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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
28.『水晶亭』の主人

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3

 奥の間仕切りをした一角で、バラディオスは面白そうな顔をしながら、レダン達を眺めた。

「話はおおよそわかった。ステルン王が、大量の宝飾を手放しているのは俺も知っている。まるで人が変わったような振る舞いらしいな」

 テーブルに載せられた銀のコップを差し上げ、一口飲んで見せる。

「女1人に人生を変えられるなど、馬鹿げた話だ」

 ガストがちらりとレダンに視線を走らせたが、レダンは平然と同じようにコップを差し上げて応じた。

「よほどいい女だったんだろう」

「拝みたいものだ」

 レダンがためらいもせずにコップから一口酒を飲むのに、満足した顔でバラディオスは続ける。

「夜がいいのか昼間がいいのか……まあ女は夜さえ良ければいいがな」

「夜も昼もと言うのが男の本音だろう」

 レダンがくすくす笑う。

「違いない」

 新たな酒を自分のカップに注ぎ足し、ついでレダンのコップに注ぐ。

 賢明な方だわ。

 シャルンは2人のやり取りを眺めながら考える。側に座るガストが緊張した顔をしているから、この会話が見えているほど穏やかなものではないのはわかる。そうだ、『水晶亭』の主人は、レダンに礼儀を示しながらも試し続けている。

 交渉するに足る人間か否か。

 話し続ける価値がある人間か否か。

「?」

 ちか、と視界の端で何かが光ったように思えて振り向くと、間仕切りの向こうで微かな衣擦れの音がした。酒場の賑わいに紛れるほどの音、ただそのリズムが今まで聞こえていたどんな音より素早く響いて、シャルンは顔を引き締める。

 誰かが間仕切りの向こうに潜んで様子を伺っている。

 こう言う時に従者はどうするものかしら。

 主人は訪問先の主と親しげに酒を酌み交わしている。となれば、今不審を暴き立てるのは好ましくない。

 ならば。

 シャルンはそっと座る位置をずらせた。

 ガストの居る場所はレダンより奥まっており、間仕切り側から何かが飛び出して来ては防げない。間にシャルンの体が入れば、少しの間の時間は稼げるはず。

「…ソルド」

 ふいに会話を楽しんでいたはずのバラディオスが口調を変えた。

「必要がない」

「…はい」

 静かに応じる声がして、間仕切りの向こうから燃えるような赤い髪の少女が現れた。じゃりんと不気味な音を立てて、手にしていた剣を鞘に納め、バラディオスの背後に仁王立ちする。

「非礼を許して頂きたい」

 バラディオスが微かに苦笑した。

「これは俺の守りの剣でな、俺が1人で客と会うのを好まないのだ」

 だが、あんたにも身を捨てて庇う従者が居るのだな。

「誰かに命を捧げられる男は信用していいと決めている。改めて話を聞こう」

 バラディオスは酒のコップを横へ退けた。

「…ステルンから放出された宝飾品は買い取ろう。もう1つの人探しとは何だ?」

「…この子のことだ」

 ぐいと肩を抱き寄せられて、シャルンは驚いた。

「ラグン様…っ」

「うろたえるな、サール」

 静かにレダンが命じる。

「バラディオス殿に力を借りよう」

 覗き込まれてシャルンは頷いた。なぜだかよくわからないけど、レダンは『水晶亭』の主人を巻き込む気だ。


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