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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
27.潜入

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 泣かれてしまった。

 揺れる馬車の中、レダンは溜め息混じりに短髪を撫でる。

 レダンの黒髪は印象的で、諸国訪問を繰り返したから、長髪をなびかせる姿も目立つようになってしまっている。シャルンが短い髪ならついでにいいかと、それぐらいの気軽さで切ってしまったのだが、シャルンには衝撃だったようだ。

「…実は長い髪の方が好きだったとか」

 唸るレダンに前に座ったガストがぬるい顔をする。

「大丈夫ですか、そんな甘くて」

「何が」

「一応敵地に入るようなものだとはわかってるでしょうね?」

「…ああ」

 隣のシャルンは昨夜もあまり眠れていなかったのだろう、馬車に乗るや否や眠気に襲われてしまったらしく、今はレダンに凭れて眠っている。膝枕でもいいのだが、レダンとガストはステルンの辺境から仕事を探しにハイオルトに来たことにしており、シャルンはレダンの従者ということなので、万が一誰かに見られるとまずい。もっとも、主人に凭れて眠る従者などあり得ないのだが。

「しかし、恥もプライドも投げ捨てますね、奥方様のことになると」

「…」

「まさかステルンに協力を求めるとは」

「カースウェルから来たと言ったら警戒されるだろうが」

「しかも通行札まで用立ててもらって」

「一つ借りだと言ったんだが、シャルンに救ってもらった恩の欠片にもならないとか抜かしやがる、あのガキ」

「同い年でしょう」

「…神経がガキなんだよ」

 シャルンは俺のものなんだから、惚気るのも自重しやがれ。

 唇を尖らせるレダンに、ガストはやれやれと肩を竦めた。

 国境近くでシャルンを起こして馬車を降り、灰色の古びた門に立つ兵士に通行札を見せると、一人がにやにやとフードを被ったシャルンを覗き込もうとする。

「えらく小柄な従者だなあ?」

「身の回りのことしかさせていないので」

「こんなにちっこくっては役に立たんだろう、どんな顔をしてるんだ」

「すまぬ」

 レダンがさりげに兵士の視線を遮ると、相手は不快そうに唇を歪めた。

「なんだ、その振る舞いは」

「実はひどく醜いのを気にしていてな、だからフードを被せているんだ」

「構わねえよ、俺達はなあ?」

 げらげらと笑い声が起こった。

「よくあるのさ、従者と偽って馴染みの女を連れ歩く奴が」

 またげらげら笑う。

「そういう奴なら、そりゃあとっくり調べなきゃならん、なあそうだろう?」

 背後を振り返ると、そうだそうだと囃し立てる声が続いた。

「ということで、醜かろうが無様だろうが、なあにちょいと時間をもらえば済む話だ、通行札だって偽物でもなかろう、ああん?」

 暗に相手をしないと通行札を偽物だと騒ぎ立てるぞと脅してくる兵士に、ガストが冷ややかな殺気を放つ。軽く手で制して、レダンは溜め息をついてシャルンのフードを取った。

「見て楽しいものではないと思うがな」

「どれどれ……おおっと」

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