122話:ゆるキャラと今後の課題とおもてなし
やはりオグトは第一位階冒険者だったのか。
あの強さからして冒険者であれば第二位階は手堅いと思っていたがそれよりも上だった。
ゆるキャラとオグトの大乱闘で帝都の門前は大荒れだが、全部クルールの手配で後始末してくれるそうだ。
幌馬車と乗客には悪いことをした、というかオグトが全面的に悪いのだが。
更にクルールの派閥の力を使いゆるキャラ御一行及びルーナイト一家(護衛のアレスたち含む)は、順番待ちをせず貴族用の門から悠々と入都となった。
「〈国拳〉を相手にして互角にやりあうなんて、トウジさんがそこまで強かったとは」
「すっごいよね!もう少しで勝てたんじゃない」
興奮した様子で御者台から話しかけてきたのはアレスとタリアである。
第一位階の冒険者ともなれば有名人で、相手が〈国拳〉だということにアレスたちは早々に気が付いたそうだ。
さっき何か言いたそうにしていたのは、そのことを伝えようとしていたらしい。
まあアナが殺されかけている以上、落とし前は付けてもらわねばならなかったが。
ルリムとアナはしきりに申し訳なさそうにしているが、こちらこそ決着が付けられず申し訳なかった。
「トウジ様。もし今後同じようなことがあれば、見捨てて頂いて構いませんので……」
「今更そんな水臭いこと言うなって。もうみんな家族みたいなものなんだから一蓮托生さ」
一番可哀そうなのは殺されかけたアナだ。
心配そうにルリムとゆるキャラを交互に見上げているので、頭を撫でてやる。
「そうよそうよ。あんなやつ囲んでぼこぼこにのぎたぎたにしてやればよかったのよ」
「ん、次はわたしがとっちめる」
フィンとシンクはオグトのアナへの仕打ちに対してぷりぷりと怒っている。
本気でとっちめるなら二人の参戦が確実だったが、周囲への被害が深刻になるし、帝都どころか帝国外へ脱出する羽目になっていただろう。
それに神官服の女の牽制も必要だった。
オグトはあれでまだ全力でないみたいなことを言っていたから、きっと体力ゲージが三割以下になったら超必殺技でも出せるんだろう。
乱舞技か即死技かは知らん。
対するゆるキャラも忍者男戦の反省から編み出した〈自動もぐもぐ〉を使ってしまっていた。
〈自動もぐもぐ〉とは〈商品〉ウィンドウから直接四次元頬袋に回復アイテムを転送して、梱包を剥がしてから口内へ発現させる。
そしてそのままもぐもぐするという、隙の無い回復方法のことだ。
〈ハスカップ羊羹(一本)〉や〈コラン君饅頭(八個入り)〉といった食品は、体力や魔力が回復することがこれまでの検証によりわかっている。
中でも〈牛乳たっぷりコラン君プリン(三個入り)〉は、ゆるキャラの両手の骨折も瞬時に癒やすほどの回復力があった。
よって頬袋にプリンを大量に忍ばせて負傷する度に飲み込めば、MMOのネトゲで回復ポーションを連打しているような状態になるのだ。
奇しくも格ゲーキャラ対ネトゲキャラの、夢の対決だったのかもしれない……なんて考えてるのがバレたら皆に怒られるな。
防御に関しては隠し玉がもう一つあるが、攻撃面では手詰まりだ。
ネトゲキャラ?らしくアクティブスキルの一つでも覚えたいものである。
それか死蔵している財宝からより強力な武器を発掘しなければ。
あとでルーナイト夫妻に相談してアイテム鑑定を依頼してみようかな。
「それにしてもトージは不甲斐ないわね」
「第一位階冒険者と互角で不甲斐ないだなんて」
怒り冷めぬフィンの物言いにクルールが呆れていた。
馬車の中はゆるキャラ、フィンにシンク、ルリムとアナ、最後にクルールが乗り込んでいてぎゅうぎゅう詰めだ。
クルールは依然としてゆるキャラと視線も合わせられないので、互いに対角線上に据わっている。
亜人が苦手だと言う割には、フィンもシンクも何ともないがゆるキャラは苦手らしい。
解せぬ。
もちろんクルールは一人であの場に現れたわけではなく、従者と護衛騎士は別の馬車で前を走っている。
「先程もお願いしましたがトウジ様たちの宿はこちらで手配しますので、今日はそちらにお泊りください。そして明日は第一皇子派の中核を担うデクシィ侯爵との面会をお願い致します」
「どんな意図の面会か知らないけど、そちらの望みは叶えられないと思いますよ」
「私の役目は侯爵の元までお連れするところまでなので構いません。それと私に敬語は不要です。第一位階冒険者と互角の時点で子爵と等しい位が与えられると思いますので」
面会の内容もその辺の面倒な話なんだろうね。
帝国に長居するつもりはないので、取り込もうという魂胆だとしてもお断りだ。
問題はどうやって断れば穏便に済むかだが……。
アルスたちとルーナイト家族とは途中でお別れとなる。
とはいえ冒険者ギルドにはシンクの姉ハクアの足跡を探るために顔を出すし、ルーナイト商会にもお招きにあずかる予定なので今生の別れではない。
観光も含めて明日以降だな。
馬車を乗り換えて向かった先は、貴族街にある高級そうな邸宅だ。
まるで貴族が住む屋敷のように豪奢で、到着すると大勢の執事とメイドに出迎えられた。
てっきり宿泊施設に案内されるかと思いきや、第一皇子派の派閥の屋敷なんだとか。
クルールは言葉を濁していたがゆるキャラ御一行は全員人族ではないので、差別意識の強い帝国貴族向けの宿には泊まれないのだろう。
執事もメイドも内心はどう思っていることやら。
「「「ふわあああああ」」」
大人の事情など知らない三姉妹からは、内装を見て安定の三ふわああを頂く。
踝まで埋まる絨毯と天井には巨大で絢爛豪華なシャンデリアが。
あれを人の上に落としたら一気に数人は殺せそうである。
所狭しと飾られている様々な調度品もこれでもかと輝いていて実に悪趣味だ。
「頼むから触って壊さないでくれよ」
「そんなヘマはしないわよ!」
我が物顔で調度品の間を楽しそうに飛び回るフィン。
待機している老執事が調度品が壊されないかと気が気じゃなくて、冷や汗をかいているのが見える、見えるぞ。
可哀そうだからやめてあげて。
その日はクルールも交えて豪勢な夕食を頂いて終了となった。
メイド姿のルリムたちにメイドが給仕する姿は、なかなかにシュールだったことをここに報告しておく。




