表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

いざ、カリフォルニア!

作者: 鷹羽慶

「たいへんだ、たいへんだー!」


 日曜日の朝。みおちゃんはふすまを開けると、こんもりとふくらんだ布団の上へ飛びこみました。おなかに衝撃(しょうげき)を受けたお父さんが「ぐう」と声をあげます。

「お父さん! たいへんだよ!」

 みおちゃんの大きな声に、布団の中に()まっていたお父さんは、押し出されたあんこのようにもしゃもしゃの頭をだしました。

「早く! お庭がカリフォルニアになってるの!」

「なんだって?」

 目をこするお父さんの手をひっぱってリビングに連れてくると、みおちゃんは(まど)を指さしました。片方に集まったカーテンの向こうに、雪がきれいに積もった小さな庭が見えました。

 昨日の夜から()った雪は5センチほどの高さになっていました。今年初めての景色(けしき)に感心するお父さんの横で、みおちゃんは「カリフォルニア!」と歌いながら足ぶみをしていました。

「どこがカリフォルニアなの?」

「えー? お父さん、わかんないの?」

 首をかしげるお父さんに、みおちゃんはほっぺたをふくらませます。その様子を見ていたお母さんが、にこにこしながらタネあかしをしてくれました。

「この前、学校でカリフォルニアロールを作ったんだって。ほら、ごはんとのりが反対になったお寿司があるでしょう?」

 ようやくお父さんにも、みおちゃんの言っていたことがわかりました。確かに、雪が積もったへい(・・)や葉っぱは、さかさまになったお寿司にも見えます。

 お父さんは、ふむ、としばらく考えて、みおちゃんに言いました。

「朝ごはんを食べたら、散歩(さんぽ)に出かけようか。ほかにもカリフォルニアがあるかもしれないよ」

 みおちゃんは顔をかがやかせてうなずくと、きちんとイスに座って「いただきます」と手を合わせました。


 朝ごはんが終わると、お母さんにみじたくを手伝ってもらって、みおちゃんは良く晴れた外に出ました。

 ツンツンとつつかれるような空気に、思わず目をつむります。

 先に外で待っていたお父さんを見つけると、みおちゃんは指さし点呼(てんこ)をはじめました。

「うわぎよーし。てぶくろよーし。ながぐつよーし!」

 お父さんも同じように、みおちゃんのピンクの上着、赤い手ぶくろ、黄色い長ぐつを指さしました。

「いざ、カリフォルニアをさがしにしゅっぱーつ!」

 みおちゃんはお父さんと手をつないで、白くなった町にくりだしました。




 家から一番近くの三叉路(さんさろ)で、みおちゃんは足を止めました。

「カリフォルニア、みーっけ!」

 みおちゃんが見上げた先には、オレンジ色のカーブミラーが、帽子のようにちょこんと雪をのせて立っていました。

「本当だ。どんな味だろう?」

「あれはきっと、サーモンだよ! みて! とってもおいしそう!」

 (かがみ)を支える柱には、うすくまとわりついた雪が、魚のあぶらのようにすじになっています。

 お父さんもなんだか楽しくなって、足取りが軽くなっていきました。



 山のすその神社の前で、みおちゃんは足を止めました。

「カリフォルニア、みーっけ!」

 みおちゃんが見上げた先には、みどり色のするどい葉っぱが集まった松の木が、お皿のように雪を受け止めていました。

「本当だ。どんな味だろう?」

「あれはきっと、きゅうりだよ! かみさまはやさいが好きだもんね!」

 風が吹くと、松の木はシャキシャキと葉っぱをこすって雪を落としていきます。

 まるできゅうりを食べているようで、みおちゃんとお父さんは笑ってしまいました。



 みんなが遊ぶ公園の入り口で、みおちゃんは足を止めました。

「カリフォルニア、みーっけ!」

 みおちゃんが指さした先には、赤いポストが、寝起(ねお)きのお父さんの髪のように雪をかぶっていました。

「本当だ。どんな味だろう?」

「あれはきっと、まぐろだよ! みんな大好きだから、もう食べられちゃったんだね!」

 ポストの上に積もっていた雪は、ちいさな手でかき集められたあとがいくつもあります。

 おいしいものはよく知っているんだな、と、お父さんはうなり声をあげました。



 たくさんの車が行きかう交差点(こうさてん)のすみっこで、みおちゃんは信号を待っていました。

「カリフォルニア、みーっけ!」

 みおちゃんが両手を広げた目の前を、てっぺんに雪を乗せた車が、右へ左へ走りさって行きました。

「本当だ。あれは……もちろん回転(かいてん)寿司(ずし)だね?」

 お父さんがたずねると、みおちゃんはうなずいて手をつなぎなおしました、

「なんだかおなかがすいてきちゃった。お父さん、そろそろ帰ろう!」

 青信号で手をあげて、みおちゃんとお父さんは家へ帰っていきました。




 家で留守番(るすばん)をしていたお母さんは、車庫(しゃこ)の前で、シャベルを片手に集めた雪をたたいていました。

「ただいま! お母さん!」

 みおちゃんとお父さんが帰ってくると、待ちわびた顔で手招(てまね)きをします。不思議(ふしぎ)そうに近づいたみおちゃんは、お母さんのうしろの雪山を見てはずんだ声をあげました。

「わあ! かまくらだ!」

 そこには、みおちゃんがやっと(こし)かけられるくらいの、小さなかまくらがありました。

 みおちゃんが、まるめた体をうしろ向きに押しこんで座ると、お父さんはカメラを向けました。

「おやおや。これは……」

 お母さんもいっしょにカメラをのぞいて、たちまち笑顔になりました。

「あらあら。みおちゃんが、おいしそうなカリフォルニアロールみたいだわ!」

 お気に入りのピンクの上着に、赤い手ぶくろ、黄色い長ぐつをはいたみおちゃんが、白い雪にぐるりと囲まれている姿は、まさしく「カリフォルニアロール」なのでした。

 ()れた写真に満足そうにうなずいて、みおちゃんはお父さんに言いました。

「こんどは、本当のカリフォルニアに行こうね、お父さん!」

 えへへ、と()を見せて、みおちゃんは家へ入っていきます。

 お父さんは、玄関(げんかん)で待っていたお母さんと目が合うと、ふたりで思わず笑ってしまいました。




 雪が積もる冬の日。


 みおちゃんは今日も、カリフォルニアをさがしに出かけます。

読んでいただきありがとうございました。

 

小学校低学年~中学年を対象にした児童書をイメージして書かせていただきました。

楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] カリフォルニアという言葉がカリフォルニアロールだけを指しているのかと思いきや、カリフォルニア=寿司になっていて笑いました。 経緯を知らない人が聞いたら、「なんでそれがそれなの?」って言葉あり…
[一言] カリフォルニアというタイトルで、曲名(「ホテルカリフォルニア」)しか出てこなかった人間です。絶対に違うと思いながら読み始めたのですが、なるほど確かにカリフォルニアでした。 初めてカリフォル…
[一言] カリフォルニアロール食べたくなりました。 発想力がすごい!
2021/01/11 14:42 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