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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
29.『虹の7伯』

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1

 手はずが整ったとバラディオスが迎えに来たのは2日後だった。

「何があっても驚くなよ?」

 悪戯っぽい顔で確認してくるのに、レダンは察したようで、

「武器の類は渡してくれと続くんだろうな?」

「その通りだ」

 相変わらず朗らかな顔で手を出す相手に、シャルンは緊張しながらレダンを見やる。

 万が一、バラディオスがベーツ伯と通じていたら。

 或いは全く違う意図でシャルン達を捕まえるつもりだったら。

 それぐらいの不安を抱えるほどには、多くの情報に接していた。

 例えば、採石場には思ったよりも多くの男達が送り込まれていて、集めて訓練すれば軍を組織できるかもしれないこと。

 例えば、採石場に関わっているのは『虹の7伯』の内、ベーツ伯、シャルテ伯、バーン伯、トライステ伯、マイン伯であり、残りのユルク伯、ティルト伯は足を踏み入れたこともないぐらい、遠ざけられていること。

 例えば、バラディオスが仕切る市場には多くの品物が流通しており、時には国外の商人さえやって来て売買しているが、その交流についてシャルンは見たことも聞いたこともなく、おそらくはハイオルト王も同様であろうこと。

 そしてその流通は、城下を避けてハイオルトの外周を回る商隊が担っており、彼らはそのカラクリを知るが故に、国の基盤となる外貨を稼ぐために輿入れするシャルンに、密かに同情心を抱いていること。

 始めは確かに国を思っての施策だったのかも知れないが、実り少なく罪悪感を伴う輿入れに辛くなり、籠もってしまったハイオルト王はその適性を判断する機会を自ら放棄していた。

 ハイオルト王家は欺かれている、他ならぬ信頼を置く『虹の7伯』に。

「では頼もう」

 レダンは隠していた短剣を差し出し、ガストも同じように振る舞う。バラディオスは受け取ったものをじっくりと眺めながら、

「良い造りだ」

 微笑みながら褒めた。

「手放すのは惜しかろう」

 ぞっとした。

 思わずシャルンは二振りの剣を懐に片付けるバラディオスの横顔を見つめる。

 まるで、短剣が二度と主の元に戻らないような言い草ではないか。

 その危惧を聞き取ったように、バラディオスは頭の横に手を差し上げ、ぱちりと指を鳴らした。

 背後の扉が荒々しく開け放たれる。

 それより僅かに早く、シャルンはレダンのマントの背後に隠された。緊張に急いでマントを握り締めれば、

「王家に対する反逆の意図がある」

 相変わらず明るいバラディオスの声が朗々と響き渡った。

「この3名を捕らえよ」

「っ」

 それではこれは罠だったのか。

 シャルン達は予想もしない敵の仕掛けの中に飛び込んでしまったのか。

「静かに」

 震えるシャルンの体にそっと触れ、レダンが囁いた。

「け、けれど」

「大丈夫」

 レダンの声は静かだ。まるで峻険な山の中に立つ聖なる城のようだ。

「私がいるのだから」

「…はい」

 そうだった。

 ふいに緊張が解けた。

 シャルンは誓っていたのだった。どこまでもレダンに付き従うと。たとえレダンが破滅の中に突き進もうとシャルンは必ず随行すると。

 ばらばらと開け放たれた扉から兵士が入ってくる。シャルン達を囲み、剣を示して部屋から出ろと命じてくる。

 その中でシャルンはレダンを見上げた。

 見下ろしてくる藍色の瞳は怯えていない、揺らぎもしていない。ただただ穏やかに微笑んでいる。

 何を狼狽えることがあろう、たとえどのような場所に向かうとしても、どのような最後を迎えるにしても、1人朽ち果てていく未来を思った昔に比べれば、この温もりの側で失う命ならば悔いはない。

「はい…」

 微笑み返した。

「はい、ラグン様」

 先に立つレダンに従い、背後をガストに守られて、シャルンは宿の階段を降り、酒場を抜けて『水晶亭』を出た。

 外には黒塗りの厳しい馬車が横付けされていた。後ろの扉から押し込まれるように乗り込む馬車は、囚人護送のものであると知っている。周囲には物見高い人々が集まり、事の次第を息を詰めて見守っているようだ。

「ご苦労だったな、バルド」

 護送の隊長と思われる男が笑いながら重そうな革袋を手渡している。

「よく寸前に捕まえた。マイン伯もお喜びだ」

「滅相もない」

 バラディオスは静かに頭を下げる。

「バーン伯、トライステ伯にも便宜を図って頂き、いつも感謝しております」

「『先読みのクレラント』の名に恥じず、今後も働けよ」

「はっ」

 バラディオスは受け取った革袋を満足そうに確かめ、薄笑みを浮かべ、側に控えるソルドに手渡す。ソルドは革袋を両手で抱え、一瞬案じるようにシャルン達を見やったが、すぐに目を背けた。


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