185話:ゆるキャラと不幸の先達
「どうしてこんなにピンキリなものしかないんだろう」
「これらは各国が領域の支配者たる竜族へ捧げた物なのだろう?つまり国の威信と見栄がかかっているのだ。他国より素晴らしくて目立つものを捧げようと張り合った結果、品質は使い勝手や消耗を考慮しない、最大威力や性能に特化したもの一点に集中したと考えられる」
「あーなるほど、派手さ一点勝負でその他は賑やかしということか。そういうことならあの大剣のような強力だけど扱いにくいという仕様も理解できるかも」
「あの剣は迷宮産で純度の高い月隕鉄を使って造られている。君が全力で魔力を籠めれば竜族の鱗すら切り裂くだろうな」
昨今のゆるキャラの攻撃力不足を解消したあの大剣だが、ブライト伯爵の言う通り威力特化で癖が強かった。
まず魔力を籠めるのに時間がかかる。
大剣の素材となっている月隕鉄とやらは魔力を良く吸う性質を持っていて、いくら魔力を籠めても乾いたスポンジが水を吸うかのごとく吸収し続けた。
その癖に一気に魔力を籠めようとすると、今度は逆に魔力を弾くので種火からゆっくり火を熾すように、じっくり魔力を流す必要があった。
大量の魔力を籠めるだけあって威力は絶大で、青白い光を纏った大剣の切れ味は鋭い。
推定だが鉄の十倍は硬いであろう白霧夜叉の体を容易に切断した。
六割程度の魔力充填量でだ。
確かにフル充電すれば竜族の鱗すら切り裂くかもしれない。
「君の知り合いに切ってもいい竜族の知り合いはいないのかね?是非十全に魔力が籠められた大剣……そうだな〈月明剣〉と名付けよう。その切れ味をこの目で見てみたいものだ」
「さすがにいないな。てか竜族に限らず知り合いを切ったら駄目だろ。敵としてなら今後の迷宮探索次第では機会があるかもしれないけど」
ちらりと蝙蝠竜の姿が頭に浮かんだ。
下の階層に彼のように隠れ住んでいる竜族(蝙蝠竜は亜竜で厳密には別種族だが)がいるかもしれない。
そしてなんか勝手に〈月明剣〉とか命名される。
ダジャレのような四文字熟語や、某死にゲーに出てきそうな名前じゃなくてよかった。
話が脱線したな。
マリウス強化計画に話を戻そう。
「うーん、例えば俺が〈月明剣〉に魔力を籠めて、それをマリウスに渡して使ってもらうことは可能だろうか?」
「渡すこと自体は可能だが、君が意図する用途では不可能だ。他人の魔力を受け取るという行為自体は修練次第で出来るようになる。ただし君から受け取る場合、いや厳密に言うと膨大な魔力を内包した〈月明剣〉を受け取る場合は話が違ってくる。魔力とはすなわち力の奔流であり、例えるなら鎖で繋がれた暴れる獣だ。その獣が子犬程度ならマリウスでも制御できるだろう。だがもし鎖の繋がった先が暴走する四頭立ての馬車なら?空を駆る竜族だったなら?」
「地面と空、両方で引きずられ放題だな……てかその例えだと俺が手を離した瞬間から危険なんじゃ?」
「その通りだ。制御を失った魔力は少量ならそのまま空気中で魔素へ戻って消えるが、〈月明剣〉が満たされる程の魔力が一気に放出された場合、圧縮されていた魔力が衝撃となって全方位へ襲い掛かるだろう。まあ少し手から離れるくらいなら問題無い。馬車も少しの合間なら手放し運転くらいできるだろう」
要するに爆発するってことか。
そうと分かるとあの大剣に魔力を籠めるのを躊躇ってしまうぞ。
もう少しこう、製造物に責任というか安全面への配慮があっても良いのではなかろうか。
そう訴えてみるとブライト伯爵は首を傾げた。
「安全であることがそんなにも重要だろうか?強大な力には危険が伴うのは当たり前だ。それに強大な力を誰もが安全、且つ自由に使えたらそれこそ危険だろうに。安全に使えるかどうかは使い手に委ねられるものだ」
「うーん、例えば不良品を買わされたとしても、購入者の責任になるのか?」
「基本的にはそうだ。購入する時に不良品と見抜けなかったのが悪い」
「魔術具は専門的な知識を元に作られてると思うが、その不良を購入する素人が見抜くのは無理じゃないか?」
「君は魔術具をその辺りで売っているナイフと同じように考えているみたいだな。まず一般の道具と魔術具は別物だ。知識も魔力も足りない素人は魔術具を買わない。品質の良し悪しの前に使いこなせないからな」
ふうむ、物で飽和している世界ではないから売り手が有利な市場ということなのだろうか。
「〈神獣〉様、あまり師匠の言葉を鵜呑みにしないほうがいいですよ。魔術具も普通の道具も当然製作者側にも責任があります。師匠はただ単に自分の作った魔術具の責任を持ちたくないだけなんですよ。知識の無い素人が魔術具を買うことも当然あります。貴族が正にそうですね」
「余計なことを言うでない、レーニッツよ」
「そうはいきません。師匠が無責任に欠陥だらけの魔術具を作るから、問題が起きて謝るのはいつもわたしなんですよ!だいたい足場もなくなるくらい一気に魔術具をお借りする必要もありません。全て一気に鑑定なんて出来ないのですから」
なんかだんだんとレーニッツがヒートアップしてきた。
日頃から鬱憤が溜まってそうだからなあ……。
放っておくといつまでも小言が続きそうなので仲裁する。
「まあまあ、この辺のかさばる魔術具は一旦回収しておくから」
「あ、こらそれは今晩鑑定するやつだ」
てか最初から四次元頬袋に回収しておけばよかった。
そうすれば狭い思いをしながらベッドに座ることもなかったな。
ゆるキャラの思考を読み取ったかのように、クルールは抱き付いている両腕に力を籠める。
広くなっても密着はやめないそうだ。
「さて再び話を戻すが、ピンキリしか無い以上マリウスを魔術具で強くするのは限界があるかなあ」
「だから私の足具〈蹴足活動〉を全身鎧に発展させて〈身者改人〉にすればだな」
「師匠は黙っててください。マリウス様の症状ですが、同じような境遇から立ち直った人を探すというのはいかがでしょうか。その方の話を聞ければ参考になるかと」
「似たような境遇?そう都合よくいるものかね」
「こう言っては失礼ですが、不幸な境遇の方々が集まりやすい組織があるではありませんか」
「あー、冒険者ギルドか」




