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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
5章 ハック&スラッシュ&サーチ&デストロイ

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147話:ゆるキャラと遺跡

 この限凸……じゃなくて〈幻突〉は〈影の狩人〉こと忍者男の部下らしいが、何故こんなところにいるのか。


「部下なんてその場しのぎの嘘じゃないのか?〈影の狩人〉は有名な暗殺者らしいからな」

「ほ、本当だ!俺たちは奴の指示でうしろの遺跡に生息している〈闇の眷属〉の見張りをしていたんだ」


 〈闇の眷属〉という関連ワードを聞いて思わずエゾモモンガの耳がぴくりと動く。

 連絡が取れないという状況も一致するし、詳しく話を聞いたほうが良いか。


 首元に茨の刺青はないので、忍者男のように突然証拠隠滅のために体が炎上したりはしないだろう。

 逆に刺青がないから重要な情報は持っていないか?

 いや在野最強の第二位階冒険者だから期待できるかも……外道故にオーディリエの復讐を止める気もないが。


「すまない。復讐は少し待ってくれ。こいつには聞きたいことがある」

「かしこまりました。必ず果たして頂けるのならお待ちいたします」

「ちょっとトージ。いつまで待たせるの!」


 森から小さな妖精が飛び出してくる。

 ルリムには待機を指示していたが、待ちきれなくなったフィンがゆるキャラを追いかけてきたようだ。


「さっさと戻って探索を続けるわ……よ……」


 フィンはゆるキャラの姿を見て何故か絶句している。

 驚愕に見開いた目はあっという間に潤み、大粒の涙を零し始めた。


「おいおい、単独行動なんて危険じゃないか。てかなんで泣いてるんだ?」

「きゃあああああああ!トージが死んじゃう!」

「へ?いやいや俺はなんとも……あ」


 そういえばリーダーに切り刻まれた耳を〈自動もぐもぐ〉で治していなかった。

 右耳の先端は欠けたままで、じくじくと血が滲んでいる。


 それ以前に付けられた傷は治療済みだが、灰褐色の毛皮全体に血糊がべっとりと付いたままだった。

 パッと見は凄惨なことになっているが、あくまで見た目だけである。

 額を切って派手に出血しているようなものだ。


「いやいや、今までも負傷したことは何度かあっただろ……うわっぷ」


 突如ゆるキャラの体が淡い緑色の光に包まれる。

 まるでぬるま湯に浸かっているような心地よい感覚と共に、耳の欠損部分が修復され痛みも消えていく。

 遂に詠唱をしなくなった妖精さんだ。


「だってそんなに血が出てるじゃない!」


 そう言われると出血系の負傷は初めてかもしれない。

 それでフィンも慌てて無詠唱になったのか。


「耳以外は治っててただの汚れだから!《大治癒(メジャーヒーリング)》を止めてくれ」


 《小治癒(マイナーヒーリング)》や《大治癒》は傷口を塞ぐことが出来る魔術で、多少の欠損なら一緒に修復可能だ。

 これは傷口を塞ぐという事象が皮膚組織を修復することと同義であり、欠損も体組織の修復の延長線だからである。


 ただしこれらの魔術では大量失血や四肢欠損といった大規模な修復は不可能だ。

 そういう時は《再生(リジェネレーション)》が必要になる。


 ちなみに死者を蘇らせる《復活(リザレクション)》は神の領域だそうだ。

 じゃあなんで《復活》って魔術が存在するの?というツッコミは無しだろうか。


 四次元収納から聖杯を取り出し、頭上で逆さまにした状態で魔力を注ぐ。

 生み出された《浄化(ピュリファイ)》作用のある聖水を頭からじゃばじゃば被ると、血糊を含めたあらゆる汚れが洗浄されて、普段の艶の良い毛並みへと元通りになった。


「そいつね、そいつがトージを殺ったのね」

「いや殺られてないし」

「ドージどいてそいつ殺せない」


 《風刃(ブレイズ)》をリーダーにぶっ放しそうになるフィンを必死に宥める。

 背後からはリーダー殺害が実行されず、小さく舌打ちする音が聞こえてきたが……気にしたら負けか。


 気絶している取り巻きたちを回収、拘束。

 リーダーも拘束したのち、腕は失血死しない程度の最低限の処置をしてやる。

 無論サーベルは没収だ。


 すっかり観念した様子のリーダーから事情を聴取する。

 懐柔から恫喝、そして誠意を見せて心証を良くしようというのか。


 よく手のひらがくるくると回るやつだ。

 まあリアル手のひらは手首が折れてて回らないが。


 今更復讐されることが覆ることはないとリーダーも分かっているはずだが、殊勝な態度には裏があるのか。

 逃げたり一矢報いようとしないように気を付けないとな。


 リーダー曰くここにある石造りの建造物は枯れた遺跡だそうだ。

 迷宮は神々から与えられし試練の場(非公式)で、神の魔法により様々な難関が用意されている。

 先の自動再生する迷宮の構築物や、巨石兵といった魔法生物などがそうだ。


 一方で遺跡は神々が関わっていない建造物のことを指す。

 魔法の力が及ばない遺跡は迷宮と比較すると建造物は経年変化に弱く、壊れたらそのままだ。

 配置されるのも魔法生物ではなく魔獣や闇の眷属で生息数は有限で、財宝の類いも同様である。


 有限の場所で冒険者が探索を続ければ、いずれは枯れるのは自明であり、この遺跡も闇の眷属以外が既に失われていた。

 そんな闇の眷属がいるだけの、需要の無い枯れた遺跡をリーダーが〈影の狩人〉の指示で管理していたというのだ。


 リーダーこと〈幻突〉は第二位階冒険者になれる程の実力者だが、その素行は既に知っての通り最悪である。

 裏で冒険者狩りをして(勿論違法)奴隷に落として流していたが、冒険者ギルドに嗅ぎつけられそうになった。

 そこを〈影の狩人〉に助けられたのはつい最近のことだ。


「枯れた遺跡の管理といっても、この迷宮に他の冒険者を近寄らせないようにするだけだ。まあ冒険者狩りは許されて続けていたがな」


 オーディリエとその娘も冒険者狩りの被害者だった。

 冒険者狩りの被害者に冒険者狩りをさせるとは、本当に外道だな限凸は。

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