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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
31.王の器

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5

 大きな物音と共に開け放たれた扉に、2人とも呆気にとられた。

「ルッカ?」

「姫様、大変でございます! カースウェルが! レダン王が!」

 息を切らせたルッカが珍しく慌てふためいている。

「そこから先は、私が口上を述べよう」

 ルッカを押し退けて、鎧に身を固め、帯剣したレダンが入ってきた。

「サリストア? なぜここに居る?」

「それはこちらの台詞だろう」

 サリストアがちらりとレダンの背後に目をやった。付き従う兵士は数十名、軍と行ってもいいぐらいだ。

「えらく物々しいじゃないか」

「当然だ」

 レダンが冷ややかに笑う。

「カースウェルはハイオルトを侵略しているんだからな」

「は?」

「侵略?」

 サリストアがぽかんと口を開け、シャルンが問う。

 2人に構わず進み出たレダンに、サリストアがはっとしたように剣を押さえて身を引いた。

「そうか……そういうことか!」

「…レダン…?」

 久しぶりに見たレダンは少し窶れているようだった。短い髪が脱いだ兜に逆立ち、鬱陶しそうに掻き上げる仕草も懐かしく、シャルンは胸が一杯になる。

「おひさし、ぶりで…」

「ハイオルトのシャルン王」

 言いかけた挨拶は黙殺された。

 鋭い剣が突き出され、シャルンは息を呑む。

「城下にもカースウェルの兵が溢れているそうです」

 密かに近寄っていたルッカが囁くのに、顔を上げた。

 何がどういう行き違いを生んだのかは知らないが、今レダンが向かい合っているのは妻のシャルンではなく、ハイオルトの王なのだ。

 それならば、毅然と答えなくてはならないだろう。

 ルッカを庇い、シャルンは剣の切っ先に進み出た。

「どのようなご用件でしょうか、カースウェル王」

 レダンがいきなり微笑んだ。優しく切なげな笑み、今にも駆け寄り抱きしめそうな。

「私に屈服なさい、砂糖菓子の姫」

 ことばとは違い、声は甘く、懇願している。

「あなたは男の執着というものをご存知ない」

 瞳が食い尽くすようにシャルンの一挙動を見つめた。

「カースウェルのケダモノが、一度手にした獲物を手放すわけがなかろう?」

「……レ…ダン…」

 レダンの背後にゆっくりと現れた、マイン伯、ユルク伯、ティルト伯、そして『辺境伯』バラディオスの姿さえ見えた。どの顔にも不安はない、心配もない。然るべき手順が成されただけだという安堵さえ窺える。

 理解がようやく追いついた。

 これは密かに定められ準備された出来事、したたかで諦めの悪いカースウェルの王、レダン・カースウェル・レスタスの企みだったのだ。

「あなたはカースウェルから離縁され、祖国に戻って国を建て直そうとしていたところ、気まぐれで強欲な王に再び攫われた悲劇の王妃。おまけに国はカースウェルに蹂躙され、その領土として飲み込まれる」

 歌うようにレダンは続けた。

「レダン…私は…」

「何と非道な王だろうな、俺は?」

 これは本当の出来事だろうか。

 シャルンは震えながら思う。

 脳裏をこの2ヶ月の孤独と傷みが走り抜ける。

「…そういうことにしておいて……戻ってくれないか、シャルン?」

 あなたのいない夜を耐えるのが、もう限界だ。

「我が元に、戻られよ、最愛の妃」

 剣を突き出し脅しながら、レダンはもう片方の手をそっと差し伸べる。

 その指先も震えていた、シャルンと同じく、再び運命を重ねる期待に。

 煙る藍色の瞳をせめてもう一目見たいと、どれほど願っていたことか。

 ようやく被った王の仮面が剥がれ落ちる。

「…っっ!」

 飛びつくシャルンにレダンが慌てて剣を下ろした。

「めんどくさい男だな、全く」

 ほっとしたようにサリストアが息を吐く。

「ほっといてくれ」

「昔からこうですよ、この人は……欲しいものを我慢した試しがない」

 ガストが溜め息をつき、時ならぬ笑いが部屋に満ちる。

「この鎧は本当に邪魔だな、あなたの温もりを感じられない」

 レダンはそれでももう一度、シャルンをしっかりと抱き締めた。

「ハイオルトは俺が守る、あなたと共に、永遠に」

 耳元で囁く声は濡れている。

「もう二度と、離れるな」

「はい……はい……っ、陛下っ、陛下っ…陛下…っ」

 涙で溢れた視界からレダンを見失うまいと、シャルンもまた必死にしがみつく。



 かくして。

 カースウェルのレダン王は、出戻り姫を5度目に国に戻したのにも関わらず、未練がましい欲望でハイオルトを蹂躙し、再びシャルンを攫っていった「極悪非道の奔流王」として、広く世間に知れ渡った。




                             終わり


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