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「実は、この子はハイオルトの出身だ」
「ほう」
興味深くバラディオスはシャルンを眺める。
「酷い傷だな」
「大火事で家族共々焼けただれた……と聞いていたが」
レダンは声を潜めた。
「本当の所はもっと話が複雑でな、盗賊団が村を荒らし、両親を連れ去り、この子の残る家に火をつけたらしい。その後の調べで両親は北の採石場に送られたと聞いた」
「…なんてことだ」
一瞬口を噤んだバラディオスは唸った。
「シャルテの火事か? それともベーツの人攫いか」
レダンは素早くガストを見やり、ガストが微かに頷き返す。
「心当たりがあるか」
「……残念ながら、な」
忌々しそうにバラディオスは眉を寄せる。
「王が城に籠られがちなのをいいことに、好き放題しているらしい。採石場にも次々人を送り込んでいると聞くが、枯渇しかけたミディルン鉱石に人手などいるものか。不興を買った者を牢屋がわりに送り込んでいるとも聞く」
ソルドもそう言う一味に攫われかけたのを俺が保護した。
「この国は、遠からず滅びるぞ」
不吉な予言と思った以上の惨状に、シャルンは固くこぶしを握り締める。それに気づいたのだろう、バラディオスが視線を和らげ、
「ソルド、この子に何か飲み物を」
「はい」
「……そう怯えるな」
赤髪の少女がすぐさま立ち去るのに、バラディオスは優しくシャルンに微笑みかけた。
「いっそこんな国は滅びてしまえばいいのかも知れない。お前のように国外へ逃げて、ステルンやダスカス、いやシャルン様の嫁がれたカースウェルへ行った方が幸せかも知れないぞ?」
「でも…」
シャルンは思わず口を開く。
「ハイオルトの……人々が…」
「なんとか生きていくさ、俺のように」
苦しげな笑みが広がる。
「国が無くなっても、飯は食わなくちゃならんし、生きていかなくちゃならんのだから、なんとかするさ、それぞれに。第一、ハイオルトはもう、とっくの昔に国民を見捨ててるだろ?」
「っ」
「唯一、国民のためにと何度も何度も輿入れをされたシャルン姫さえ、もうこの国にはいないんだ。見送りさえ禁じられたが、あの方だけは幸せになって欲しいと祈ってる」
「わ、たし、は」
見捨ててなぞいない。
そう叫びたかったが、寸前強く肩を抱かれて、シャルンは思い止まった。
「それでも、この子は両親に会いたいらしい」
非情にも聞こえるほどの静かな声で、レダンは続ける。
「北の採石場に連れて行ってやりたい」
「……」
バラディオスはしばらく考え込んでいた。
飲み物を持ってソルドが戻ってくる。硬く強張った顔に何とか笑みを浮かべて、シャルンはコップに注がれた甘い水を飲んだ。
「…美味しい……ありがとう、ございます」
ソルドが一瞬目を見開き、やがて少しずつ赤くなる。俯いて小さな声で呟いた。
「どう、いたし、まして」
こんな少女が攫われて。
シャルンは唇を噛み締める。
止めなくては。
何としてでも、今ハイオルトで行われている非道を止めさせなくては。
やがて、バラディオスは何かを決心したように、シャルンを凝視した。
「わかった」
一息つく。
「マイン伯に繋ぎをつけよう」
だが、その為には少々危ない橋も渡らなくちゃならない。
「今の宿屋を引き払い、この2階へ宿を移せ」
「2階へ?」
ガストが思わず確認する。それでは丸々『敵』の手の中に包み込まれてしまうのではないか、そう言う不安を浮かべてレダンを見たが、レダンはあっさり頷いた。
「有難い。そうさせて頂こう。俺の名はラグン。これは友人のグスト。従者のサールだ。改めてよろしく頼む」
「任せておいてくれ」
バラディオスは朗らかな笑みに戻った。
「ただし数日時間が欲しい。その間、旅の疲れを癒し、ゆっくりしていてくれ」




