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06・城門前の攻防


理世りせは森の中を抜けた先にある、巨大な洞窟の前に居た。


「此処がオレ達の王国の入り口だ」

「王国…」


洞窟を覗き込むと、少し奥まった所に大きな門があるのが見える。


「あの門の向こうの階段を下りて行くと、その先が私達の国です」

入ったら先ずはお部屋にご案内しますからね。


そう言いながら眼鏡の男が理世の髪をサラリと撫でると、背の高い男がバシッと手を払いのける。

小柄な男が手を取り、その甲にキスをすると痩せぎすの男が首を掴んで引き離し、理世の首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始める。

今度は更に背の高い男が長い腕を伸ばして間に割って入り、理世を抱き上げては最初の背の高い男に奪い取られる。


「……」

理世はうんざりしながらも、抵抗する気力も無く男達の好きにさせている。


洞窟の手前で空中から地上に降下し、皆で歩いて来た。その時からずっとこの繰り返しなのだ。

最初は驚いたり戸惑ったりしていたが、その内一々反応するのは疲れるだけだと気付いた。


洞窟に入り、男達に囲まれて歩きながら、理世は此処に到着する直前に出会った蜂人ほうじんの集団の事をふと思い出した。



彼らはどうやら、”姫”つまり姉の美琴を追って来たつもりらしいのだが、”気配を間違った”とやらで理世の方に来てしまったらしい。


「全く、馬鹿な人達ですね。”姫”と”女王”を勘違いするなんて。あぁ、私達の女王をその卑しい眼差しで見ないで下さい。穢れますから」

「女王…ボクの後ろに隠れて…バカが移っちゃう…」


容赦ない台詞を浴びせる眼鏡と大男に、理世は呆れて物も言えなかった。

理世と美琴は姉妹なのだ。気配とやらが似ていても仕方がないのでは。


ただ、離れた場所で姉の美琴が思っていた様に、理世も美琴と血縁関係がある事は言わなかった。


「蜂人の姫と、どうやって知り合ったのかは知らねーけど、義姉妹の契りを結ぶってのは感心しねーな」

痩せぎすの男にそう言われ、理世は何となくこの世界では”姫と女王”が血縁だとは考えもしないのだと思い至ったのだ。


舌打ちをしながら去って行く蜂人の男、”セグロ”と呼ばれていたその青年は、口調こそ粗野だったものの、顔立ちはなかなか甘く理世の好きなアイドルグループのメンバーに何処となく似ていて、理世は好感を持った。


――そして意識を現在に戻す。

相変わらず騒がしく揉める男達。それを眺めながら、理世はポツリと呟いた。


「さっきの人と、お話してみたかったな…」


途端に静まり返る洞窟内。


「…リセ。今何て言った」

地を這う様な低い声。疲れ切ってぼんやりしている理世は気付かない。


「さっきの人。”セグロ”さん?理世のね、好きな芸能人に似てるの。何か、悔しそうな顔が可愛いなって、思っ…」


そこまで言って、理世はハッと我に返った。

しまった。つい姉と話している感覚で話してしまった。


「ご、ごめんなさい!年上の人に敬語使わず喋ってしまいました…!」


慌てて頭を下げた理世は、其処で初めて男達の様子がおかしい事に気が付いた。

「あ、あの…?」


「リセは今夜オレの部屋で寝かせるからな」

「駄目…。カイザーばっかり、ズルい…。ずっと女王、抱っこしてたくせに…」

「女王に決めて貰おうぜ?今夜、誰と寝るか」

「確かに。ここは公平に決めましょう」

「女王はまだ身体が未成熟だから、手が出せないんだよね?僕ならそれでも色々してあげられるけど」


男達は真剣な顔で話し合っている。

そしておもむろに理世のほうを向き、「今夜は誰と一緒に寝るのか選んでくれ」と言った。


「一人が良いです」

きっぱりと言い切る理世に、男達がたじろぐのが分かった。

いや、当たり前でしょ。何で女子中学生が見ず知らずのおじさん達と一緒に寝なきゃなんないの。


「”オジサン”って何だ?」


しまった。心の声を口にしてしまっていたらしい。って言うか、”おじさん”が分からないってどういう事?


「あ、えっとその、私は15歳なんですけど、その、皆さんは20歳は過ぎてらっしゃいますよね?私的には、同い年位が丁度良くて、皆さんの年齢は年上過ぎると申しますか…そう言う方達と一緒に寝るっていうのはちょっと」


流石に「JCから見るとアンタ等はおっさん」とも言えず、微妙にずれた答えを返す。


「えぇっ!?女王、ちょっと間違えてない!?15歳じゃなくて3歳半位でしょ!?」

「我々は確かに女王よりは年上ですが、カイザーと私とシュバルツが7歳でフォイアーが5歳半、アルメーが5歳ですが…」

20歳になるまでには後52年かかりますよ。


キョトンとした顔の面々を見つめながら、理世は脳内で素早く計算を繰り広げる。


(成程ー、4年に1歳の計算なのね。って事は、カイザー・クーゲル・シュバルツが28歳でフォイアーが22歳、アルメーが20歳の計算になるのか)


何だ。どっちにしてもおっさんじゃん。

…いや待って。違う。私は普通に年取る訳だから、あっという間に私が”おばさん”になるんだ!


