109話:ゆるキャラと姉弟と評価
「いやーあんたたちが来てくれて助かったよ。危うくゴブリンどもの苗床にされるところだったわ」
洒落にならない物騒な台詞を吐いたのは、小柄で金髪碧眼の美少女だ。
エールの入った木製のジョッキを豪快に煽って飲み干すと、隣に座るアレスの肩をばしばし叩いている。
彼女の名はリエスタといい、このアネアド村の村付きである。
村付きというのは村専属の護衛のことで、引退したが腕っぷしにはまだ覚えのある元兵士や、元冒険者がなることが多い。
リエスタはタリアとそう変わらない年齢のようなので、前職を引退したとは考えにくい。
何か訳ありなのだろう。
「ね、姉さん。そんなに叩いたらアレスさんの肩が外れちゃうよ」
アレスとは反対側の、リエスタの隣に座る巨漢は弟のライナードだ。
身長二メートルはあろうかという金髪碧眼の美丈夫なのだが、姉を咎める口調は弱々しい。
椅子に座る背中も丸まっていて、内気な性格が滲み出ている。
アレスたちの活躍によりゴブリンどもは殲滅された。
姉弟が助けられたお礼をしたいということなので、村唯一の酒場で夕食を頂いているというわけだ。
まあ助けたのはアレスたちなので、同席しているゆるキャラと商人家族は別料金なのだが。
全員で円形のテーブルを席を三つ占拠していて、その一角でルリムがせっせと三姉妹の世話を焼いてくれている。
「このくらいなんてことないよな、未来の婿殿。私より強くなって嫁にしてくれるってんだから、このくらいで音を上げられちゃね?」
「も、もちろんですとも」
と言いつつもアレスの表情は引きつっている。
実は結構痛いらしい。
戦闘中はアレスたちを注視していたのであまり観察できなかったが、リエスタは相当な怪力だった。
小人のゴブリンに囲まれると姿が見えなくなるくらい小柄だが、そいつらを素手で殴り飛ばしていた。
ゴブリンが吹っ飛ぶ始点にリエスタがいるわけで、終盤は乱戦だったが居場所を見失なわずに済んだ。
見た目は華奢だが戦闘系の強い加護を持っているのだろう。
一方でライナードは見かけによらず、素早く動いて敵を翻弄するタイプである。
大きい体でゴブリンの背後を取ると、反りのある短刀の二刀流で連撃を繰り出していた。
見た目とそれ以外が見事に一致しない姉弟で、中身が入れ替わってると言われれば信じてしまいそうだ。
リエスタは黙ってれば深窓の令嬢、ライナードも背筋を伸ばせばレンのようなイケメン貴族に見えるのだが……色々惜しい。
「それで本当のところはどうなの?リエスタさん。うちのアレスは旦那さんになれそう?」
「うーんこのままだとあと五年はかかるかなあ。そんなに待てないから三年、いや二年以内に私を越えておくれよ婿殿!」
タリアの質問にがははと笑いながらリエスタが答えると、アレスの肩を改めて叩く。
アレスは終始苦笑いだが、なんとも不思議なやり取りだ。
幼馴染と聞いていたのでてっきりアレスとタリアが恋仲かと思いきや、リエスタの婿候補だというのだから驚いた。
幼馴染イコール恋人という考えは安直なのだろうか。
それともアレスはリエスタのお眼鏡にかなっていないようだから、正妻の余裕というやつなのか?
学生時代からぼっち気質で幼馴染どころか異性の友人はおらず、同性の友人も少なかったゆるキャラの中の人には分からない世界だ。
「みんな知り合いなのか?」
「リエスタさんとライナードさんは私とアレスの命の恩人なんです。駆け出しの頃、灰色狼の群れに囲まれて絶体絶命のところを助けてもらいました」
「あの頃は二人ともひよっこだったが、大分ましになってきたなあ。特にタリアはすごいぞ。アレスはもっと精進しないとだめだぞ」
そう、ぶっちゃけアレスとタリアなら、タリアのほうが優秀だった。
アレスのパーティーをゆるキャラが勝手に順位付けするなら、一位がジェイムズ、二位がタリア、三位がサンドラでビリがアレスだろうか。
ジェイムズはかつて貴族の暗躍に加担していただけあって、他の三人よりも動きが洗練されていた。
周囲の状況を瞬時に把握して、一撃でゴブリンを仕留める姿は正に暗殺者といった感じである。
タリアは純粋に弓の才能が凄い。
文字通り矢継ぎ早に矢を放ち、アレスに群がろうとするゴブリンを的確に射抜いていた。
これは技量というよりは授かった加護の力によるもので、つまり技量が加われば更に成長する可能性がある。
サンドラはそこそこの詠唱にそこそこの魔術の威力とまあ普通だ。
というか魔術の才能に関してゆるキャラが明るくないので、評価しきれていないという側面もある。
すぐ傍に詠唱も適当なのに馬鹿みたいな威力を出す問題児がいるので、余計に評価基準が定まらなくなっていた。
アレスは更に普通である。
剣と盾を使いこなしてはいるがジェイムズのように一撃必殺でもなければ、タリアのように連撃を放てるわけでもない。
一撃で首を刎ねる場面もあったが、あれは先にタリアの矢がゴブリンの胸に刺さり隙ができたからだ。
とどめか牽制かの違いはあるが、ジェイムズとタリアがこのパーティーの要だろう。
もちろんゴブリンとの戦闘を一回見ただけなので、この評価が絶対正しいとは言い切れないが。
ちなみにリエスタとライナードはジェイムズより頭一つ飛びぬけている。
多分シナンやイレーヌに匹敵するのではないだろうか。
多勢に無勢ではあったが、この二人なら加勢が無くてもなんとかなっていたような気がする。
「そうですね、トウジさん稽古でもつけてもらいましょうか」
「ん?このもこもこの兄さんは強いのかい?」
「それはもう……」
「そうそう、トウジさんって凄く強いのよ!あの月華団の首領を一撃でのしちゃったんだから」
興奮した様子でゆるキャラの武勇伝を語りだすタリア。
自分で語るつもりだったのを横から掻っ攫われて、アレスは再度苦笑いを浮かべている。
あとなんで横で聞いてるフィンとシンクもドヤ顔で、腕を組んで頷いているんですかね。
恥ずかしいからやめておくれ……。




