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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
4章 帝都迷宮案内

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115話:ゆるキャラと職場

 迷宮とは冒険者にとって職場の一つである。

 富、名声、力、この世のすべて……がそこにあるかどうかは知らないが、冒険者が最も活躍できる場所と言っても過言ではない。


 迷宮とは神々が造り、アトルランの住人に与えられた試練の場だと言われている。

 その入口は塔であったり、洞窟であったり、古城の地下であったりと様々だが、内部の構造には共通点があった。


 内部は複数の階層によって隔たれていて、物理的な広さ及び環境が迷宮の内と外で一致しない。

 外観が直径十メートル、高さ三十メートルの塔だというのに、中に入ると何故か地下へ降りる階段が続いていて、数百メートル四方の迷路が何層も連なっていたりする。

 中にはまるで迷宮の内部とは思えない森林が広がっていたり、更には砂漠や海になっている場所もあった。


 物理的なサイズが合わないということは、迷宮内部は別の空間だったりするのかね。

 ゆるキャラの四次元頬袋の中みたいに。


 そして各階層には様々な魔獣や闇の眷属が生息し、独自の生態系が成立している。

 神々が造った迷宮なのに敵対する闇の眷属がいるんかいと突っ込みたくなるが、後から侵入して住み着いた存在だという。


 他にも犯罪者が逃げ込んで隠れ里を形成したりと、迷宮内部が一つの、あるいは複数の街のように機能する場所もあるそうだ。


 神々の試練の場というだけあって様々な困難が待ち受けているわけだが、その見返りとして様々な財宝が眠っている。

 試練を乗り越え財宝を手に入れるのが冒険者の仕事というわけだ。


 ファンタジー世界のわりにはリアル志向なアトルランだが、ここにきて急にゲームっぽくなったな。

 一度解除した罠や宝箱は誰が再設置しているのかとか、閉鎖空間で換気はどうなっているのだとか、敵は勝手に復活するのかとか、階層守護者的なのはいるのかとか気になることは沢山あるが、話が長くなるので今は割愛する。


「迷宮の運営ってなんだ?」

「迷宮からは貴重な魔獣や動植物の素材、試練に打ち勝った報酬など様々な恩恵が得られる場所です。なので規模の大きい迷宮は国が厳しく管理しています」


「ふむふむ、なんだか新手の国営の鉱山や牧場みたいだな」

「管理といっても神々の思し召しの範疇でですけどね。それで迷宮から魔獣が溢れたり枯れたりしないように、冒険者の流入を調整するのも管理の一部ですが、シャウツ男爵家の所属する派閥がそれに失敗したんです」


 ルリムがクルール男爵令嬢に仕えるおばさんメイド、ハンナから聞いた話によるとこうだ。


 シャウツ男爵家が所属していたのは、最大派閥である第一皇子派だ。

 年齢的に第一皇子自身が皇帝になることはないが、自分の息子、すなわち現皇帝の長子の子が最有力候補である。


 最大派閥ということは帝国内の権力の割合も大きく、帝都最大規模である〈残響する凱歌の迷宮〉の管理も任されていた。

 半年ほど前、迷宮の中層で飽和状態になりつつあった魔獣を間引くべく、帝国騎士団の大隊と冒険者パーティー二十組が編成され、討伐に向けて出発した。


 ……その結果は大敗。


 第一位階冒険者パーティーの追加投入により、間引き自体にはなんとか成功したものの、騎士団と冒険者それぞれの半数以上を失った。

 シャウツ男爵家は普段の冒険者の流入量の調整の失敗が魔獣の氾濫を加速させたとして、責任を取らされたのだが、若干腑に落ちない。


「最大派閥の失敗の責任を下っ端の男爵家だけで取れるものなのか?」

「普通なら無理ですがクルール様のお父様が武芸で出世した人で、今回の騎士団大隊の副隊長でした。伯爵家の隊長が戦死したため、シャウツ男爵が繰り上げで隊長に。シャウツ男爵は生き残りましたが、大きな被害を出した責任を取って処刑され、残された一族は南方の辺境伯預かりとなりました」


「処刑って野蛮だなあ。しかも流入量の調整は派閥全体の失敗じゃん。男爵家に責任を押し付けるとか、蜥蜴の尻尾切りじゃん。というかそんな重要な話、見知らぬ他人に話したら駄目だろうに」

「後半はクルール様本人も混ざって私に愚痴ってきましたね」


「ええ……」

「もう男爵家は取潰し直前らしく、クルール様は自暴自棄でしたね。お兄様がいてお父様のような武勲を辺境伯は期待しているのですが、どうやらその才能は無く見限られそうだとか」


 親の七光りの二世タレントかな。

 でも二世は二世で親の知名度が圧力になるから可哀想ではある。


 元々男爵だし資金面はかつかつなのだろう。

 そういう経緯もあってクルールは最小限の従者だけを連れて、ぼろぼろの馬車に乗っていたのか。

 礼は必ずすると言っていたが、そんな余裕はないだろうな。


「迷宮は昔、森人に変装して臨時パーティーで潜ったことがあります。その時は浅層で魔獣を狩っただけですが、トウジ様たちなら余裕で深層まで行けそうですね」

「そうかな?魔獣はともかく罠が怖いかなあ」


 前に〈混沌の女神〉の分神殿の司祭リリエルから聞いた、強制転移の罠を思い出す。

 リアルいしのなかにいるを食らってリリエル以外のパーティーメンバーは全滅。

 彼女も左腕を失った……猫の力で代わりの腕が生えていたが。


「逆に言えば罠くらいしか弱点が無いんですよね。それに物理的な罠も効かないでしょうし、気をつけるのは本当に転移くらい」

「迷宮ねえ。興味がないと言えば嘘になるな」


 迷宮奥深くに眠る財宝を巡っての探索。

 そこに男の浪漫はないだろうか、いやある。


 地球でも伝説の妖刀を手に入れるまで迷宮に籠もったり、上級悪魔の養殖をしたりしたものだ。

 まあゲームの中でだが。


「本当ですか!機会があればみんなで潜りたいです」


 ルリムが興奮した様子でゆるキャラの両手を掴む。

 男の浪漫に理解がある、というよりは外の世界の全てに興味があるのだろう。

 それで故郷を失った悲しみが少しでも癒やされるなら、迷宮探索も吝かではない。


 帝都に着いたらシンクの姉ハクアの情報収集がてら、〈残響する凱歌の迷宮〉の情報も集めてみようかな。

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