表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
6章 O・M・G

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

190/400

190話:ゆるキャラと告解

 身内同士の争いといえば映画などでよくある題材である。

 任侠映画の権力争いだったり、ゾンビ映画でゾンビそっちのけで人間同士で争い始めたりするあれだ。


 ありがちな展開なので視聴者の好き嫌いが分かれやすいかもしれない。

 ゆるキャラは結構好きな方だが、それはあくまで他人事……というか創作物だから好きなだけだ。


 当事者になってしまうと大変だし、問題解決のために奔走することになる。

 皇族の帝位継承権争いというのも異世界あるあるの定番だろう。


 これに巻き込まれて忙しいというのに、フレックが新たな争いごとの情報を持って帝都から帰ってきた。


「〈試練教〉の過激派が邪神崇拝をしている、ねえ」

「ただでさえ〈試練の神〉の信徒たちは過激だから関わりたくないんだが、もし事実で放置していたら大変なことになるだろうな」


「てかその邪神って〈外様の神〉のことだよな。放っておいていいのか?〈寛容と曖昧の女神〉さんよ」


 そうやって話を振ると、ゆるキャラの肩にとまって毛づくろいをしていた〈島袋さん〉のぬいぐるみが返事をした。


『別にいいわよ。人種が何を信仰しようと自由だもの』

「それは神々の総意か?それとも寛容を司る女神としての意見か?」

『さあて、どうかしらねー』


 とぼけた調子で答えるとゆるキャラの肩から飛び立ち、近くにいたシンクの両腕の中にすっぽりと納まった。

 もう話すことは無いと言わんばかりに、竜の幼女に撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。


 〈寛容と曖昧の女神〉ことサシャがゆるキャラたちに同行するようになってから、色々と情報を引き出そうと試みているが成果は芳しくない。

 元々大した情報は持っていないと言われてはいたが、こちらから質問しないと本当にただの梟のように振る舞うだけだった。


 聞けば一応可能な範囲で答えてくれるので、都度質問をするようにしている。

 ちなみに未踏地帯である下層について訊ねてみると、『この先は君の目で確かめてくれ! 』と妙に芝居がかった返答があった。

 昔の攻略本かな?


「〈嘆きの塔〉を管理しているのは我らが陣営、第一皇子派だと分かった。おかげで情報は仕入れやすかったんだが、知りたくないことも知ってしまったというか」


 帝都に到着したフレックはまずスラム街の情報屋の元へ足を運ぶ。


 向かった場所は打ち棄てられた教会の懺悔室だ。

 懺悔室といえば神へ自らの罪を告白し許しを請う小部屋で、告白者と告白を受ける神父の互いの顔が見えないように部屋の真ん中で仕切られている。


 ここでの懺悔室や神父というのは、ゆるキャラにかけられている魔術《意思伝達》によって理解できる単語に翻訳されているもので、地球上のそれと全く同一というわけではない。

 懺悔室のような役割を持つ小部屋と、神父のような役割の聖職者がいると思って欲しい。


 神父側の小部屋に情報屋が入っていて、情報を買う側が仕切りに付いているカウンターに金貨を置いて知りたい情報を訊ねる。

 すると情報屋は仕切りとカウンターの境目にある、破損して僅かに開いている隙間から金貨を回収して情報を伝える、というのが一連の流れだ。


 その情報屋は常に懺悔室にいるわけでなかった。

 情報を売るために懺悔室に現れる日時は、スラム街に散りばめ隠された符丁を集め解読しなければ分からないそうだ。

 加えて聞きたい情報を訊ねる前に懺悔代わりの合言葉を言う必要があった。


 なにそれ格好いい。

 情報屋との駆け引きというのも異世界あるあるではなかろうか。

 ちょっと、いやかなり憧れるな。


 ゆるキャラもハードボイルドに情報の取引をしてみたいものである。

 懺悔室へクールに現れるまあるいボディのゆるキャラ……駄目だ、見た目が既にギャグ時空だ。


 話が脱線したがフレックがそこで入手した情報は、〈嘆きの塔〉が第一皇子派の管轄地であることと、〈試練教〉の一部過激派が邪神崇拝をしているということだった。


「〈地神教〉とか〈混沌教〉とか〈試練教〉とか神ごとに信仰が別れているのか?〈寛容教〉もあったり?」


「大別すると五大宗教だな。それぞれ大陸を守護する中柱神の名を冠している。ちなみに五番目の大陸は守護神不在だから、大柱神である創造神の〈創神教〉が代役だ。小柱神への信仰もあるが、親である中柱神の一部っていう扱いだな」


 ふむ、宗派が別れているみたいなことかね。


「もし邪神崇拝が本当で事件なんかが発生したら、第一皇子派の管轄地だから責任問題になってかなりやばい。情報屋と別れた後は転移装置のことは伏せて、デクシィ侯爵に邪神崇拝の件を報告してきた。侯爵も調査に乗り出すそうだ」


「へーじゃあそっちはお任せだな」

「それなんだが旦那、転移装置を使ってみないか?」


 十一階層の白霧街にある秘密の転移装置だが、これは〈影の狩人〉が使用していた可能性が高い。

 〈影の狩人〉とはルリムとアナの故郷を滅ぼした憎き暗殺者であり、同時にフレックの師匠でもあった。


 〈嘆きの塔〉へ〈影の狩人〉の痕跡を探しに行くことは互いに利益になることだが、向こう側がどうなっているか分からなく危険であるため保留にしていた。


「本格的にデクシィ侯爵が動き出せば、邪神崇拝に関わる全ての証拠が間違いなく消されてしまう。そうなると後から〈影の狩人〉の痕跡を探すのは無理だろう。今なら転移装置を使って先回りできる。半分は俺の勘だが〈影の狩人〉と邪神崇拝は関連があると思うしな」


「もう半分は?」

「邪神崇拝者たちは何て呼ばれていると思う?〈茨棘(しきょく)教団〉だそうだ」

「茨、か」


 茨は何かと因縁のあるワードだ。

 ゆるキャラが倒した〈影の狩人〉だが、その死体は首にあった茨の刺青が物理的に燃え上がり灰になってしまった。

 〈影の狩人〉の部下と思われる第二位階冒険者の〈幻突〉も茨印の腕輪で自爆炎上していた。


「俺が最初に転移装置を使う。もし戻ってこなかったらそのまま放置してくれていい。師匠の経歴についても調べたんだが、どうも最近はおかしかったみたいだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