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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
7章 E.L.E

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204話:ゆるキャラとケサランパサラン

 てっきり村を襲った何某(なにがし)を退治してください、もしくはそいつから村を守ってくださいとすぐに懇願されると思ったのだが、そうではないようだ。


 うさ耳集団……仮に兎人族としようか。

 兎人族の大人と思われる数人が輪になって、何やらひそひそと相談し合っている。

 別にゆるキャラはダジャレを言っていないのだが、審議中かな?


 惨状を目の当たりにしてしまったし、今更見て見ぬふりはできないよなあ。

 最悪自分の命を優先して逃げるかもしれないが。


 兎人族は大人でも小柄で、ゆるキャラの背丈の半分くらいしかない。

 フォルムは二足歩行の兎で、皆が真っ白で手触りの良さそうな毛並みをしている。

 老若や性別については人のそれに近い顔を見なければ見分けがつかなかった。


 ゆるキャラが助けた少女を交えて審議は数分続いたが、それが終わると全員がゆるキャラに向かって跪き(こうべ)を垂れる。

 代表して女性が何か喋り、ようやく懇願シーンに突入……していると思われるが、いかんせん言葉が通じないので返答に困る。


 ほぼ確実に助勢を懇願されているとは思うが、万が一「同族を助けてくれてサンキュー。あとはこっちでやるからもう帰っていいぞ」とか言われてたらどうしよう。

 帰れって言われてるのに助けるつもりで勝手に居座っていた、なんてことになってたらかなり恥ずかしいぞ。


 ゆるキャラが困り果てていると、兎人族たちは再審議。

 今度は少女がゆるキャラの前にやってきて、自分の唇を指差してからゆるキャラの頭を指差し、腕を引っ張りながら最後に建物の外を指差した。


「うーん……もしかして言葉が分かるようになる場所に連れてってくれるのか?」


 少女の動作を真似しながら問いかけてみると、意味が伝わったと判断したのか少女がにぱああと笑顔になる。

 今すぐ行こうと言わんばかりに腕を引っ張り続けていて、周囲を見回せば他の大人たちも頷いていた。




 というわけで再び少女を背負ってゆるキャラは夜の雪山を登っていく。

 登っているのは村のあった背の低い山の隣の山なのだが、これがまたすごく険しい。

 ごつごつとした岩肌が崖のように切り立っていて、人が登ろうとするならそれはもはや登山ではなくロッククライミングである。


 ゆるキャラの鳥足には黒曜石のように輝く自慢の爪が付いているので、岩肌に引っかけて急斜面を登ることができた。

 まさか最短ルートで登るとは思わなかったようで、ゆるキャラの背中ではレキが目をつぶりぎゅっとしがみついていた。


 少女の名前はレキという。

 ボディーランゲージでなんとか自己紹介を終えた二人は黙々と山頂を目指す。


 急斜面を走るように登るゆるキャラの姿をもし第三者が見たなら、さぞかし異様に見えることだろう。

 例えるなら、オープンワールド系のゲームで山の急斜面をすいすい登るあれかな。


「レキ、ついたぞ」


 山頂は道中とは打って変わって平坦で開けた場所だった。

 特に何かがあるわけでもなく、岩場に雪が降り積もっている。


 それだけだと殺風景なのだが、ちらちらと舞っている雪が雲の間から差し込む月明かりで反射していて、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 レキはゆるキャラの背中から降りると月明かりの元へ歩いて行き、空を見上げながら誰かに話しかけている。

 当然そこには誰もいない。

 ゆるキャラがほぼ崖を垂直に登り怖い思いをさせたがために、精神に異常をきたしてしまったか……と思ったが違った。


 舞っている雪が不自然に動いてレキの周りに集まっていく。

 まるで呼びかけに応じているようで、どんどん集まり固まり直径一センチくらいの大きさになった。

 それは雪の集合体にしてはふわふわした外見をしていて、耳かきについているボンボンみたいである。


 ケサランパサランが実在するならこんな感じだろうか。

 レキはそれに話しかけているようで、こちらを指差した直後、驚きの事態に直面する。


(ねずみのおいたんはじめまちて わたいは雪んこだよ)


 こいつ直接脳内に……!といっても通算二回目なのでそこまで驚かない。

 リージスの樹海の妖精の里で、妖精女王のフレイヤが《意思伝達》を唱える前に使用していた。

 いわゆるテレパシーみたいなものだろう。


(雪んこって、雪の精霊ってことか?)

(……)


 こっちは声に出さないと駄目なんかい。


「雪んこって、雪の精霊ってことか?」

(んー そーともいゆー)


 雪んこと名乗った毛玉がゆるキャラの周りをぴゅんぴゅんと飛び回る。

 この辺は精霊の特徴なのか癖なのか、フィンによく似ているな。


「―――――」

(れきがね たすけてくえてありがとだって)


 ふむ、この精霊を通訳代わりに使おうという魂胆らしい。

 レキは首に括りつけていた雑嚢から何かを取り出し雪んこに差し出した。


 それは先程村でゆるキャラが進呈した〈コラン君饅頭〉だ。

 全部食べて良かったのに後生大事に仕舞っていたのか。


(わーおいしそ)


 雪んこが〈コラン君饅頭〉にかぶりつく、というかくっつく。

 饅頭のほうが大きいので綿ゴミがくっついたみたいになっているが、雪んこが離れると饅頭のその部分に穴が開いていた。


(んっ おいしっ)

「―――――」

(うん これくれゆならついてくの)


 レキが上目遣いでこちらを見上げている。

 定期的に饅頭を供給して欲しいのだろう。


「いいぞ。その代わり通訳をしっかり頼むぞ」

(やっぴー すゆすゆつうやくすゆー)


 某じゃんけんゲームのような喜び方をする雪んこ。

 言葉が通じるのはありがたいがちょっと、いやかなり不安は残る。

 聞いている限り雪んこの知能は幼児レベルっぽいが大丈夫かなあ。

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