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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
4章 帝都迷宮案内

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125話:ゆるキャラと/organize

 衝撃の報告を聞いたゆるキャラは、隣に座っているシンクの顔色を伺う。

 普段と変わらない赤いワンピース姿の彼女は、やはり普段通りのとろんとした眠たそうな目のままで、特段動揺した様子は見られない。


 お?シンクも気付いているようだな。


「姉さんがそう簡単に死ぬわけない」


 違った。

 単に姉への絶対的な信頼によるものだった。


「〈深紅〉様、貴族の管理は迷宮への入場だけでなく退場も含まれます。出入口は一か所しかなく常に監視していますので、退場を確認できないということは今も迷宮の中にいるということになります。数日ならともかく二年以上の間迷宮に籠り続けていて、目撃情報もないとなると、申し訳ありませんが生存は絶望的かと……。ところでお姉さまというのは?」


 ふむふむ、帝都の冒険者ギルドもニールたちについての情報は不足しているようだ。

 エドワーズも調査依頼だけで詳しい情報は流していないのか。


 ゆるキャラたちには隠し事が多いのでありがたいことだ。

 というわけでこちらからも情報を提供しつつ整理しようか。


「〈魔法使い〉のパーティーメンバーの一人がシンクの姉なんだよ。こちらからも補足したいんだがいいかな」


 時系列順にまとめるとこうだ。


 三年前、リージスの樹海に異邦人ニール現る。

 彼は守護竜を打倒したのち樹海を出奔し、その一か月後にシンクの姉ハクアと竜巫女がそれを追いかけた。

 樹海を出たニールはレヴァニア王国カナートの街にて、狐人族の少女トードリを助けてる。

 その後冒険者登録をして、南方にある自由都市キールへと向かった。


 二年前、ハクアたちと合流したニールがヨルドラン帝国の帝都に現れる。

 第一位階冒険者の〈魔法使い〉を破り二つ名を剥奪、継承。

 すぐに〈残響する凱歌の迷宮〉に入場後、消息を絶つ。


 一年前、レヴァニア王国カナート近郊にて、灰色狼に襲われていた牛飼いの少年を助ける。

 そして純白の竜に乗って北東の方角へ去って行った。


「というわけで一年前に目撃情報があるので、全滅したとは考えにくいんだよなあ」

「にわかには信じられません。その一年前の目撃情報は確かなのでしょうか?〈魔法使い〉様が第一位階冒険者をも打倒する強者なのは承知していますが、そのような人種最高峰の存在すら飲み込み、全滅させてしまうのが迷宮という場所です。過去には他の第一位階冒険者パーティーが全滅した記録もあります。それに……」


 たった一人の牛飼いの少年の証言よりも、これまでにいくつもの冒険者を葬って来た迷宮のほうがソフィアは信用できるのだろう。

 ゆるキャラは逆に迷宮に対する知識が乏しいので、あのニール先輩や竜族であるハクアお姉ちゃんが負けるイメージが湧かなかった。


 ちなみに樹海や竜族、守護竜についての説明はさらっと流して、且つ他言無用でお願いしてある。


「まさか出入口以外に迷宮を脱出する方法があるかもしれないのか!これはじっとしておれん。〈神獣〉よ調査に行くぞ」

「お爺ちゃんうるさい」

「うむ」


 直情型お爺ちゃんが浮足立ってギルドマスターの椅子から勢いよく立ちがったが、孫にぴしゃりと叱られて撃沈した。


「ギルドマスターの言う通り、迷宮の一つしかない出入口以外からの脱出方法は見つかっていません。もし本当に〈魔法使い〉様たちが生きているなら、別の脱出方法があるという可能性があり、世紀の大発見となります。仮にそうだったとして何故〈魔法使い〉様は脱出後、姿を現さなかったのでしょうか」


「位置関係も良く分からないなあ。三年前は王国、二年前は帝都で一年前はまた王国か。迷宮の奥で南方にでも転移させられたとか?」


 仮にそうだとしてもハクアという(乗り物)もいるわけだし、一年もあればとっくに帝都に戻れるか?

 もし一年がかりで戻ってきていたとしたなら、南方は南方でも大陸の外だったりして……。


「ということは私たちの探索によって謎が解けるかもしれませんね」


 ゆるキャラと同じソファーに座っているルリムが、高揚を隠しきれない様子で話しかけてきた。

 前々から迷宮に入りたくてうずうずしていたからな。


「迷宮ってどんなところなんだろうね。楽しみ」

「ん、姉さんの手がかりをさがす。ついでに運動もする」


 そんなルリムの言葉に反応してフィンとシンクも意気込んでいる。

 アナだけは相変わらず周りについて行けずあたふたしていた。

 こういう時だけは三姉妹のメンバーが入れ替わるというか増える?んだよな。


「迷宮の深層を探索するには二つの条件が必要になります。一つは第二位階以上の金冠冒険者がパーティー内にいること。もう一つは貴族の許可と支援を得ることです」

「どっちの条件も満たせてないな」


 オグトと戦ったせいで銀冠の第二位階冒険者にはなれたが、金冠にはなっていない。

 冒険者は魔獣の討伐や商隊の護衛といった戦闘に特化した依頼の他に、未踏地域の環境調査や希少植物の採取などサバイバル術や動植物知識が必要になる依頼もある。


 銀冠とは戦闘能力に限定して評価された証で、金冠は戦闘能力以外も含めた総合的な能力を評価したものだ。

 オートマ限定では駄目らしい。


「第二位階の金冠試験は半年に一度しか行なっていませんので、取り急ぎ深層を探索するのであれば今回は外部から金冠冒険者を雇い、臨時パーティーを組むしかありません」

「やっぱり銀冠より面倒な試験になるのか?」

「はい、その通りです。銀冠は戦闘力が評価できれば終わりですが、金冠は冒険者として総合的な能力を評価する必要がありますので」


「よし、わしが貴様たちのパーティーに入ろう」

「貴族の許可と支援はクルール様次第でしょうか」


 とうとう孫に無視されるお爺ちゃん。


「午後からデクシィ侯爵との面会がありますので、その際にトウジ様自ら交渉して頂ければと。私はあくまでトウジ様を案内する役目ですので」


 ううむ、なんだか面倒なことになってきたな。

 迷宮ってもっと未知の空間というか自己責任でご自由にどうぞ、みたいな場所かと思っていたのだが想像以上にしがらみが多い。


「それでは午前の残りの時間は、第二位階の銀冠冒険者の登録とパーティー申請、及び臨時メンバー募集の準備をしましょう」

「パーティー申請?」


「はい。探索届はパーティー単位での提出となり、別途パーティー申請が必要になります。新しく必要な情報はパーティー名だけですので、決めて頂けますか?」

「ふうむ。皆はパーティー名は何がいい?」

「トージに任せる。けどカッコイイのにしてね」


 フィンの言葉に他の面々も頷いたが、うーん名付けって苦手なんだよなあ。

 候補は上げれるけどその中から一つを選ぶところで、どれも捨て難く優柔不断になってしまうのだ。

 ネーミングセンス自体は悪くない……はず。


 結局ゆるキャラはパーティー名を決め切ることができず、次回訪問時までの宿題となったのであった。

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