶岩が見えたりはしないし熱気を感じることも無い。

 見下ろしても底の見えない深淵が続くばかりで、逆に見上げれば円形にくり抜かれた青空があった。

 なるほど、竜の姿の時は噴火口から入ってくるわけか。


「シンクお嬢様、おかえりなさいませ」


 横手から声が聞こえたので振り向けば、そこではメイドさんが一礼していた。

 そう、突然のメイドさんである。


 癖のないプラチナブロンドを腰の後ろで縛った女性で、奥ゆかしいオールドタイプの、エプロンドレス仕様のメイド服を着ている。

 礼を終えて上げた頭には、無表情とつぶらな碧い瞳が印象的な可愛い少女の顔がある。


 彼女の頭にはシンクと同じ竜の証である角が確認できる。

 ただし生え方は違っていて、二本の角が動物の耳のように伸びている。


「ん、クレアただいま」

「トウジ様、ようこそいらっしゃいました。シンク様よりお話は伺っております。お飲み物をご用意していますのでこちらへお越しください」

「はぁ、どうも」


 クレアと呼ばれた少女はゆるキャラにも一礼するとそう言って歩き出す。

 うーんなんだろう、表情と一緒で口調も抑揚が無いのだが、なんとなく棘を感じる。


 気になりつつも噴火口の縁沿いに歩いてついていくと、オープンテラスのような場所に到着した。

 やはり厳かな彫刻が施された椅子とテーブルが設置されていて、先客が一人優雅に紅茶を飲んでいた。


 赤髪のナイスミドルで、貴族服とスーツの中間ぐらいの豪奢な服を着ている。

 例に漏れず彼の額には角がある。


「早かったねシンク。いつものように寄り道して遅くなるかと―――」


 彼がこちらの気配に気が付いて視線を向けると、シンクとゆるキャラを見て絶句した。

 そして次の瞬間、男から強烈な殺気が放たれた。

 ゆるキャラの中にあるエゾモモンガは勿論、オジロワシの本能も危機を感じ取り、全身の毛が逆立つ。


「そこのけもの、シンクを離しなさい」


 冷静な低音ボイスだから余計に怖いな。

 これはあれだ、彼女の実家でお父さんに遭遇ってやつだ。


 ……しかもシンクをお姫様抱っこしたままだったよ。

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