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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
6章 O・M・G

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166/400

166話:ゆるキャラと千客万来

【5章のあらすじ】

・迷宮探索を楽しむ。特に普段暴れられず我慢しているシンクにはストレス発散してもらう

・悪い冒険者〈幻突〉に捕まり利用されていた森人のオーディリエを助ける

・迷宮内遺跡の奥でオーディリエの娘ティエラの形見を発見。オーディリエも共に旅をすることに

・ティータイムを楽しんでいると、蝙蝠竜が襲撃してくる。シンクにまとわりついてきたのでとっちめる

・蝙蝠竜エヴァオルシムからハクアの情報ゲット。闇の眷属グレムリンの隠れ里に案内される。人種の敵であるはずのグレムリンが温和でびっくり

・中層序盤まで攻略して街に戻ると、大量の来客あり

「きゃーーーなのその新しくて可愛い子は!ってシンクちゃんじゃない」


 〈ギリィの悪知恵〉亭の扉をくぐると同時に、黄色い悲鳴を上げた金髪碧眼の美少女が〈島袋さん〉目がけてタックルしてくる。

 そして抱き付いた感触であっさりとその正体がシンクであると看破した。


「リエスタとライナードじゃないか。どうしてここに?」


 〈幻影の帽子〉で旧大翼町のマスコットである〈島袋さん〉に扮したシンクに抱き付いているのは、アネアド村の村付きのリエスタだ。

 その後ろには申し訳なさそうにした彼女の双子の弟ライナードがいる。

 気弱そうな表情をしているが、相変わらずのイケメン美丈夫で羨ましい。


「もちろんニール様を追いかけてきたからに決まってるじゃない!村付きの交代要員が到着したから、こうやって帝都経由で迷宮くんだりまでやってきたってわけよ」


「よくここにいるって分かったな」

「それは僕たちが教えたからですよ」


「おお、アレスじゃないか……ぐほおっ」

「トウジ様ああああああああああ」


 ライナードの隣にアレスたちのパーティーを発見した所で、誰かのタックルを横っ腹に食らう。

 シンクの角の比じゃないごりごりとした感触に驚きつつ視線を下げると、癖のあるふわっとした銀髪の両サイドから、羊の角が生えている頭部がゆるキャラの腹に突き刺さっていた。


「リ、リリエルか!?どうしてここに」

「そうです〈コランクン〉様の忠実なるしもべのリリエルでございますよ!」


 この羊人族の女性はレヴァニア王国、王都エルセルにある〈混沌の女神〉分神殿の司祭リリエルだ。

 旅装束の上から、縦に細長くした楕円の輪っかを逆ハの字にしてくっつけたようなシンボル―――〈混沌教〉の聖印が刺繍された外套(マント)を羽織っている。


 涙と鼻水を垂れ流しながらゆるキャラに抱き付いているので、折角の美人が台無しだ。

 てかばっちいんですけど。


「どうして勝手に王国を発ってしまったのですか。折角従者として付いて行こうと思っていましたのに」


「連絡もなしに出て行ったのは悪かったよ。でもまさか追いかけてくるとは思わなかったな。そうと分かっていれば、付いて来なくていいと伝えたんだがな」


「むっ、それなら勝手に追いかけて正解でしたね。まさかここまで来て追い返さないですよね?ああ、あとシナン君たちを護衛に雇ったのですが先立つ物がなく、立て替えて頂けると助かります」


「ええ……まあいいけどさ」


 リリエルの後方には、皮鎧を着込んだ茶髪の青年がいる。

 彼は第三位階冒険者、〈斬鉄〉の二つ名を持つシナンだ。

 こちらのやり取りをみて若干引いているシナンの隣にも見知った顔がある。


 〈地母神〉の神官服姿の二人組で、栗色の髪をショートカットにした小柄な少女マリスと、紺色の髪を編み込んでいる大柄な女性のドラミアーデだ。

 この二人も王国の冒険者だが、シナンと一緒にリリエルの護衛をしてくれたのか。


 お礼を言うべく縋りついたままのリリエルを押しのけると、視界に別の見知った小太りの中年男と細身の青年がいたので驚いた。


「ブライト伯爵とレーニッツさんまでどうしてここに」

「ご無沙汰していますトウジ様。この間助けて頂いた正式なお礼をするために参上しました。そうですよね?師匠」


「うむ。魔術具を色々持ってきたから欲しいのを受け取るがよいぞ。ところでその鳥のような生物は《幻影》だな。内部から微弱で一定の魔素が放出し続けているから〈幻影の帽子〉あたりの魔術具を使っているな。お、そっちのは〈紆余魔折(うよませつ)〉ではないか。その偽装魔力の質からしてレーニッツ、貴様が二年前に造ったやつのようだぞ。ふむ、付けているのは邪人の子どもか。邪人は魔力の質が特殊だからな……邪人の魔力を解析して〈紆余魔折〉に籠めれば、邪人になりすませるのではないか?よしそうと決まればこの子どもの魔力の解析をして……」


