表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
5章 ハック&スラッシュ&サーチ&デストロイ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/400

144話:ゆるキャラと正統派

 ゆるキャラの気配は完全に消していた。

 にも関わらず奴隷の女はこちらに振り返る……いや、目線は合っていない。


 どうやらぼんやりとこちらの方向を見ているだけのようで、やはり気取られてはいなかった。

 では何故振り返ったのか?


 それは一縷の望み、淡い期待、ある種の賭けだったのかもしれない。

 そしてゆるキャラはその賭けに負けたというわけだ。


 負けを自覚した瞬間から体は勝手に動いている。

 身を隠していた大木の枝に飛び乗り、そこから更に高く飛び上がった。

 飛んだ衝撃で足場にした枝がへし折れて木の葉を大きく揺らすと、ゆるキャラの存在に気付いた全員が驚いて空を見上げる。


 ゆるキャラが太陽を背負っているため、皆目を細めて手を翳していた。

 先制攻撃のチャンスだ。

 確実に頭数を減らすべくリーダー以外を優先的に狙う。


 空中で四次元頬袋からいつもの両手剣(ツヴァイヘンダー)を鞘付きで取り出すと、柄を握り思いっきり投擲する。

 両手剣は縦回転しながら飛んでいき、取り巻きの男の一人に直撃した。


 鞘の先端が男の防具である金属製の部分鎧を破壊して、その下にある男の鳩尾へ突き刺さる。

 男は「ぐえっ」と苦悶の声と涎をまき散らしながらふっ飛び、ガーゴイルの台座に激突。

 後頭部を強打して白目を剥いて気絶した。


 ゆるキャラは背後の大木の幹を蹴り付けると、滑空して男たちの頭上から強襲を仕掛ける。


 なんだかんだ言いつつも助けてしまうのだから、我ながらお人よしだな。

 それでもゆるキャラの勘では、十中八九勝てる見込みなので完全なる無謀というわけでもない。


 しかし一割でも負ける可能性があるなら無理はしたくない、というのも素直な気持ちである。

 ゆるキャラの中の人はくじ運が悪いので、一割くらいなら普通に引きそうだし……。


 様々な某ロボットが出てくるシミュレーションRPGの、敵の命中率十パーセントの攻撃も何故か回避できずによく当たったものだ。


 吹っ飛んだ仲間に気を取られている隙に急降下。

 気配に気が付いて向き直った男の姿が、ゆるキャラの翼を広げた影によって覆われた。


 その男の両肩に降り立ち鳥足に力を入れると、爪が肉を抉る感触が伝わってくる。

 激痛で絶叫を上げる男を掴んだまま後方宙返り(バク宙)を決めると、ゆるキャラの動きに合わせて男の体が浮かび上がった。


 そして角度が付いたところで食い込ませた爪を抜いて放り投げる。

 男の悲鳴が放物線を描きながら遠ざかり、木に激突すると枝に引っ掛かりながら落下を始めた。

 いつぞやの月華団の団員を想起させる人間パチンコだ。


「な、なんだてめえは」


 残った最後の取り巻きの男がようやく誰何するが、無視して四次元頬袋から今度は幅広の剣(ブロードソード)を吐き出す。


 先程は逆光で見えなかったのだろう。

 口から抜き身の剣が出てきたのを初めて見たかのように男が驚いているので、これ幸いとその隙に斬りかかる。


 男が慌てて抜刀した剣を掲げたが踏ん張りが効いていない。

 ゆるキャラが斬り上げると、あっさり男の剣は弾かれ手からすっぽ抜けて飛んで行った。


 がら空きになった男の間合いへ跳躍して、左右の足裏で連続して踏みつけてから再びバク宙。

 男は皮鎧の胸元を大きく陥没させながら吹っ飛び、今度はガーゴイルが居ない方の台座に激突した。


 胸部を強打されて呼吸困難に陥った男は、まともに呼吸ができず喘いでいる。

 肋骨が折れて肺に刺さっていれば致命傷だが、手加減したから折れてはいない……はずだ。


 順調に取り巻きを無力化できたところで、残ったリーダー格の男と対峙する。

 年齢は二十代半ばくらいだろうか。

 茶色の長髪に顎髭を生やしていて見るからにチャラい。

 もし服装がスーツだったならホスト崩れに見えていたことだろう。


 リーダーは奴隷の女の〈隷属の円環〉を後ろから掴んで、盾のように自身の体の前に立たせている。

 そして柄に護拳の付いた細身の剣、いわゆるサーベルを彼女の背中に突きつけていた。


「動くな。この女がどうなってもいいのか」

「好きにしろよ。お前の奴隷だろ」

「ちっ、役立たずが!」


 人質としての価値がないと分かるとリーダーは奴隷の女の背中を蹴りつける。

 本当はこうかはばつぐんだったのだが、ゆるキャラのはったりが効いたようで助かった。


 よろめいてこちら側に倒れ込む奴隷の背後から、サーベルを突き出すリーダーの姿が見えた。

 奴隷越しにゆるキャラを貫こうという魂胆か。


 そうはさせまいと奴隷の手を引っ張り、入れ替わるようにしてリーダーの前に躍り出る。

 刺突を剣で打ち払うと周囲に甲高い金属がぶつかり合う音が響く。


 側面から思いっきり叩いたというのに、サーベルはしなるだけで折れることはなかった。

 結構な業物なのかもしれない。


 先程の取り巻きとは違いリーダーは弾かれたサーベルを手放すどころか、手首の返しだけで軌道修正をして再度刺突を繰り出してくる。

 ゆるキャラの心臓へ真っすぐ伸びてきたサーベルを、右側へ身をよじりながら避ける。

 その勢いのまま回転して剣を横薙ぎに振るったが、これは屈んで躱された。


 今の攻撃で間合いを詰めたので、刺突を繰り出すには下がって距離を取る必要がある。

 しかしリーダーは再び手首を捻るとその場で斬りつけてきた。


 サーベルは種類によって刺突か斬撃、もしくは兼用のものがある。

 リーダーの業物は兼用だったわけだ。


 鳥足を踏みしめて後ろに飛んだが僅かに間に合わず、サーベルの切先がゆるキャラのラブリーなお腹を切り裂いた。

 暗褐色の毛皮が薄っすらと朱に染まる。

 ちっ、スリムなお腹なら躱せてたんだがな。


「こいつを追いかけて奇襲してきたということは、俺たちが何をしたかも知ってるんだろ?なら死んでもらうしかないな」


 リーダーがサーベルを構え直してゆるキャラにそう宣告した。

 見た目がチャラいわりに正統派な強さだな。


 自称第二位階冒険者なだけあって、過去に手合わせした樹海の豹人族のイレーヌや、第三位階冒険者のシナンより剣の腕はあるかもしれない。

 不謹慎ながら、ちょっとわくわくしてしまうゆるキャラであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