そしたらきっと、今は女王だの何だのチヤホヤしといて、あっという間に手の平返して来るんだわ。

うん、きっとそう。男の人って若い女の子が好きだもの。

それで私は、この意味不明な世界に放り出されて野垂れ死にとかしちゃうんだ…!


「そんなの絶対に嫌!」


いきなり大声で叫ぶ理世に、男達は顔を引き攣らせる。


「あの!どうして皆さんの何方どなたかと一緒に寝ないと駄目なんですか?さっきお部屋に連れてってくれるって言いましたよね?いきなり事前説明と異なる事を仰られても困ります!」


立て板に水の如く、つらつらとまくし立てる理世を、カイザーがいきなり抱き上げ噛みつく様に唇を奪い黙らせる。


「んん!?――っ!!」

予想外の行動に、理世は目を白黒させる。角度を変え、続けられるそれに段々意識が遠くなって来た所で、漸く理世は解放され、地面に降ろされた。


「な…何…」

ゲホゲホと咳き込みながら涙目になる理世の顎を掴み「リセ、誰の部屋に行くのか早く決めろ。それから、さっきの様な事は二度と口にするな」


「さ、さっき…?」


「瀬黒の事可愛いとか言ってたでしょ!?酷いよ、僕達の女王なのに!」

頬を膨らませて抗議する小柄な男に、理世は苛立ちを覚える。何、”僕達の”って。私は私なんだけど!


ただ、流石に5人もの男達を前に言い返せる程、勇気がある訳でも無い。


「…ごめんなさい」

但し、内心はまた別。カイザーとコイツは絶対に除外してやるから!


理世は顔を上げ、全員を観察する。


先ずはカイザー。身長は二番目に高くて黒い髪に青い瞳。前髪が少し長目でその下からは鷹の様に鋭い目が覗いている。顔立ちは整っているが、ともかく眼つきが怖い。そして顔に似合わず手が早い。

(”セクハラ陰険黒大アリ”、って呼ぼう。心の中で)


次は小柄な男。アルメー。薄茶色の髪で瞳は橙色。天使の様な可愛らしい顔。でも、どこか腹黒そうな感じ。

それに、意外と自己中な男…!

(”腹黒天使”だな、うん)


眼鏡はクーゲル。長い赤茶の髪を後ろに縛り顔立ちは柔和で優しい。身長は二番目に低い。

瞳は紫で優しくて格好良いけど、ちょっと神経質そう。

(この人は”眼鏡赤アリ”って呼ぼう)


痩せてる人。シュバルツ。カイザーと同じ位の黒髪で黒い目。

ソフトモヒカンっぽい髪型でバンドマンみたいな見た目。

ちょっと乱暴な口調だけど、多分一番常識ありそう。でも、あの直ぐ匂い嗅いで来るのがやだ。

(”アリバンドマン”で良いか)


5人の中で一番の大男は確かフォイアー。クルクル巻いた様な紺色の癖っ毛。鼻筋は通っているが、前髪が目元を覆い隠しているので顔立ちは良く分からない。

…ずっと片手に持っている魚?か何かのぬいぐるみがちょっと怖い。

(ぬいぐるみ大男)


――正直、どれも嫌だ。

でも強いて言うなら眼鏡か大男のどっちか、かな。

今日は疲れたし、取り敢えず言いなりになってくれそうなのは…


「じゃあ、フォイアーさんのお部屋で休ませてください」


「なっ!リセ、何故オレじゃないんだ!」

…逆に何で選ばれると思ったのかな。いきなりキスして来たり脅して来たり、散々やっておいて。


「ねぇ!僕ならいーっぱい癒してあげるよ!?今はまだ色々ヤッちゃうと女王のカラダが壊れちゃうから手出せないけど、ギリギリまでの事してあげるから!」

…危ない。やっぱり選ばなくて良かった。


「私にしておきなさい、女王。優しくしますから」

…うーん、ぬいぐるみ大男と迷いはしたんだけど、何だかお小言とか食らいそうだから。ごめんね?


「なぁ女王、そしたら脱いだ服だけでも貸してくれよ!匂いで我慢するから!」

…キモッ!!最低!!


「女王…ボクの事選んでくれた…嬉しい…」

「きゃあっ!」

嬉しそうな大男に突然抱き上げられ、理世は思わず悲鳴を上げた。

覗き込んで来る顔の、前髪の向こうに微かに見える瞳は金色をしている。


「可愛い…」

スリスリと頬ずりをして来る大男に若干引き気味になりながらも、まぁ害は無さそうだし、と耐える。


「はぁ、こんな事なら当初の予定通りに女王に個室を与えておけばよかったですね」

ブツブツ言うクーゲルの横を、理世を抱いたままの嬉しそうなフォイアーが通り抜けた。



「ねぇ女王…」

「理世、で大丈夫ですよ?」

カイザーだけに名前呼ばれるのも何だか癪に障るし。


ホント…?と嬉しそうに笑う大男の顔を見て(ちょっと可愛いかも)と少しだけ、キュンとした。


フォイアーは門番にボソボソと声をかけ、城門を開けさせる。

開いた門の向こうには、大きな長い階段が地下に向かって続いていた。


階段は乳白色の半透明で、ボゥッと淡く光っている。

「すごーい、綺麗!」


腕の中から身を乗り出す様にして階段を覗き込み、目を輝かせる理世を見てフォイアーは口元に小さく笑みを浮かべた。



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