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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
26.ハイオルトの真実

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2

『変身はね、成り切ることが肝心だからね』

 カースウェルの自室の鏡の前で、シャルンはサリストアのことばを思い返す。

『その者の真似をするというよりは、その者が暮らしている環境に居るって考えたほうがいい』

 鏡の中から見返してくるのは、耳の後ろあたりまでに短く切られたくるくるした金髪をまとめ、洗い晒した粗末な上着とズボンを身につけた少女だ。手足がか細く伸び、哀れな雰囲気この上ない。

「…陛下は……お嫌い、でしょうね…」

 しょんぼり呟き思わず美しいドレスを振り返りかけてはっとし、首を強く振る。

「だめだめ、シャルン、ちゃんと諦めなくちゃ」

 それでも足りなくて、両掌でぱんぱんと頬を叩いた。

 髪を切る時に席を外したほどだから、レダンは短い髪が嫌いなのだろう。来た時にドレスをたくさん選ばせたほどなのだから、みすぼらしい格好も好まないのだろう。

 もう一度鏡の中を覗き込む。

「私は…ハイオルトの下町に居た…」

 言い聞かせるように囁いた。

「毎日のご飯も碌になくて、いつもひもじくて、寒くて、凍えて…」

 脳裏を過ぎった光景にぞくりと身を竦める。

 馬車での巡視の時だった。

 埃と泥の中に座り込んでいた少女。痩せこけた頬に虚ろな眼差し。投げ出した膝には無数の傷が手当もされずに放置されていて、膝さえ覆えぬ短い衣服の上に小さな箱が乗っていた。

『あれは何?』

『痛ましいことです、シャルン王女。我が国の未来を支える子どもが、あんな風に捨て置かれて』

『何をしているの?』

『物乞いです。道行く者から今日の食べ物をもらうのです』

『…では馬車を止めて与えなくては』

『お待ちください、殿下』

 ベーツ伯はシャルンの手を抑えた。

『1人に与えれば、あの通り全てに与えなくてはなりません』

 示された場所には、確かに同じような子ども達が点々と座り込んでいる。

『お、親達は』

『働いておりますとも、北の採石場で。けれどしかし』

 じゃらりとベーツ伯の胸元で金鎖が揺れる。

『ミディルン鉱石の産出は減っております。働き手もそれほど多く必要としません。仕事がなければ、食べ物も手に入りません』

『では国庫からの支出を。そうでなければ、何か新しい仕事を』

『私共もなるべく多くの者を雇い入れておるのですよ。けれど我が国は産業に乏しく、国庫も尽きかけております。殿下のお働きのみが唯一、ハイオルトを支えているのです』

 思い悩んだような声が今も蘇る。

「…違うわ」

 シャルンは鏡の中を覗き込む。

「あの子と私は違いすぎる」

 白く傷のない手足。艶のある肌。みすぼらしくとも洗濯が行き届いたお仕着せ、短くはあっても豊かに光を跳ねる髪。

 哀れな雰囲気かもしれない、だが、下町で座り込んでいたあの少女とは厳然と違う。

「……違う……」

 シャルンの脳裏に煌めく金鎖が過ぎった。

「…なぜ…?」

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