「え、え?」

「こら師匠!勝手に決めないでください!」


 突然アナの手を取り指輪を外しだしたブライト伯爵を、弟子のレーニッツが慌てて引きはがす。

 相変わらずのマッドサイエンティストだ。

 話の内容からして優秀には違いないのだろうが、子どもに迫る小太りの中年オヤジは傍から見ると事案でしかないな。


 それにしても来客が多い。

 この師匠と弟子以外にも、遠巻きにこちらの様子を伺っている一団がいる。


 緑系統の色でまとめられたドレスに、結い上げられた赤い髪がよく映えているのは、クルール男爵令嬢だ。

 隣にいるのが兄のマリウスか。


 クルールと同じ赤い髪に質素な造りの貴族服を着た青年で、見覚えのある護衛騎士とメイドおばさんも一緒だ。

 無事に説得して連れてこれたようで良かった。


 クルールはゆるキャラに話しかけようにも、次々と個性的な邪魔が入ってたじろいでいる様子。

 ブライト伯爵が弟子に引っ張られて退場したのを見計らって、ようやく嬉しそうにこちらにやってくる。


「トウジお兄様―――」

「たのもう!ここに亜人のトウジ殿がいると聞いたが本当か」


 再びクルールを邪魔したのは、〈ギリィの悪知恵〉亭の扉を勢いよく開け放ち、開口一番ゆるキャラの存在を訊ねた女性。

 それはリージスの樹海でお世話になった豹人族のイレーヌだった。

 さすがのゆるキャラも繰り返し驚くのに疲れてきたぞ。


「イレーヌ!?何故ここに」


「おお、いたかトウジ殿!久しいな。あの後族長の座はさっさと兄に引き渡して、見聞を広めるために旅に出たんだ……というのは建前で、樹海内で見つからなかった婿探しさ。なかなか良い男がいなくてな」


「あー、わかるわー」


 見た目〈島袋さん〉なシンクに抱き付いたままで、変な合いの手を入れないでくれリエスタさんよ。

 顔が半分〈島袋さん〉の幻影に埋もれているぞ。


「そうしたらトウジ殿の噂を聞いてな。こうして追いかけてきたというわけさ。樹海でははぐらかされたが改めて聞かせてくれ。私にトウジ殿の子を生ませてくれないか?種さえくれれば勝手に育てるから認知してくれなくてもいいぞ。できるか分からんなら今晩にでも試そう、なあ?」


 この豹柄のお姉さんは何を言っているんだ?

 突然の爆弾発言に周囲もドン引きするかと思いきや、目の前で聞かされた純情なクルールだけ顔を真っ赤にしているが、他の面々は引くどころかニヤニヤしている。


「〈混沌の女神〉様の使徒であるトウジ様の御子ですって!欲しい!私も欲しい!」

「え、出来るの?出来るなら私も立候補しようかなあ。アレス君には悪いけど」


「ちょ、何で便乗するんだよ!普通は逆だろ」

「冒険者なんて所詮荒くれ者だし、むしろ好いた惚れたは酒の肴だよな」


「ちょっと生々しいけど、それでもまあ全然普通かしら」

「ふむ、鼠人族と翼人族と豹人族と人族が混ざるとどうなるのか興味深いな。どれここは一つ異種族間の交配がしやすくなる秘薬をだな」


「ルリムちゃん元気してたかい?」

「えーよく分からないけどなんかずるい。私も混ぜて」


「師匠はなんでもかんでも首を突っ込まないでください!」

「なんだかどうでもよくなってきたな。給仕の姉ちゃん、エールくれ」


「随分個性的な方々だね……」

「むう、トウジのつがいはわたし。誰にもゆずらないの」


 だ、駄目だ、みんな適当に騒ぎ出して収拾がつかない。

 誰か助けて!

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