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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
7章 E.L.E

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206話:ゆるキャラとキグナス

(ねーねーおいたん わたいになまえをつけてよ)

「雪んこという立派な名前があるじゃないか」

(それはみんなといっしょのなの わたいだけのがほちいの)


 下山中に雪んこが変なことを言い出す。 

 来た時と同様にレキは背負っていて、雪んこはゆるキャラの周りを衛星のように飛び回りながら追従している。


 レキはどうやら高い所が苦手なようだ。

 急斜面を滑落するかのように下りている間、やはり来た時と同様にぎゅっと目をつぶり、しがみ付いて恐怖に耐えていた。

 上りに比べれば半分くらいの時間で下りられるので、どうか辛抱して欲しい。


「名前ねえ……。それって俺の魔力が吸われて雪んこが進化する的なあれか?」

(ちょっとなにいってるかわかんない なまえでしんかってなに?)


 名付けといえば名付け親から子に魔力が譲渡され、名無しの有象無象な存在から名有りの唯一無二の存在へ格が上がるという、異世界あるあるな有名イベントだ。

 アトルランでもそうかと思いきや、少なくとも雪んこにそういう意図は無かったようで、純粋に名前が欲しいだけなんだとか。


 兎形族と雪の精霊たちはご近所さんで昔から親交があるが、特にレキと雪んこは仲良しだ。

 山にたくさん住んでいる雪の精霊の中でも、雪んこだけがより高度な知性を持ち《意思伝達》の魔術に似た力であるテレパシーを使う事ができた。


 何故雪んこだけが特別なのだろうか。

 それこそ進化が関係していそうではある。

 というか高度な知性というならば、もう少し高度になってくれれば通訳も捗るのだが……。


 雪んこは前々からレキに名付けを依頼していたそうだが、彼女からは「名付けられない」と断わられていた。


「俺が名前を付けていいのか?レキが名付けない理由があるんじゃないのか?」

(れきはねえ いいのがおもいつかないんだって ずっとうんうんいってて なまえをいってくれないの)


 単に優柔不断、もしくは凝り性なだけだったようだ。


(だからおいたんがつけてつけてつけてつけてつけてーーーーー!)

「わかった、わかったからテレパシーで叫ばないでくれっ。頭にキンキン響いてそれもう精神攻撃だから。足を滑らしそうで怖いわ!」


 というわけで騎馬族の村に向かうまでの間、レキも交えて雪んこの命名会議と相成った。

 決して道中が安全というわけではない。


 昨日戦った雪蜥蜴の他にも白色と灰色の斑模様のイタチのようなやつ、雪虫のような白い綿毛を背負ったやつ、自立歩行していて襲い掛かってくる針葉樹など、バラエティに富んだ魔獣と遭遇した。

 とはいえそれらと戦う必要性は皆無なので、雪の精霊のいた山を下りてからもレキを担いだまま走って逃げるだけである。


 雪んこと雪虫みたいなやつの綿毛が似てるなと素直な感想を述べたら、一緒にするなとめっちゃキレられた。

 昼食に〈牛乳たっぷりコラン君プリン〉を進呈して和解したことをここに報告しておく。


 さて、騎馬族の村は兎形族の村からだと山二つ越えた先にあるのだが、その山々はさして高くない。

 それぞれ標高千メートルも無さそうだ。


 もし生身の人間がその山々を横断するなら、歩き詰めのへとへとになりながら丸一日は要するだろう。

 しかしそこはゆるキャラの強靭な脚力と〈商品〉による体力回復の相乗効果(シナジー)をもってすれば、日が傾く前に踏破できてしまうのであった。


 山二つを超えた先には、ゆるキャラが墜落した雪原と似たような風景が広がっているが、一部違う所もある。

 雪原の真っ只中に村が見えた。

 一見すると木製の柵で囲われたどこにでもありそうな村だが、遠くからでも分かるはっきりとした黒煙がいくつも立ち(のぼ)っている。


「―――――」

(あれがきばぞくのむらだって)


「なんだか急いだほうがよさそうだな」

(いそごーいそごー)


 今更急いでも遅いかも……というゆるキャラの嫌な予感が的中するかのように、村に近付くにつれて血の匂いも漂ってきた。

 途中で小高い丘を見つけたので、そちらへ走って行きレキを背中から下ろす。


「様子を見てくるからレキとユキヨはここで待っててくれ」

(まってゆまってゆ ゆきよとれきはここでまってゆーーーーー)


 さっそく名前を呼ばれて嬉しいのか、ユキヨが周囲を飛び回る。

 そう、雪んこの名前は雪代(ユキヨ)で決定した。


 性別という概念は無いそうなので自由に候補を挙げさせてもらったのだが、雪んこのチョイスはなかなかに渋かった。

 雪の精霊だし、まずはベタなところからスノウやニクス、シュニーなどを提案したが気に入らず。


 ならシヴァやヒョウガが良いのか?とネタに走ってみたがこちらも却下だった。

 どちらも必殺技がダイアモンドダストで格好いいのに。


 それなら和風テイストな名前はどうかと言ってみると好感触で、雪兎や雪菜を経て最終的に雪代で決定したのである。

 惜しくも冬獅郎は採用されなかった。


 ちなみにゆるキャラを執拗においたん呼びしてくるので、ミシェルも提案してみたがあっさりスルーされたこともここに報告しておく。


「村側から見つからないようにこの丘に身を隠しててくれ。暴れないで待ってろよ」


 兎形族の村はトロールに襲われたが、騎馬族の村もそうなのだろうか?

 二人を小高い丘に残して村へ向かって走る。

 ゆるキャラの嫌な予感が杞憂に終われば良いのだが……。

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