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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
4章 帝都迷宮案内

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107話:ゆるキャラと人生色々

「えーーなにこれ!すっごい甘い」

「うう、おいしい。甘いものなんて久しぶりだわ」


 饅頭の甘さに思わず声を上げたのは弓使いのタリアで、噛み締めるように呟いたのは魔術師のサンドラだ。


 タリアは十代後半くらいの見た目で、ショートパンツに革製の部分鎧を着込み弓を背負っている。

 ショートカットの茶髪が似合う活発な少女だ。

 サンドラは波打つ赤く長い髪が映える大人びた女性で、濃紺のローブ姿で節くれだった杖を膝に乗せている。


 ゆるキャラたちは襲ってきた盗賊集団の月華団を撃退。

 耕された街道を綺麗に直した後、馬車の旅を再開していた。


 先頭の馬車を引いていた馬はザーツに殺されてしまったため馬車ごと放棄。

 積んであった荷物と護衛の冒険者たちは、残りの三台に分散させて運ぶことになった。


 ルリムが手配した馬車の一団は二台目の馬車に乗っている商人の若夫婦の所有物で、一台目と四台目には商品が大量に積み込まれていた。


 なんでも帝都でそこそこの大店(おおだな)、ルーナイト商会の跡取りだとか。

 今は王国にある支店を任されているのだが、子どもが生まれたので親に孫を見せるため大量の商品(おみやげ)と共に帰省するそうだ。


 危うく二代分の血筋が絶たれるところだったということもあって、非常に感謝された。

 もし帝都に来る予定があれば是非店に寄ってくれと言われたが、今のところその予定はない。


 帝都の手前で北西方向に逸れて、目的地である旧ラディソーマへ向かう予定だ。

 恩恵を受けるつもりはないが、商人を助けてコネを得るという異世界あるあるは達成した模様。

 実績解除の特典が欲しいところだ。


 馬車が一台減って他の馬車の積載量が三割増しになったので、ゆるキャラは周囲の警戒も兼ねて先頭の馬車の、幌が無い荷台に乗り込みドナドナされている。

 これ以上のトラブルは御免なので、乗客だが護衛を買って出た形だ。


 先頭を元々四台目だった荷物専用の馬車、二台目以降は変わらず商人夫妻、フィンたちという順番である。

 冒険者たちは前方に女性陣、後方に男性陣と分散して乗っていた。


 前方をゆるキャラが、後方を斥候風の男ジェイムズとリーダーのアレスが荷台のステップに座り込んで警戒している。

 一昔前のゴミ収集車の側面に掴まっている作業員を思い出す光景だ。


 サンドラは進呈した〈コラン君饅頭(八個入り)〉から一個を取り出し、半分を食べたところで魔力が全快。

 回復した魔力で《土変化》を唱えて街道全体を綺麗に直した。

 そして今は馬車の御車台で揺られながら、食べかけの半分をさらに半分にしてタリアと分け合ってちびちびと食べている。


「あと七個もあるから、毎日食べても七日もつね」

「そんなもったいない。霊薬より魔力が回復するんだからとっておかないとだめよ」

「あー、消費期限的に七日以内に食べ切って欲しいかな」


 〈コラン君饅頭(八個入り)〉のパッケージには製造日十月二日、消費期限十月九日と記載されている。

 転生直後は九月の日付だったので、おおよそ地球とこのアトルランと呼ばれている異世界は同じ時の進み方をしているようだ。

 相変わらずこの取り出した商品が、地球の実際の在庫倉庫や店頭からちょろまかされているのかは不明だが。


「しょうひきげん……七日を過ぎると腐っちゃうってこと!?」

「ほら、やっぱり毎日一個ずつ食べようよ。アレスとジェイムズは甘いの嫌いだろうし、私とサンドラで半分こだね」

