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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
5章 ハック&スラッシュ&サーチ&デストロイ

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150話:ゆるキャラと風の子

「この遺跡の中には〈闇の眷属〉がいるらしい。もしかしてアナが《亜空門(アストラルゲート)》で呼び寄せていたサハギンや闇蜘蛛がいるのかもな。ん、待てよ、迷宮の内外は転移不可なんだよな?」


「うん。《短距離転移》と《長距離転移》は無理だよ。でも《亜空門》は出来るっぽいよ」


 ゆるキャラの問いに、アナが禍々しい杖をにぎにぎしながら答える。

 忍者男こと〈影の狩人〉の指示で、アナは《亜空門》を使って城塞都市ガスターに〈闇の眷属〉を召喚、襲撃させていた。


 《短距離転移》は視界の範囲内へ、《長距離転移》は登録した座標へ転移する魔術で、迷宮内では使用不可能だ。

 何故なら迷宮は神々から与えられし試練の場(繰り返すが非公認)であり、転移を使って迷宮内をショートカットするような不正は禁止されている、というのが一般見解なんだとか。


 対して《亜空門》は名前の通り登録した座標と術者の位置を門で繋ぐ魔術である。

 ただしその門をくぐれるのは〈闇の眷属〉だけという特殊な条件があった。


 何故そんな条件があるかといえば、《亜空門》は〈外様の神〉の信者である邪人のみが扱うことができる、深淵魔術の専用魔術だからだ。

 〈創造神〉と敵対している〈外様の神〉専用の魔術なら、迷宮に施された転移阻害を掻い潜れるのも納得がいくかも。


 残念ながら邪人も《亜空門》は通れない。

 〈外様の神〉に鞍替えしたとはいえ、元は〈創造神〉が造った種族だからだろうか?

 その辺のしくみを解き明かせば色々悪用できそうだな。


「座標登録するためには現地に行く必要があるけど、この迷宮に覚えはないんだよな?」

「うん。目隠しと耳栓をして、その上から頭に麻袋を被せられた状態で担がれて運ばれたから、登録場所は全然分からないんだ」


 すごい厳重だこと。

 解放直後に企画発表をして、大陸横断ヒッチハイクの旅にでも連れて行かれそうだ。


 先に述べた通り迷宮は転移が不可能なため、各階層の出入口を必ず通らなければならない。

 仮にこの遺跡が座標登録の場所なら、アナは〈影の狩人〉に担がれた状態で迷宮の受付を通過したことになる。


 果たしてそんな怪しい状態で受付を通れるのだろうか。

 実は別の入口があるとか、〈影の狩人〉が帝国内で相当な権力を持っていて受付を顔パスできるとか。


 レヴァニア王国領の城塞都市ガスターを襲撃していたことから、後者の可能性は高い気がする。

 迷宮を管理しているのは第一皇子派なので、あの達磨侯爵が黒幕の可能性も……。


「オーディリエさん、すまないが案内してくれないか」

「わかりました。ついてきてくさい」


 遺跡の入口付近の部屋は〈幻突〉たちのねぐらになっていた。

 雰囲気は〈残響する凱歌の迷宮〉の一階層で見た石づくりの通路に似ているが、全体的に荒廃している。


 迷宮の構成物は神々の魔法により自動修復されるが、遺跡にはその効果がないため経年変化に晒されているからだ。

 通路を構成している石畳は所々ひびが入っていたり、欠けたりしている。


「奥の方は換気とか心配だなあ」

「この通路は風の子がいるから大丈夫よ!」


 自信満々にフィンが宣言した。

 そして我先にとオーディリエを飛び越えて進もうとしたので、肩にたすき掛けしているパスケースを掴んで阻止する。


 パスケースのコードリールが引っ張られピンと伸びきっていた。

 犬の散歩、いや凧揚げかな。


 風の子というのは風の精霊のことで、各種精霊は安全な環境に多かれ少なかれ存在するらしい。

 精霊がいる環境なら危険はないということだが、精霊が見えているのはフィンだけなので、あまり鵜呑みにはできない。


 とはいえこの辺は〈幻突〉たちがねぐらにしていたぐらいだから大丈夫だろう。

 ゆるキャラのエゾモモンガの鼻も若干の生活臭、すえた臭いを感じ取っていた。


 遺跡は真っ直ぐ伸びていて左右に古びた扉、突き当りには下り階段が見える。

 オーディリエの案内で左の扉を開けると、先ほどから感じ取っていたすえた臭いが強烈になった。


 五メートル四方程度の部屋で、床には飲みかけの酒瓶やパンくずのようなものが散乱している。

 部屋の端には朽ち果てた机と粗末なベッドが置いてあった。


 こんな汚い環境をねぐらにしていれば、そりゃあ〈幻突〉たちもあんな汚い身なりになるだろうな。

 ベッドから立ち込める汗とその他の臭いで、〈幻突〉がオーディリエを連れ込もうとしていたことを思い出す。


 ちらりと彼女の顔色を伺う。

 ……無表情からは何も読み取れない。


『ちょっとここ臭いんだけど!』


 というフィンの文句が詠唱となって《洗浄》の魔術が発動する。

 万歳するように両手を頭上に持ち上げると、手のひらから魔素(マナ)で作られた水がシャワーとなって部屋中に降り注ぐ。


 《洗浄》の水は空気中の悪臭や床の汚れを落とすと、あっという間に元の魔素に分解されて消えた。

 ちなみに床のパンくずは消えなかった。

 《洗浄》の汚れ判定の基準が気になるところだ。


「あの男の手掛かりになりそうなものはありませんね」

「あくまで〈幻突〉たち用のねぐらなんだろうな。自滅させる魔術具を持たせるくらいだから、そう簡単に証拠は残さないか」


 右の部屋も調べたが、中は左の部屋と同じただの汚部屋だった。

 フィンの《洗浄》後に漁ってみたが、手掛かりになりそうなものは何もない。

 《洗浄》で消えるような証拠はない……よな?


「奥の階段には近寄るなと言われていました。奴らの話によると闇の眷属がいるようですが」

「よし、ここからは隊列を組んで進もう。前衛が俺とシンク、中衛がフィンとオーディリエさん。殿はアナとルリムだ。フィン、空気は大丈夫そうか?」

「うん大丈夫。ちょっと少なめだけど風の子がいるから」


 一応フィンに確認してからゆるキャラたちは階段を下り始めた。

 ゆるキャラ自身も鼻をすんすんさせて警戒する。

 これで無臭の猛毒以外なら反応できるはずだ。

 たぶん。

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