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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
6章 O・M・G

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178話:ゆるキャラと第2形態

『どうせ男神なんて胸が大きくて露出の多い、はしたない恰好の女神が好きなんでしょ』

「そんなことない、さ。あくまで好みの問題であってあんた、みたいな清楚系が好きな奴もいる、って」


 乱打される棍棒をステップで躱しながら、ゆるキャラは白霧夜叉におべっかを使う。

 いいだけ叩き付けているので周囲の地面は凸凹が甚だしく、油断するとオジロワシの黄色い鳥足をくじいてしまいそうだ。


 もたついて一瞬でも立ち止まれば、鉄より十倍硬い棍棒で頭をどつかれるので結構必死だ。

 新しく導入したからといって、嵩張(かさば)大剣(バスターソード)を選択したことは早々に後悔した。


『そ、そうかしら』


 頬に手を当てて、まんざらでもない顔つきの白霧夜叉。

 しかし片手で棍棒を振るうのはやめない……むしろ褒められてテンションが上がったのか、棍棒の速度が上がっている。


『でもそれならなんで何千年も私の魅力に気付く男神がいないのよ!きいいいいいいいいいいい』


 と思ったら急にキレて棍棒が更に加速する。

 ちょっと情緒不安定過ぎじゃないだろうか、この神様の残滓。


「せ、清楚さが売りなのに積極的に攻め過ぎたんじゃないか?清楚さとは真逆の行動だからな。押して駄目なら引いてみろって言うやつだよ」

『そう言われるとそうかも……攻め過ぎていたのね。くううううう、千年前の私に言ってやりたいわ』


 そもそも清楚さが売りというのも苦し紛れに適当に言っただけだったが、本人は至極納得している様子。

 見た目はともかく性格は……。


『今失敬なことを考えたでしょう』


 棍棒のギアがもう一段上がった。


「ちょっ、ごめんなさい」

『素直に謝るなら許しましょう。女性は男性の言葉と視線には敏感だから気をつけることね』

「それならこの戦闘も許して欲しいのだが!?」


 あと敏感な割に男心は分かってないような……はいすみません、謝るのでギアを上げないでください。

 ただまあゆるキャラの献身のおかげで、他の面子は攻撃に専念できている。


 白霧夜叉の体はリエスタ、リリエル、イレーヌによって穴だらけにされていた。

 タリアはゆるキャラの背後、白霧夜叉の視界に収まる位置にいるため、不用意な攻撃は控えている。

 体を構成していた霧の集合体は只の霧に戻り、周囲を再び白く煙らせていた。


『これでも階層守護の役目があるから戦闘はやめられないのよ。その代わりに良いことを教えてあげるわ。五分以内に私の体力を半分以下にしたのでハードモードに移行するから気をつけてね』


「は?」


 いきなりゲームみたいなことを言い出した白霧夜叉だったが、その言葉に偽りは無かったようだ。


 白霧が密度を増していく。

 散々振り回していた棍棒が霧に戻ると、白霧夜叉の体に吸収された。


 体中にあった穴が塞がるのと同時に、三メートルはあった身長がみるみる縮まり普通の人間サイズになる。

 そして懐からおもむろに何かを取り出すと顔に取り付けた。

 それは角の生えた鬼の面だった。


「みんな、離れろっ」


 ゆるキャラの警告と白霧夜叉がこちらに突っ込んできたのは同時だった。

 集中線が似合いそうな突進から振り下ろされた拳を飛び退いて躱すと、ゆるキャラの代わりに殴りつけられた地面が大きく陥没する。


 威力は棍棒と同等かそれ以上か。

 それをローブの袖から見える女性の細腕が引き起こしたのだから恐ろしい。


 どうやら霧が圧縮されて体全体が棍棒、すなわち炭素繊維並みに頑丈になったようだ。

 しかも先程までの素人のような棍棒の扱いから一転、戦闘ひいては格闘術に覚えのある動きに変化していた。


『戦闘はやめられないけど、あんた以外は狙わないようにしてあげるわ。他だとあっさり殺しちゃいそうだし』


 まったくその通りで、今の白霧夜叉からはかつて戦った第一位階冒険者〈国拳〉オグトと対峙している時のような重圧を感じていた。


「それなら先に、ハードモードになる前に言えよっ」

『いやほら、さっきまでは怒り心頭でそれどころじゃなかったから仕方ないのよ』


 足払いを飛んで躱し、追撃の回し蹴りは大剣の腹で受け止めた。

 見た目は細い女性の素足だが、金属のハンマーに殴られたかのような衝撃を受けて弾き飛ばされる。


 先程までとは違って中は空洞ではなくみっちりと、圧縮された霧が詰まっているのか。

 どうりで一撃一撃が重たいわけだ。


『誰が胸もないのに重たいですってえええええ!』


 また歪んだ解釈で心を読んだ白霧夜叉が怒り狂っている。

 清楚、清楚ってなんだ?


「こんな変身聞いたことねえぞ!普通ならあのまま霧に戻っておしまいなんだ」

「ええっ、ど、どうしよう」


 フレックとタリアが慌てふためきマリウスは……うん顔が真っ青だね。

 リエスタたちが加勢しようと距離を詰めているのが見えたので声を張り上げる。


「大丈夫だ!俺に任せておけ。策がある」


 この宣言はリエスタたちにもだが、少し離れた所からこちらの様子を伺っている〈トレイルホライゾン〉メンバーへのメッセージでもある。

 フレックという部外者がいる以上、彼女たちの真の実力は隠しておきたい。

 加勢されてはそれが露見してしまうからな。


『あーら、ハードモードの私に勝つつもり?今のうちに他は逃したほうが賢明だと思うけど』


 腕を組み仁王立ちした白霧夜叉が煽ってくる。

 ふっふっふっ、今日は使う機会が無いなと一度はがっかりしたが、ここに来て好機到来。


「ハードモードの上にナイトメアやヘルモードはないよな?」

『さすがにないわよ。本体ならまだしも私は神の残滓で、使える力は万分の一だもの』


 万分の一でこれか。

 流石は神だがこれ以上強くならないなら十分いける。

 その腕を組んだのに寄っても上がってもいない胸を借りようじゃないか。


『あ、今また失敬なことを』


 ゆるキャラが魔力を熾すと、呼応するかのように大剣が青白い輝きを放ち始めた。

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