「そういうことなら仕方ないわね。半分ずつ食べましょうか」


 《意思伝達》が仕事をして、サンドラたちにも消費期限という言葉の意味が通じたようだ。

 憐れにも男性陣には伺いすら立てられることなく饅頭の消費方法は決定する。


「というわけでその饅頭に免じて俺たちのことは内密に頼むよ」

「もちろんだよ!というか饅頭がなくても命の恩人を売ったりしないよ」


 タリアの言葉に御者のおじさん(ルーナイト商会の従業員)も頷いているが、サンドラは思案顔だ。


「具体的にはどこまで黙ってればいいの?正直あなたたちは私たちが黙ってても、すぐに噂になりそうだけど」

「率先して言いふらさないことと、俺たちのことを訊ねられても、詳しいことは知らないと他人のふりをしてくれればそれでいいよ」


 だよね、黙ってても騒ぎになりそうだよねうちらは。

 もし脅されてゆるキャラたちの情報を引き出されそうな時は、素直に白状してもらってよいとも伝えた。

 そんな事態にはならないと思うけど念のためだ。


 重要な話が終わってしまえば、あとは自然と互いの自己紹介や世間話に移っていく。


 アレスは帝国の地方の豪農の三男坊で、冒険者に憧れて上京したそうだ。

 タリアはアレスと同じ村出身の幼馴染で、村での代わり映えしない生活に飽きてアレスを追いかけた。


 二人揃って冒険者になったわけだが、そこからは苦難の連続だった。

 最初は碌に魔獣も倒せないため下水道のどぶ攫いで日銭を稼ぐ毎日。

 この頃は体力が回復しないで有名な馬小屋生活だったらしい。


 その後貯金が貯まりやっと購入できた剣は、動く死体(ゾンビ)との戦闘後に手入れを怠りすぐに錆びて駄目にしてしまった。

 他にも様々な失敗を身をもって経験して糧としながら、他の冒険者たちとの出会いと別れを繰り返して今日に至る。


 サンドラは帝国北部の少数部族の出で、濃紺の紫のローブの下の素肌には部族のしきたりで彫られた刺青が全身にあるそうだ。

 その部族は長である祈祷師による占いが全を左右する、なかなかにカルトな集団だった。


 ある年、周辺を縄張りとする魔獣たちの勢力図に変動があり、そのあおりを受けて部族の集落も襲撃を受けて少なくない死人が出た。

 今後も増えるであろう死人を防ぐべく祈祷師が占った結果、子どもを一人生け贄として捧げることになった。


 それがサンドラだった。

 新たな魔獣の縄張りの入口に簡易祭壇が設けられ、サンドラはそこに磔にされる。


 子ども心にも占いなどという迷信を信じていなかったサンドラは、自分の境遇を嘆き死を覚悟したが、偶然通りかかった第二位階の冒険者パーティーによって救われた。

 サンドラは彼らに懇願して魔獣に食い殺されたことにしてもらい、部族の集落を出奔。

 魔術の才能と加護を持っていたため、冒険者として自立するに至る。


 ジェイムズは元奴隷だった。

 買い主が裏でやましいことをする貴族で、ジェイムズもその片棒を担がされていたのだが、その貴族が粛清され恩赦によって解放される。


 それからはその時に培った技術を生かして流れの冒険者となり、臨時パーティーに参加して各地を転々としていた。

 貴族が関わる案件なので、過去の事はあまり語れないんだとか。


 当たり前だけど、皆それぞれに人生の物語があるんだなあ。

 全体的にハードな異世界仕様だが。


「私たちはだいたいそんな感じかな。それでトウジさんたちは?どこからきたの?シンクちゃんってもしかして……」


 さて、ゆるキャラたちのことはどこまで話そうか。

 口止めしている都合、あまり詳細を教えると互いに不利益になりそうだ。


「俺たちはリージスの樹海という所から……っと、話は後にしようか」


 上っ面を語ろうとした時、ゆるキャラのエゾモモンガの鼻が不穏なにおいを捉えた。

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