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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
4章 帝都迷宮案内

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117話:ゆるキャラとアオハル

「お見事。冒険者なら第三位階は硬いんじゃないか?ザーツともいい勝負をしそうだな」

「ありがとうございます!でもあの斧使いは相当の手練れだったので、魔術無しだと勝てないかもしれません。武器の間合いはほぼ同じですが、詰められたら不利ですね」


 ゆるキャラが褒めるとルリムは嬉しそうにはにかんだが、脳内でザーツとの戦闘を想像しているのか顎に手を当てて考え始めた。


「逆に言えば遠い間合いなら勝てるってことか」

「開けた場所で他の妨害がなければ、ですが。あの猛攻を余裕でかわし続けるなんて、改めて思いますがトウジ様は凄いです。しかも魔術もそのマフラーで弾いちゃうんですよね?」

「お、おう。飛んでくる魔術の類なら無反動で跳ね返せるな」


 飛び道具くらいなら某ひみつ道具のようにひらりと弾くだろう。

 精神に作用する魔術だとどうだろう?

 アルミホイルみたいに頭に巻けば防げるだろうか。


 ルリムが「すごいなあ」と感嘆の声を上げながらマフラーを見つめた。

 なんだろう、ルリムがとてもキャピキャピ(死語)している。

 こんなに溌溂とした娘だったっけ?


「触ってもいいですか?」と聞いてから、ゆるキャラの赤いマフラーを興味深げに撫でたかと思うと、急に上目遣いになった。


「あのう、もし暇な時間があったら手合わせをお願いできませんか?少しでもトウジ様のお役に立ちたいです。ご本人のお手を煩わせるのはちょっと申し訳ないのですが」

「別にいいぞ。断る理由もないしな」

「やったあ!ありがとうございます」


 ゆるキャラが快諾すると、飛び跳ねんばかりの勢いで喜びを表現するルリム。

 これはあれだ、運動部の部活動のノリに近い気がする。

 憧れの先輩と練習ができる的なやつだ。


 普段は三姉妹のお母さんをしているルリムだが、アナが生まれる前はこんな感じだったのかな。

 闇森人だけあって見た目が若く、十代後半……いや半ばでも通じるだろう。

 ただし胸部パーツが凶悪なのと、血塗られたメイド服姿に戦斧を担いでいるのでちょっと異様な光景になっているが。


 ゆるキャラの中の人にもこんな甘い青春時代が……帰宅部にあるわけもなく。

 きっと世の中のリア充どもはこんな経験をしていたのだろう。

 爆発しろ。





「トウジとルリムばっかりずるい」

「そうだそうだ、ずるいぞー」

「そんなこと言ったって仕方がないじゃないか。夕食後の君たちは起こしても起きないんだから」


 馬車の旅も五日目の朝となり、ようやく折り返し地点を過ぎたぐらいだ。

 昨晩は剣牙猫の討伐を滞在していた村の村長に報告すると、それはもう喜んでくれた。


 危うく夜通しの宴会に発展しそうだったので、明日も早いからと固辞。

 剣牙猫の素材もいらないので、丸投げして村を出発した。

 一応次の街の冒険者ギルドで村が出していた依頼を達成した報告の予定だ。


「じゃあ私も手合わせする」

「ん、わたしも」

「ぼ、僕は……」


 長女フィンに次女シンクが乗っかり、三女アナはおろおろしている。

 うんうん、その陽の者のノリについて行けない感じ、ゆるキャラの中の人はよく分かるぞ。


「手合わせの意味を分かって言ってるのか?」

「トージと殴り合うんでしょ?」

「ん、なぐりあう」

「え、えっと……」


 フィンが馬車の車内を漂いながらシャドーボクシングを始めた。

 シンクもやる気に満ちた表情で拳を握っている。

 フィンはともかくシンクに殴られたら、ゆるキャラは間違いなく死んでしまうのでやめて欲しい。


「フィンは魔術メインなんだから手合わせ不要だろ。シンクは殴られたら俺が死ぬし、隠密行動中だろ?」

「ぐぬう」

「むう」

「えっと」


 フィンはどうせすぐ飽きるか忘れるかするからいいが、シンクには帝国に入ってからは我慢を強いている状況が続いているので申し訳ない気持ちで一杯だ。

 リージスの樹海に住む竜族の縄張りの外で暴れてしまうと、帝国周辺を支配する者を刺激してしまう可能性があった。


 この辺りを支配しているのは〈較正神〉という小柱の神だそうだ。

 その名の通り誤りを正したり、偽りの姿を見破ることに長けているのだとか。


 この世界は創造神を筆頭に役割に応じて様々な神々が存在していて、〈較正神〉もその一柱である。

 それにしても秤やノギスを渡せば較正してくれそうな神だな。


「〈人化〉した状態で多少暴れるくらいなら大丈夫かもしれないけど、万が一があるからなあ」

「それなら迷宮に潜るのはどうですか?トウジ様」


「へ?なんで迷宮の話になるんだ?」

「迷宮内部と外部は完全に分断されていますので、迷宮内部で暴れる分には魔力が漏れたりということはありません」


「おお、それなら暴れるだけでなく〈人化〉を解いて竜の姿にも戻れるかもな」

「んっ、それは魅力」


 文字通り羽を伸ばせるかもしれないと聞いて、シンクは垂れ目をきらきらと輝かせながら嬉しそうに体を前後に揺らしている。

 迷宮に潜りたがっていたルリムに上手く誘導されたな。


 だが冷静に考えると他の冒険者もいるし、運営する貴族には目を付けられてしまいそうだ。

 今更無理と言ってシンクの顔を曇らせたくはないので、なんとかするしかないが……。

 まあ神に因縁を付けられるよりはましだと思っておこう。

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