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「そこまでだ」
レダンが面白くなさそうに割って入った。
「お前は語り出すと長い」
「振ったのはあんたでしょうが」
むっとして唇を尖らせたガストは、
「まあ、お陰様で念願の採石場をじっくりと調べる機会にも恵まれましたしね」
楽しそうに1人頷いて、少し離れてもいいでしょうかと許可を求めてきた。
「夕方には戻れよ、今後の策を打ち合わせるからな」
「わかりました」
いそいそと離れて行くガストの足取りは軽い。
「嬉しそうですね」
「この前は早々に離れなくてはならなかったから、十分に調べられなかったとぼやいていたしな」
見送ったレダンは、周囲を見回しひょいとシャルンに手を差し出す。
「?」
疑問に思いつつ手を乗せると、あっという間に抱きしめられて口を重ねられた。
「っ、へい…っ」
抵抗は本気ではないから、もう一度重ねられて、それでシャルンも気が緩むのを感じた。
「体が冷えている」
名残惜しく唇を離し、抱え込むように坑道へ向かいながらレダンがぼやく。
「ガストが長々と講釈を垂れるからだ」
「でも、面白うございました」
シャルンは拗ねた口調のレダンが可愛くて微笑む。
「まだまだ知らないことばかりです、私の国なのに」
坑道の入り口で、重々しく車を押してくる男達とすれ違う。岩を砕くもの1つ持っていないシャルン達を、男達は気にした様子もない。周囲に注意を払うほども気力が残っていないというべきか。
坑道の中には所々に小さな明かりが灯されていた。弱々しく動く光、これでは手元を照らすどころか、傷つけないだけでも一苦労だろう。岩盤を太い木組みが支えている。不器用に打ち込まれた釘が錆びかけていて、長年碌な補修もされていないのかも知れない。
「…崩れはしないのですか」
「崩れることもある」
レダンの低い声が陰った。
「その時中に居るものは…」
「生き埋めになるさ」
あなたは気づかなかったが、採石場の小屋とは逆の一隅に、小さな囲いがあった。
「あれは戻らなかった者を悼む場所だろう」
「……私の国は」
シャルンは薄暗い坑道の中をじっと見つめた。奥の方でがつりがつりと音が響き、引きずりながら歩く音が聞こえ、それらの隙間を縫うように深い吐息のような気配が届く。
「これほどの犠牲を払って成り立っているのですね」
そうしてよくわかりました。
「ミディルン鉱石は枯渇などしていない」
シャルンはもう一度周囲を見回し、思い返す。
薄紫の帯のように見える場所は、まだ山の小高い中腹にもあった。そこへの通路と思しき坂道も作られつつあった。
「命懸けで集めているこれらの石を、王家は正しく使わなくてはならない」
少なくとも、一部の者の贅沢や楽しみのために使い尽くされてはなりません。
「…シャルン?」
「はい」
沈んだ声のレダンが囁いてきて振り仰ぐと、
「あなたはもう俺の側には居ないんだね?」
「え?」
「さっきからずっと、あなたは『私の国』と言っている」
ここを。ハイオルトを。
「あ」
潤んだ藍色の目が伏せられた。甘えるように唇を重ねてくるレダンが、そっと呟く。
「それが…すごく、辛い」
「へ…いか……」
ちゅ、ちゅ、とキスが繰り返される。
受け止めながら、シャルンも胸が甘酸っぱくなった。




