164話:ゆるキャラと規模感
どうやらゆるキャラと他の面子では、グレムリンの言葉は違うように聞こえていたようだ。
試しにフィンに毎朝かけてもらっている《意思伝達》を解除してもらい、改めてグレムリンの長老に喋ってもらう。
「ワシ タイリクゴ ハナス」
おおう、めっちゃカタコトに聞こえる。
今にもマルカジリされそうだ。
元々こちらの世界の言葉は何一つ分からなかったゆるキャラだが、《意思伝達》を用いて会話を続けるうちに大陸語は結構聞き取れるようになっていた。
それを加味しても長老の言葉はカタコトが過ぎるので、大陸語はあまり得意ではないようだ。
次にせがれ君と話したグレムリンの言語で喋ってもらったが、キーとかキューとか鳴いているようにしか聞こえなかった。
これは他の面子と同様の聞こえ方だ。
「何故か俺だけ《意思伝達》の効果が闇の眷属に対しても有効というわけか。てかなんで〈闇の眷属〉には効かないんだ?」
「それは闇の眷属が〈外様の神〉が送り込んできた、別世界の存在だからだと思います。私たち邪人も〈外様の神〉の信徒ですが、元々は〈創造神〉に作られた存在なので《意思伝達》の効果はあるようです」
「ふうむ、元々の規格が違うってことなのかねえ」
もちろん長老に《意思伝達》をかけても結果は変わらない。
《意思伝達》の仕組みは理解したが、ゆるキャラが闇の眷属と同じ規格なのは謎だ。
この肉体は〈混沌の女神〉が転生させたものなので、普通に考えれば〈創造神〉側の規格なのだが……。
実は〈混沌の女神〉は〈創造神〉を裏切っているのだろうか?
また会った時に聞くことが増えてしまったぞ。
質問事項が多すぎて忘れてしまいそうだ。
「よく分かりませんが、さすがトウジ様ですね!」
ルリムの謎の高評価発言をもって、この話は終了となる。
そもそも闇の眷属と意思疎通できること自体がめずらしいので、検証しようにもサンプルが少なすぎた。
いくら談議したところで結論は出ないので、東日本と西日本どちらの地域の電気の周波数にも対応できる家電みたいで便利だね、くらいに思っておこう。
そういえばこれまでにサハギンや闇蜘蛛とも遭遇しているが、奴らの声は聞こえなかったな。
闇蜘蛛はともかくサハギンはそこそこの知能がありそうだったが。
氷室を出た後は隠れ里内部の案内もしてくれるそうなので、フィン、シンク、アナの子どもチームに行ってもらった。
大人チームは体格的に隠れ里へは入れないので蝙蝠竜の所に戻る。
そこからは蝙蝠竜の素性についての話になった。
彼は物心ついた瞬間からこの森に住んでいて、何故ここにいたのか?他に仲間はいないのか?といった自身のルーツを何一つ知らない。
これはグレムリンたちも一緒で、遥か昔の何世代も前からずっとここに住んでいて、迷宮に住むようになった理由はとうに忘れ去られていた。
現代日本と違って中世ファンタジーなこの異世界では、情報の量も質も知れている。
村人が一生村から外に出ずに生涯を終えることが普通の世界なのだ。
だから自分たちが置かれている状況を知らなくても、知る手段が無くても不思議はない。
それと規模感もかなり違う。
「帝都の人口ですか?およそ十数万人だと言われています」
「へ~俺の故郷といい勝負だな」
「トウジ様、すっごい都会育ちだったんですね」
人種最大級の国家であるヨルドラン帝国の帝都でも人口はその程度だった。
地球の同等の都市と比較すると、桁が二つ三つ足りない。
ルリムがまた妙な感心をしているが、ゆるキャラの中の人が住んでいたのは北海道の地方都市、胡蘭市なので都会どころか田舎寄りである。
そりゃまあルリムの故郷の闇森人の集落は、ここグレムリンの隠れ里と似たような規模だろうから、それと比べれば都会だが。
ただ文明も種族も世界も違うのだから、単純な比較はあまり意味がないかも。
特に人口は魔獣や闇の眷属といった天敵も多いし、医療も発達していないので地球よりかなり少ない。
地球の人口は多すぎるし科学の発達も著しい。
インターネットで世界は繋がり、一般人の一挙手一投足までもがSNSで拡散される。
子供の頃はゲームの攻略情報は攻略本や友人との情報交換がすべてだった。
それが今なら発売日から数日で攻略どころか隠し要素までネットで調べると出てくる。
もしこの世界にネットがあれば迷宮の攻略情報も共有され、〈残響する凱歌の迷宮〉も既に踏破されていたかもしれないな。
しかし同時にこの隠れ里の所在も明るみに出て、グレムリンたちの平穏は壊されてしまっていただろうか?
「Kyowaaaaaaaaaaaaaaa (保護者殿、僕の話を聞いてるかい?亜竜の可愛い娘を紹介しておくれよ)」
「美少年なら一人知ってるから紹介しようか?」
「Kyuuuuuuuuuuuuuuuun (ええ……繁殖できないのはちょっと……)」
「ただいまー」
「おかえり。その様子だと楽しかったようだな」
「小さいおうちや家具、可愛かった」
「食器もグレムリンサイズだったね。どうやって作ってるんだろう?」
「焼き菓子でもてなしてくれたわ!トージの饅頭ほどじゃないけど美味しかったわね」
フィンたちが帰ってきた。
三人とも興奮した様子でゆるキャラに感想を述べてくれる。
せがれ君はシンクの胸元からアナに移っていて、すっかり慣れた様子で自らアナに抱きついていた。
幼い弟の面倒を見ているお姉ちゃんのようで微笑ましい。
グレムリンの生活様式は学べたが、ニール先輩たちの痕跡や手がかりは特に無かったようだ。
楽しかったものの、シンクの表情には陰りが見える。
「我々を守ってくださっている黒龍様も強いが、それよりも遥かに強い白竜様たちがそうそう敗れることもありますまい。きっと迷宮を踏破したその足で旅立ったのじゃ」
「ん、わたしも迷宮踏破する」
「そうだな。この面子ならどこまでも行けるさ」
シンクの決意表明に〈トレイルホライゾン〉一同が頷くのであった。




