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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
6章 O・M・G

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181話:ゆるキャラと散歩

『〈時と扉の神〉が開けた転移装置?あるわよ。案内してあげる』


 結構重要なはずの情報を〈シマフクロウの島袋さんぬいぐるみ(大)〉という依代を手に入れたサシャがあっさりと暴露した。

 〈寛容と曖昧の女神〉の残滓が乗り移った影響か、〈島袋さん〉のぬいぐるみはまるで生きているかのように動いている。


 今はシンクに抱きかかえられながら撫でられていて、気持ちよさそうに目を細めていた。


「そんな簡単に教えていいのか?」

『この階層をくまなく探せばいずれ見つかる場所にあるからね。時短よ時短』


 そう言ってぬいぐるみの翼をはばたかせて飛び上がったサシャであったが、すぐにシンクによって再捕獲されていた。


「どっち?言えばそっちに向かう」

『わかった、わかったから。指示するからお腹をわさわさしないで、くすぐったい』

「いちいち通訳するのが面倒なのだが?」


 サシャ(が依代にして動くようなった〈島袋さん〉)をいたく気に入ったシンクは、片時も手放したくない様子。

 抱きしめるのはいいが、たまには横で羨ましそうに見ているアナにも貸すんですよ。

 あとそのお母さんにも。


 そんなに遠くないということなので〈カオステラー〉本隊はこの場に残して、ゆるキャラとサシャ、シンクとフィン、リリエルとフレックといった面子で出発する。

 尚サシャの手配で動く死体といった敵も出現しないので、至れり尽くせりとはこのことである。


「随分好き勝手にできるんだな」

『そりゃあこの階層は私の領域だもの。他の階層や神に関する質問は答えられないからよろしくね』

「いいなあ……。〈混沌の女神〉様もこの御神体に入ってくれないかしら」


 リリエルが心底羨ましそうな声音で呟きつつ、胸に抱いたぬいぐるみを優しく撫でる。

 そこを陣取っているのは〈コラン君ぬいぐるみ(小)〉だ。

 レヴァニア王国にある〈混沌の女神〉の分神殿を訪れた際に、リリエルへ色々と進呈したグッズのうちの一つである。


「えっ、それ持ち歩いてるのか」

「もちろんですとも。御神体と聖典は肌身離さず持ち歩いています」


 聖典とは〈コランくんのぼうけん 上巻〉のことで、デフォルメされた〈コラン君〉が剣を掲げている姿が凛々しい表紙の絵本だ。

 その内容はファンタジーな世界を〈コラン君〉が冒険するもので、とあるページにはかつて遭遇した〈森崩し〉に似た巨大な蛇を倒している場面が描かれている。


 〈コラン君〉以外の登場人物もこのアトルランであった人々によく似ていて、まるで予言書のようだがこれで未来が予測できるかというとそうでもない。

 全く知らない場面があったり、微妙に違っていたり、時系列がおかしかったりと予言として受け取るには全体的に精度が低い。


 もしかしてこの絵本の内容が「正規ルート」で、ゆるキャラは今そのルートから外れていたりするのだろうか。

 そもそもなんで地球で造られた絵本がアトルランの未来を予言しているのかという話だが。


 十一階層は白霧街という俗称の通り、決して霧が晴れることのない階層である。

 ところが今はゆるキャラの前方数十メートルがカラッと晴れていた。

 これももちろんサシャの仕業で、この霧の晴れている方向に進めということらしい。


「へー、結構背の高い建物だったのね」


 十一階層に来てからは危ないからと満足に空を飛べていなかったフィンが、これまでの鬱憤を晴らすかのようにびゅんびゅん飛び回っている。


「霧の中には入るなよ。他の冒険者も動く死体もいるからな」

「はーい」

「まさか中層まで来て散歩気分で歩けるとはね。てか小柱の神まで仲間にしてしまうとかデクシィ侯爵も予想外だろうな」


 フレックも頭の後ろで手を組みリラックスした様子でついてくる。


「今向かっている転移装置のことも報告するのか?」

「それだけど旦那、十一階層での出来事は全部黙っておくんで侯爵と交渉する時の切り札にとっておいてくれ」


「いいのか?お前はデクシィ侯爵の部下だろうに」

「嫌だなあ旦那。あの月夜に負かされてからは旦那の味方だって言い続けてるじゃないですか」


 今にも揉み手をしそうな勢いでフレックがゆるキャラにすり寄ってきた。

 いまいちこの男の立ち位置が分からないので率直に聞いてみる。


「そんなの決まってますぜ。あんな達磨侯爵に使われっぱなしなんて嫌じゃないですか」

「恩があるんじゃないのか?」


「もう十分返したさ。師匠の死がいい切っ掛けだな。手を下した旦那を恨んじゃいないが、どうも師匠の行動に違和感を感じるからちょっと調べてみようかなと。旦那の監視役をしてれば侯爵から他の仕事は振られないし、自由に動けるんでね」

「別に俺を利用するのは構わないが、面倒を見るつもりはないぞ」


「まあまあそう言わずに、旦那だって〈影の狩人〉の背景を知りたいだろ?」

「なら面倒を見るとしてもそこまでだな」

「今はそれで構わないさ。全てが明らかになる頃には、俺無しじゃ満足できない体にしてやりますぜ」


 団子鼻のおっさんにそんなことを言われても嬉しくない。

 ほら見ろ全身の毛が総毛だったじゃないか。


「それに旦那についていく重要な理由がもう一つある。それはずばり……美女が多い!てか美女をはべらしすぎだろ旦那ぁ。そんななりで性獣なのか?一人ぐらいわけてもらっても―――」

「ああ私は〈神獣〉様にぞっこんなのでパスで」


 ちらりと視線を送ったリリエルにはにべもなく断わられる。

 別に他人の恋愛に口出しするつもりはないが、普通に考えて無理じゃないか?フレックさんよ。


『相変わらず定命の者は下品ねえ』

「いや一緒にされても困るぞ」


「え、サシャさんは俺がいいって?」

『嫌よ』

「通訳するまでもなく断られてるぞ」


 などとしょうもない会話をしているうちに目的地に到着する。

 普段は霧に隠れて見えていないであろうそこには、厳かな神殿が鎮座していた。

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