123話:ゆるキャラと今後の予定と老筋肉
一晩明けて翌朝。
普段ならルリムが起こしに来てくれるところだが、今朝に限っては屋敷のメイドさんがその役目を担ってくれる。
さて、今後の予定をおさらいしておこう。
帝都に来た目的は優先順位が高い順に以下の四つだ。
一つ目はシンクの姉ハクア及び先輩異邦人ニールと竜巫女の捜索。
まずは冒険者ギルドで活動の記録がないか問い合わせしてみて、それで情報が得られなければ他の手段を探そう。
二つ目はルーナイト商会を訪問して、シンクやルリム親子の正体を隠蔽できるような魔術具等がないか相談すること。
更に可能であれば、ゆるキャラが四次元頬袋に死蔵している財宝の鑑定を依頼したい。
ただしこれは帝都の滞在期間によっては無理かも。
三つ目はシンクのストレス発散。
帝国に入ってから戦闘には一切参加していないので、フラストレーションがたまっている模様。
ザーツの時はまだ我慢できていたが、オグト戦の時はゆるキャラに加勢する寸前でフィンが止めてくれたんだそうだ。
ゆるキャラが不甲斐ないばかりに申し訳ない。
相手は第一位階冒険者なので強さは人種最強クラスなので、それに勝とうなどと周りの人種からは高望みに見えるだろう。
しかし竜族の強さを知っているゆるキャラ的には不甲斐なさが先に立つ。
そう考えるとやはり戦力強化に成りえる、死蔵している財宝(武器)の鑑定は勧めたいところだ。
ゆるキャラは別に戦闘狂じゃないが、結局強くないと皆を守れないから強さを求めざるを得ない。
もしこの世界でも何の力もない人間のままだったなら、そもそも強くなろうとは思わなかった。
だがゆるキャラとして転生して加護を得た今は、強者という高みに手が届く予感がある。
あるのなら努力すべきだろう。
痛みや死への恐怖が薄れているのは、やはり人ならざる姿ゆえなのか。
臆病過ぎるのも問題だが逆もまた引き際を誤りそうで嫌だ。
というわけで、心が獣になる前に人間に戻りたいという意思は今も変わっていない。
四つ目は第一皇子派との面会だ。
これが一番の悩みの種だが、クルールに助けられ屋敷の手配までしてもらった手前、面会はしなければなるまい。
早速今日の午後からの面会予定なので、午前中に片付けられそうな仕事を済ませてしまおう。
豪勢な朝食を頂きつつ、クルールに冒険者ギルドへ行きたい旨を伝えるとOKをもらった。
帝都の冒険者ギルドも王国の王都と同じように本部と支部があるのだが、本部へ案内してもらうことに。
馬車の車窓から伺える帝都の街並みは、最初の印象と変わらず軍都であった。
雰囲気は王都と城塞都市ガスターを足して二で割った感じで、区画整理され整然とした道は人通りが多く活気がある。
巡回する帝国兵士と何度もすれ違ったので治安もよさそうだ。
「街並みは相当古そうだけど道はしっかり真っ直ぐだな」
「初代国王が革新的な人だったそうで、このすっきりとした街並みは建国された三百年ほど前から変わりません」
相変わらず馬車の座席の対角線と、距離を置いた位置からクルールが説明してくれる。
ヨルドラン王国が帝国に変わったのは五十年ほど前で、クーデターにより当時の王家は根絶やしにされている。
クルールは故郷でクーデターが起きて、王国から帝国になったことをどう思っているのだろう。
生まれる前の話だから実感なんてないか。
ゆるキャラも天下統一している武将が誰に変わったところで、へーそうなんだという感想しか出てこないもんな。
統べる人や住む人が変わっても街のつくりは変わらないようだ。
直線的な街並みは、中の人が道産子のゆるキャラ的には馴染み深い。
歴史があるだけあって石造りの古風なものからレンガ造りのものや、真新しい木造建築といった具合に並ぶ建物の種類は多種多様だ。
建物は多様性があるが、行き交う人々の大半は人族である。
「やっぱり亜人は少ないみたいだな。門の前にいた亜人たちはどこに行ったんだ?」
「帝都の南西部に亜人街があるので、ほとんどの亜人はそこで生活や商売をしていますね。亜人街の外に出ては行けないということはありませんが、正直に申し上げて住みやすい環境とは言えませんので……」
レヴァニア王国とは違ってここでは亜人への差別が根強いため、棲み分けをしているのだという。
ちなみに差別は帝国になってからではなく王国時代からあり、レヴァニアという亜人に寛容な国のほうがこの辺りでは珍しかった。
それなら特に人間離れしている外見のゆるキャラが、箱入り娘のクルールに忌避されても仕方ない……と思っておこう。
「亜人街に冒険者ギルドの支部はあるのか?」
「ありますよ」
「そっちにしておけばよかったかなあ」
「いえいえ、トウジ様は本部で問題ありません」
などと会話しているうちに冒険者ギルドの本部に着いた。
大昔からここにある建物なのだろう。
長年の増改築により継ぎ接ぎだらけになっていて、巨石をくり抜いたような楕円の門が特徴的だ。
「おう、待っていたぞ」
「!?……待っていた?」
冒険者ギルドに入った矢先、正面で待ち構えていたのは筋骨隆々の偉丈夫である。
一瞬オグトかと思って身構えたが、服装は冒険者ギルドの男性職員の制服なのですぐに違うとわかった。
制服はズボンは膝から下が、ジャケットは肩から先が引き千切られて無くなっていて、丸太のような足と腕が剥き出しになっている。
胸元には軍人の偉い人が付けていそうな勲章がいくつも付いていて、首から上にはそれに見合った老練な顔がありゆるキャラを見下ろしてた。
そして腕組みしながら、口元を隠すように伸びている白髭をふごふご動かして高らかに宣言した。
「よく来たな〈神獣〉。突然だが貴様を銀冠の第二位階冒険者とする」




