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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
6章 O・M・G

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192話:ゆるキャラと下働き二人

 〈混沌教〉にとって〈コラン君〉は神託により〈混沌の女神〉の使徒と認定されているらしい。

 レヴァニア王国にある〈混沌の女神〉の分神殿の司祭リリエルも、謎の電波をゆんゆんと受信。

 脳内に投影された〈コラン君〉の姿の絵を狂ったように大量に描いていた。


 自己紹介によるとこの少女はモエという名前で、白いふわっとした毛並みが特徴の犬人族である。

 彼女も類に漏れず〈コラン君〉の姿が脳内に住んでいたそうだ。

 何それ怖い……。


 完全に崇拝対象になっているらしく、五体投地をなかなかやめないので体を起こさせるまでに苦労した。

 その後も興奮冷めやらぬといった感じで、大きな尻尾がぶんぶんと左右に揺れていて非常に犬っぽい。


「ふかふかでレトリちゃんを思い出すわね」

「モエはうちの子にする。つれて帰る」


 フィンとシンクも速攻でモエのことを気に入ったようだが、お持ち帰りは駄目だぞ。

 あと本人の許可なく抱き付いたり、もふもふしたりもNGだ。


 彼女はこの〈嘆きの塔〉に住み込みで働いているそうで、塔の構造から構成員まではきはきと教えてくれた。

 いきなり都合の良い情報源をゲットである。


「ふむふむ……。〈嘆きの塔〉はおおまかに五層に分かれていて、それぞれに五大宗教が割り当てられていると。そして君は〈混沌教〉唯一の信者で、この地下礼拝堂が割り当てられていると」


「はいです。正確には地下は信徒がほぼいない〈混沌教〉と〈創神教〉の社務所で、地上には〈地神教〉〈試練教〉〈智慧教〉の三つがありますです」


 実質三層かな?

 〈智慧教〉というのは第一大陸ラクスロムアの守護神である〈智慧の神〉を崇める教団だ。


 これで各大陸の守護神の名前が出揃ったわけだが、信者の数には偏りがあった。

 一番多い〈地神教〉に次いで〈智慧教〉、三番手が〈試練教〉だが割合は六:三:一といった具合だ。

 ちなみに〈混沌教〉と〈創神教〉をこれに当てはめるとほぼゼロである。


 神が実在し加護も与えられているのだから、世界の住人全員が信心深くて「中学校の部活動加入は強制」みたいなノリで、必ずどこかしらの教団に所属しているというわけでもなかった。

 敬虔な信者というのは人口の三割ぐらいだそうで。


 宗教分布はさておき、モエは〈嘆きの塔〉唯一の〈混沌教〉の信者で且つ亜人ということもあり、塔でのヒエラルキーは最底辺だ。

 たった一人では〈混沌教〉としての活動をする余裕も無いため、他の教団の下働きとして生活しているそうだ。


 よく見ればローブがボロボロなだけでなく、手足は水仕事によるあかぎれで痛々しい。

 勝手な想像だが世界名作劇場で虐められている子どものようだ。


 見かねたフィンが《小治癒》をモエにかけると暖かみのある光で手足が包まれ、あかぎれが綺麗に消えてなくなった。

 ゆるキャラも〈聖杯〉を四次元頬袋から取り出し、聖水を頭からバシャバシャとかけてやる。

 いきなり聖水をぶっかけられて驚いていたモエだったが、ローブや体の汚れを落としてから魔素となって空気中に消える聖水を不思議そうに見上げていた。


「治療と洗浄はこれでよしと。腹は減ってないか?」

「いいえ、減ってないです」


 お約束のように返事と同時にモエのお腹がグウと鳴った。


「子どもは遠慮するもんじゃないぞ……フィンは遠慮しろよ」


 〈コラン君饅頭〉を進呈すると、最初は犬のように鼻をクンクンさせていたモエが饅頭をひと囓り。

 本当に表面を薄く齧っただけだが、〈コラン君饅頭〉は薄皮仕様なので問題無い。

 口の中に広がるこしあんの甘さにモエの顔がぱああと明るくなる。


「あっっまいです!こんな甘いの生まれて初めて食べたです」


 話を聞く前に食わせてやればよかったな。

 ちょっと後悔しつつ話を続ける。


「友達を助けてってどういうことだ?」

「ワタクシと同じでたった一人だけの〈創神教〉信者で友達のティッシちゃんなんですが、三日前に〈試練教〉の人に連れて行かれてから戻ってこないのです」


 ティッシちゃんとやらはモエと同じで下働きとして生活している猫人族の女の子で、二人は似た境遇もあり一緒に行動することも多かった。


 三日前のその日、二人は偶然〈試練教〉の調理場でばったり出くわし、仲良く調理の手伝いをしていた。

 途中で〈試練教〉の幹部にティッシだけ呼ばれて調理場から退席。

 その日は結局戻ってこなかったそうだ。


 翌日は一緒に〈智慧教〉の下働きに行く約束を調理場でしていたため、モエは現地へ向かったがティッシは現れない。

 不審に思い〈試練教〉に行ってティッシのことを尋ねたが、「昨日下働きを終えて普通に帰った」と言うのだ。


 それが嘘だとモエはすぐに分かった。

 なぜなら昨晩、ティッシは自室に帰ってきていないからだ。


 モエとティッシの生活拠点は地下である。

 今いる礼拝堂の他に小部屋がいくつかあり、二人は隣り合った小部屋を自室にしていた。

 そして毎朝、寝坊助なティッシを起こすのがモエの日課だった。


 下働きの延長で朝まで戻らない日もたまにあるが、〈試練教〉の幹部は「帰った」と言ったのだ。

 つまり明らかな嘘であった。


 しかし身分の低いモエが嘘を追求しても、相手にされないどころか逆上して暴力を振るわれる可能性もあった。

 実際過去に殴られたことを思い出し、身を竦ませながらモエは引き下がることしかできなかった。


 今晩には帰ってくるかも。

 幹部の嘘は聞かなかったことにして夜を迎えたが、結局ティッシは帰ってこなかった。


「他に頼れる人もなく、ワタクシはここで祈ることしか出来ませんでした。いつの間にか寝てしまいましたが……。そうしたら〈混沌の女神〉の使徒である〈コランクン〉様が顕現されたではありませんか。お願いします。〈茨棘教団〉からティッシを助けてくださいです!」


「〈茨棘教団〉……」


 目的の教団の名前が出てきて、思わず顔を見合わせるゆるキャラたちであった。

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