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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
26.ハイオルトの真実

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 あれほど民が飢えているのに、シャルンはなぜ馬車などで見回っていたのだろう。

 幽かに幽かに違和感が広がってくる。

 今日の食べ物がない者を目にして、自分達が潤す財力を持たないと嘆いたベーツ伯は、なぜ金鎖などで身を飾っていたのだろう。

 カースウェルでは王族でも式典の時にしか宝石類を身に着けない。馬車は女子どもか足腰の弱い者が使うもので、健康な大人は徒歩か馬で移動する。通りを掃除する仕事があり、親達が働いている間子どもを見守る仕事があり、それらにはきちんと報酬が払われる。

 カースウェルでは子ども達は路地に座り込んでいない。子ども達にもふさわしい仕事と役割があり、それらは国のために必要なものだと幼い時から教えられる場所がある。

 例えばあの時、ベーツ伯が金鎖を売り、シャルンが馬車から降りて馬車を売り払い、そのお金で食べ物を買ったら、通りのどこまで潤せただろう。

「…レダンなら…するわ…」

 全部が潤せなければ、まず目についた者から。それから足りない物と量を確認し、それを調達する手立てを即時考えにかかる。間に合わなければ城のものを持ち出すだろう。自らの手で運ぶだろう。

 民はそれを知っているから、待って欲しいというレダンのことばを信じ、急場を協力しつつ凌ぎ、自らの手で立ち上がろうともする。

「お父様は……何をしておられた…かしら…」

 思い出そうとしても、浮かぶのは玉座に疲れ切った顔で報告を受け続けている白い顔ばかりだ。

 ハイオルト王はどこかへ視察に出かけただろうか。

 ハイオルト王は閣議を開き諸侯の意見を求め施策をまとめただろうか。

 ハイオルト王は過去の書物を調べ新たな知見を得ただろうか。

 今思い出されるのはこれまで訪問してきた数々の王達の振る舞いだ。

 ステルン王は華美を抑え辺境の開発に乗り出した。

 ラルハイド王は軍備を見直し諸国と友好和平の道を選んだ。

 ザーシャル王は古い祭りを国の産業に高め交流商業に発展させた。

 ダスカス王は遺跡から学び新しい産物を生み出した。

 アリシア王は旧弊を廃し新しい王を打ち立てた。

 どの国の王も、国を守り栄えさせるために、時に自らを削り正して道を選んでいる。

「…ハイオルトは…何も……してこなかった……?」

 国の傷みを憂えるシャルンでさえ、諸国に嫁ぎ断られて見舞いを受け取る、それだけを繰り返してきたのではないか。

「…っ」

 ふいに顔が熱くなった。鏡の中の顔が見る見る真っ赤になっていく。

「私、は…っ」

 なんと恥ずかしいことをしていたのだろう。

 確かに誠意は尽くそうと努力はしてきた、断られる痛みにも文句を言わず、どんな扱いをされても粛々とただ耐えてきた。

 けれど今思えば、受け取った見舞金は、確かにハイオルトに必要な掛け替えのないものとなったが、渡してくれた諸国にとっても貴重な掛け替えのない、本来ならば自国を潤すべきものだったのではないか。

 それをシャルンは我が身一つ晒すだけで、当然のように受け取ってきてしまった。

 しかも、その問題を解決するために、レダンまで巻き込もうとしている。

 今からでも急ぎレダンに付き添いの断りを入れるべきか、それとも。

「どう、しましょう…っ」

 カースウェルに来て、幾度目かの困惑を吐き出した途端、

「どうした、シャルン」

「陛下、わた……っ」

 背後から聞こえた声にほっとして、鏡の中からレダンを見つめた顔が一気に青ざめた。

「へ、陛下…っっ?!」

「ん?」

「その、御髪は…っ」

 信じられずに振り向く。

「ああ」

 近づいて来ながら、シャルン同様短く切った髪の毛に手を乗せ、レダンが照れ臭そうに笑う。

「似合うか? 潜入するなら、いっそこの方がいいかと思ってな。それに昔こういう髪を……シャルン…っ?」

「へいか…へいか……わたくし……いったい…どうしたら…っ」

 慌てて駆け寄ってくるレダンの前で、シャルンは泣き崩れた。 


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