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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
4章 帝都迷宮案内

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132話:ゆるキャラと魔術具

 魔術具とは何らかの魔術効果が付与された品物のことを指す。

 魔術効果の内容は様々で、《火球》を放つといった魔術そのものが付与されているものもあれば、一部の効果だけ再現されているものもある。


 他にも奴隷を使役するために様々な効果を持つ〈隷属の円環〉などもあるし、《硬化》や《切れ味》が付与された武器も広義の魔術具であった。

 効果も性能も様々で、あると便利な魔術具だが欠点もある。


 まず効率が悪い。

 例えば魔術師が《火球》を放つ場合、自身で構成を編み詠唱し、魔力を注ぐことにより魔術が発現する。


 この《火球》が付与された魔術具を使う場合、まず構成と詠唱については魔術具に刻まれた情報を使用者が魔力を使って起動させる。

 その後通常の手順通り魔力を消費して《火球》を発現させることになるため、魔術師が《火球》唱えるよりも余計に魔力を消費してしまう。


 また魔術具に刻まれた構成と詠唱は、あくまで人が実行するものの代替であり性能が落ちる。

 結果的に同じ魔力量の消費でも、魔術具の《火球》の威力は通常の半分くらいになるそうだ。


 次に費用がかかる。

 何にでも、例えばその辺の石ころも魔術具にできるかといえば否で、魔術効果に応じた素材を適した形状にする必要があった。

 それに誰でも作れるわけではなく、魔術具に精通した技術者に限られる。


 ライリー・ブライト伯爵は魔化師(魔術具を作る技術者をそう呼ぶ)として有名だそうだが、貴族手ずからで作る特注品となると材料費だけでなく手間賃も相当だ。

 大店のルーナイト商会が一等地で、一つずつ丁寧に販売するくらい高級品なのである。


 たとえ効率が悪く高額だとしても、魔術具から得られる恩恵は大きい。

 何しろ構成も詠唱もいらず、魔力を消費するだけで魔術が扱えるのだから。


 またグレードの低い〈隷属の円環〉は他の魔術具と比較すると安価で売られているが、これは制作費用が安いからではなく、費用の一部を奴隷商人が負担しているからだった。

 奴隷という自分たちの商品を安全に運用、普及させるための設備投資といったところだろう。


 本人認証などが可能な冒険者証も同様で、冒険者ギルドが費用を負担して冒険者に支給していた。

 以上がゆるキャラが持つ魔術具に関する大まかな知識だ。


「本日はようこそおいでくださいました。娘夫婦と孫を救って頂きなんとお礼を申し上げればよいのか、感謝の言葉もありません」


 案内された応接室で待っていたのはケインの妻アレッサと娘のカリーナ、その他に白髪交じりの男性がひとり。

 彼がアレッサの父親で、ルーナイト商会会頭のハロルド・ルーナイトだった。

 恰幅の良い体を揺らしてゆるキャラの前までくると、両手で握手を求めてくる。


 大人のやりとりに興味のないフィンとシンクはアレッサとカリーナの元へ直行。

 前の時と同じで赤ん坊のカリーナの、ゴム毬のように弾力のある頬をかわりばんこに指先でつんつんしていた。

 当のカリーナはつんつんされて嬉しいのか楽しいのか、きゃっきゃと喜んでいる。


 少しの間を置いた後、アナが母ルリムの顔色を伺ってからカリーナの元へ走っていく。

 アナは控えめな性格でいちいち大人の反応を見てから行動するところがあった。


 ゆるキャラ的には子どもは多少やんちゃなくらいが丁度良いと思っている。

 しかしルリムとしては奴隷という立場もあるので大人しくさせておきたい気持ちもあるようだ。

 奴隷にしたのは邪人の二人を保護する名目で態度まで奴隷になる必要はないので、ルリムにはアナは子どもらしく振る舞わせて良いと言ってある。


 アナにも駄目なときは駄目と言うから、それ以外は好きに行動していいぞと伝えてあるが、大人の反応を見る癖はなかなか抜けないようだ。

 フィンやシンクほど奔放になられても困るが……控えめな性格も個性には違いないので、無理に変える必要もないか。

 むしろ暴走気味の姉二人だからバランスが良いかも?


 新人の末妹クルールもカリーナたちの様子を気にしているが、なんとかその場に踏み留まり貴族スマイルを浮かべている。

 赤ん坊人気恐るべし。


 お互いソファーに腰掛け、お礼と世間話もそこそこに魔術具の話題に入る。


「まず邪人のお二人の魔力を隠す魔術具ですが、〈紆余魔折(うよませつ)〉を二つ用意させて頂きました。どうぞ付けてみてください」


 ハロルドが差し出してきたのは、それぞれ小箱に入った二つの指輪だった。

 シンプルなシルバーリングだが、裏側をよく見ると文字のような刻印がびっしりと刻まれている。


「これは……指輪から微弱な魔力が流れていて、それが装備者の体に纏わりつくようになっているのですね。昔これと似たような魔力を発する外套(マント)を使っていましたが、外套から魔力が垂れ流しになるだけなので、全身をすっぽり覆う必要があったので大変でした」


 ルリムは〈紆余魔折〉を左手中指にはめて指輪を観察したあと、自らの体を見下ろしてそう評価した。

 このアトルランという世界に住むすべての生物は体内に魔力を内包し、体から常に微量だが放出しているそうだ。


 邪人はこの世界を作った〈創造神〉とは敵対する〈外様の神〉の使徒であり、内包する魔力も異質だった。

 なので魔力に敏感な人なら、体から漂う魔力ですぐに邪人とわかってしまう。


 〈紆余魔折〉はそんな邪人の魔力を、何の変哲もない魔力で外側からすっぽり覆える魔術具であった。

 これがあれば魔力で邪人だと察知されることはなさそうだ。


 ネーミングからしてあのマッドサイエンティストのブライト伯爵の作品なのだろう。

 指輪から出る魔力が持ち主の体を紆余曲折するというわけだ。

 実験段階の試作品は怪しかったが、完成品は優秀じゃないか。


 ちなみにゆるキャラは魔力に鈍感なのでちっとも分からなかった。

 鈍感だから魔術の覚えも悪いのかなあ。


「これなら指輪さえしてれば裸になっても大丈夫ですね!人種の公衆浴場に入るのが夢だったんです」


 なんだか明後日の方向でルリムが興奮している。

 実年齢はともかく見た目はうら若い乙女なんだからやめなさいよ。


 ハロルドもケインも反応に困ってるじゃないか。

 クルールもゆるキャラの隣で顔を真っ赤にして俯いていた。

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